第43話 葡萄畑より
アダラによる砲撃と共に、ヘラルト達は軍人達と一緒に走り出した。
要塞の周囲には葡萄畑が広がっている。だが先日のルベルによる攻勢のせいか荒れ果てていた。撃破されたレウがそこかしこで見られ、収穫間近の葡萄は履帯で踏み荒らされていた。
『ヘラルト、エムレダムはただの基地じゃない。要塞基地だ。そこが落ちてルベルに奪取されたなら、相当な手練れがそこに集まってるはずだ。くれぐれも気を付けろ』
「了解だ」
『……それともう1つ。隣にいるダミアンのことだが注意しておけ。おかしな行動をしたら迷わずに撃て』
ヘッドホンから聞こえるアントンの声はやけに真剣で、とても冗談を言っているようには感じなかった。アダラに乗っているときは和気あいあいとしていたはずなのに。
『そいつのことは調べていたが、どうやらそいつは国家維持局に入る前、既にルベルの一員だったらしい』
「……ほう?」
『そいつは人狩り隊、その前身であるムステル空軍第1降下兵旅団所属。つまりルベルの頭領、エーリク直属の部下だった男だ』
ヘラルトも驚いていた。だが同時に合点もいく。ダミアンの戦闘力はかなりのもの、並大抵の努力ではああはならないと思っていたが。
「おいヘラルト。ヘッドホンでお話するのもいいが前見てないとまずいんじゃないのか?」
葡萄畑で伏せながらこちらを見てくるダミアン、口の端にはつまみ食いした葡萄のカスが付いていた。
『とりあえず今はそのままそいつを利用しろ。既にこのことはマンネスにも伝えてある』
どうしたものかと伏せていると、ヘラルト達の近くに砲弾が着弾し軍人達が吹き飛ばされた。
それだけではない、機関銃や小銃の弾も飛んできている。ダミアンの頬を掠めた弾もあった。
「呑気に葡萄食ってる場合じゃないな。おいヘラルト。とりあえず突っ込もうぜ! あいつらの土手っ腹に穴開けてやろうや」
「……そうだな。行くか」
ヘラルトは雄たけびを上げる兵士達と共に、アダラによる攻撃支援と一緒に突撃していく。
『ヘラルト。まずは外周部にある要塞砲を無効化しろ。味方への攻撃をとめるんだ。正面の門付近に入り口がある』
「了解だ。いつも通り無茶苦茶な仕事だ」
周囲を見れば畑の僅かな窪みに伏せて弾を避けている軍人たちが沢山いた。要塞まで碌な遮蔽物も無い以上そうするしかないのだが、敵はそれを狙い撃ちにしていく。レウの残骸に身を隠した兵士は要塞砲の直撃によって残骸諸共吹き飛ばされた。
「おいヘラルト、どっからいく? やっぱり左か? 早いとこ決めて動かないとこっちもジリ貧だぞ」
ダミアンは落ちている葡萄を頬張りながら聞いてきた。こんな時ではあるが食い意地が張っている。
「真正面だ。援護しろ」
「正気じゃねぇな。いいだろう付き合ってやる」
ヘラルトは重機関銃を、ダミアンは短機関銃を撃ちながら少しづつ前進していった。




