第42話 蛇との散歩
ヘラルトが付いた任務はムステル中部、エムレダム陸軍基地の奪還である。
「エフェリーナ……」
ぽつりとヘラルトはそう漏らした。
さて、ヘラルト達は現在列車に揺られて目的地まで向かっていた。だがただの列車ではない。
ムステル軍が保有する巨大兵器の1つ『アダラ』と呼ばれる250m以上もある10両編成の装甲列車だ。砲と機関銃で重武装したそれは巨大な蛇にも見える。
「列車に揺られて優雅に目的地まで一直線だ。バスケットにパンとハーリング詰め込んでくればよかったな」
「ソーセージならあるぞ。あと俺ならピクニックにはチーズだな。オレンジ色のあいつをパンに挟んで焚き火で焼くんだ。うまいぞ」
列車の屋根の上で風に吹かれ、ソーセージにかじりつき雑談に花を咲かせているのはダミアンとアントン。気が合うのか2人とも笑顔で、しかめっ面のヘラルトとは対照的だ。
「…………」
「おいヘラルト。お姫様と一緒に居られなくて残念だ。だが眉間に皺寄せて私は不機嫌でござい、なんてされても解決なんてできないのは分かるだろ?」
「理解してる」
「ダミアン。ヘラルトのことはほっとけ。そいつは一度拗ねたら長いんだ」
アントンは再びダミアンと雑談を始めた。煙草をふかしながら。
「ところでアントン。お前はなんでダミアンと一緒にいるんだ?」
会話に全く混ざらないのも面白くない。ヘラルトは疑問に思っていたことをアントンに聞いてみた。アントンとダミアンに交流など無かったはずだが。
「お前と連絡が付かなかったからヴォスに連絡して使えるやつを寄越してもらったらコイツが来たんだ」
「俺は元々ルベルで仕事してたからな。信用無いやつは他所に送りたかったんだろ」
話に混じりながら、ヘラルトはダミアンの吸っていた煙草を口から奪い取ると一気にふかした。
「目的地までまだ時間がある。今のうちに武器を渡しとくか。付いてこい2人とも」
アントンはよっとらせと屋根から降り、一緒の目的地へと向かう軍人達を横目に2人を連れ貨物室へと歩いていった。
「今回は新しい武器を仕入れてきた。ファース重機関銃だ」
そういってアントンが見せてきた武器は、ダミアンを唖然とさせた。
全長148cm、重量30kgにもなる重機関銃、普通なら三脚に固定して使う代物を銃床を着けて手持ちで撃つように改造されている。
「こんなゲテモノだれが撃つんだ? しかも時代遅れの保弾板か、俺はごめんだぞ」
「安心しろこれはヘラルトの武装だ。あとこれもやる」
そう言ってアントンは弾帯を渡してきた。だがそれに付いているのは大量の手榴弾とダイナマイトである。
「……お前らは火力に脳を焼かれたのか?」
「安心しろこれはヘラルトの武装だ。お前のは……これだな」
そう言ってアントンがダミアンに渡したのは短機関銃と弾帯。どちらもムステルではよく見る装備だ。
「安心したぜ。俺にもこのクソッたれな重量物持たされるかと思った」
「この武装が出来るのはヘラルトだけだ。俺だってそのくらい理解してる」
アントンはこれの他に薬品、包帯などの救命道具にガスマスク、背嚢まで用意されていた。これにはダミアンもすっかり気分をよくした。
「いいねぇ。国家維持局よりも用意がいい。アントン、ヘラルトじゃなくて俺を雇えよ」
ダミアンの言葉に、アントンはヘラルトの方を見ながら笑顔で言った。
「悪いが俺はこいつが相棒だ。俺が仕事を任せられるのはこいつだけだ」
「そうかい、へいへい。んじゃ、その頼れる相棒と一緒に、お仕事してきますかね」
アダラが速度を落とし始める。それとほぼ同時、乗っていた軍人たちが騒ぎ出した。
「行ってこいヘラルト」
「モーレンを吹っ飛ばした時以来だな。背中は任せとけヘラルト」
アダラが停車し、ヘラルト達は軍人たちと共に銃を担いで降りた。
目の前に広がるのは広大な葡萄畑、そして巨大な城のような要塞基地の姿。ヘラルトはそれを見てため息をつく。
「いつもながら無茶苦茶な仕事だ。こんなところをこれっぱかしの人数で攻略しようって言うんだからな」




