第45話 一時の終わり
「突撃しろダミアン」
ヘラルトは空いた穴の中にダイナマイトと手榴弾を投げ込み、遅れてきた爆発音のあと重機関銃を突っ込んで射撃を始めた。
「誰かいるか!? 正義の味方が審判のラッパを吹きながら来てやったぞ!!」
ヘラルトの援護を受けながら、ダミアンは中へと侵入、階段から一挙に三階まで駆け上がりあとはひたすら内部を見て回った。
味方に向かって機関銃を撃つ敵に、狭い通路で弾薬を運ぶ敵に銃弾を浴びせていく。壁内部の掃除だ。
「要塞砲にはどっちに行けばいい? 教えてくれよ。生きていたかったらな」
「む、向こうだ! 頼むからやめてくれ!」
武器を抜く間もなくダミアンに取り押さえられた敵、情けなく情報を吐いた。銃を頭に突きつけられた状態では仕方がないだろうが……
「ありがとさん」
乾いた音が3発、壁の中で響く。
「アントン、稼働してる要塞砲はあといくつ残ってる?」
『今4つが生きてる。それと下部にある野戦砲を止めてやればもっと楽になるだろう』
「先に要塞砲を片付ける。そのあとで野戦砲をやろう」
ヘラルトとダミアンは通路を通り、見つけた部屋には片っ端から手榴弾やダイナマイトを投げ込んでいく。いくつもの爆発音が響き渡り、その度に敵の絶叫が木霊する。
「多分あれだな。このまま突っ込むぞ」
ヘラルト達の目の前に砲弾を装填するための装置が見えてきた。そしてそのそばには慌てて拳銃を抜こうとする敵の姿もある。
「よう幸せかお前等!」
横薙ぎにダミアンが短機関銃を発砲、敵は倒れた。
「よしよしヘラルト。ダイナマイトの出番だ。ここらへんのを全部吹っ飛ばしてやれ」
「ああ。ちょっと赤い花火を見せてやる」
ダイナマイトに点火し、装置や小さな弾薬庫の中にそれを投げ入れた。
「次だ。行くぞ」
「あいよ」
次の目標を探して、ヘラルト達は走り出した。
『ヘラルト。要塞攻略に手が空いた軍が援軍に来てくれる。ただ1機だけだがな』
「1機? 戦闘機か何かか? いずれにせよ1機じゃ話にならん」
アントンの声にヘラルトは苦言を呈した。が、何故かアントンは声を押し殺して笑っているようだった。
『まぁ役に立たないかどうかは実際に見てみるんだな。さて仕事の続きだ。正面はもうアダラの支援が功を奏して軍人共が侵入しつつある。お前は引き続き要塞砲を破壊しろ』
「……了解だ」
釈然としないながらもヘラルト達は前へ前へと進んでいった。
『ヘラルト! 待て! 今すぐ引き返せ!』
そのまま次の要塞砲を落そうと走り出した瞬間、ヘッドホンから焦った様子のアントンが声をかけてきた。
「おいヘラルト! 止まってばっかじゃ撃たれるぞ! それとも俺にケツを蹴り上げられるのを待ってるのか?」
これにはダミアンも怒りをあらわにしたが、次に聞こえてきたアントンの声にヘラルトも納得した。
『『モステルド』だ!! 毒ガスだ! 毒ガスが中で使われてる! そこもすぐに飲み込まれるぞ!』
ヘラルトは血相を変え小さな銃眼から要塞内を見る。
「ダミアン逃げるぞ。あいつら自爆するつもりだ」
「ああ? ……ちょっとこれはまずいな。退くぞ」
ヘラルトを押しのけて銃眼を覗き込んだダミアンはヘラルトを置いて全力で逃げて行った。
ヘラルトも走った。後ろを少しだけ見れば黄色い煙が迫ってくるのが見える。それと同時に聞こえてくる敵の咳も。
──味方の損害も何もお構い無しか。ルベルの連中め。
『モステルド』それは先の大戦で最も使われた毒ガスで、現在ムステルを合わせて周辺5ヶ国で使用が禁止されている兵器だ。
黄色い煙で、吸い込めば数時間後に水疱や重度の肺水腫を引き起こす。
効いてくるのは数時間後である。だがその毒ガスはルベルの人間には反撃の機会を作り出すものになった。
「げっほげっほ、やれ! ぶち殺せ!」
「ぐふっ、やっちまえ! ルベルの恐ろしさを見せつけてやるんだ!」
敵は勢いを取り戻した。機関銃を逃げる軍人に撃ち込み、野戦砲が再び稼働し始めた。
「あいつら正気じゃないな。マスクも無しに撃ってきてる」
「ヘラルト、あれはマスクで防げるもんじゃない。専用の装備がいる。そういう意味でも狂ってるけどな」
廊下を走り、階段を転げ下り、もと来た壁の穴からヘラルト達は出た。
「ふぅ、空気がうまいぜ」
安堵するダミアン。
『ヘラルト! ボサッとするな! 上だ!』
ダミアンの隣でダイナマイトの点火をしていたヘラルトはヘッドホンから聞こえてくるアントンの声に上を見る。
「……本当に、マフィアってやつは」
思わずため息と共にそんな言葉を吐き出した。
ヘラルトが見たのは空を舞いながら爆弾を投下していく無数の爆撃機の姿だった。




