第37話 血の流れる時
家に帰ったヘラルトはソファーに窮屈そうに寝っ転がりながら、煙草に火をつけた。明かりのない部屋の中、窓から差し込む月明かりと煙草の火だけが光っている。
飲み直そうかとも思ったが、いつもの薄められた酒すら今の家にはない。
「……死んでるやつがそんなに大事、ね」
エフェリーナに言われたことをぼぅっと考えながら、天井を見る。
特に答えも出ないまま、時間と煙草だけが進む。
吸い殻で溢れた空き缶に煙草を押し付け、いつものようにソファーで寝ようと目を閉じた。
そのときだった。
「何だ?」
不意に遠くの方から爆発音が聞こえてきたのである。ヘラルトは跳ね起き、窓から外に視線を向けた。
「なんてこった。とうとうやりやがったのか」
ヘラルトは短機関銃と予備の弾倉、ヘッドホンを握りしめ車に乗り込んだ。
ヘラルトが窓から見たもの、それは……
燃え盛り黒煙を吐き出し続けるアーメルスの街だった。
街へと車を走らせる道中、ヘラルトは道路の真ん中で街に向かって砲撃を加えるルベルの構成員達を見た。
車2つ分ほどもある巨大な砲が5つ、仮に破壊したとしても道路が通れなくなるようにされている。
「車くるぞ! 撃ちまくれ!」
ヘラルトの乗る車に向かって、敵は短機関銃や小銃を撃ってくる。しかし怒り狂ったヘラルトは車を停めるどころかアクセルを全力で踏み、砲を操る敵に向かって真正面から突っ込んでいく。
「正気かこいつ!?」
「馬鹿! 早く撃て!」
駄目になった車のドアを蹴破り、ヘラルトは姿を見せる。握られた短機関銃は既に弾を装填済みだ。
「くたばれ。糞忌々しいマフィア共が」
瞬間、ヘラルトの短機関銃が火を噴いた。
砲を操作していた敵は勿論、向かってきた敵も一掃されていく。その様は出来すぎた映画のワンシーンのようだった。
「地獄に落ちろ」
全員一掃したのを確認すると再び車に乗り込もうとしたが車はピクリとも動かない。
「駄目か」
仕方なく車を乗り捨ててヘラルトは走った。
「アイツら正気じゃないな、全員イカれてる。どいつもこいつも頭の中に糞が詰まってやがる」
ヘラルトの耳には今しがた沈黙させた砲以外の砲声が聞こえてくる。それもひとつや2つではない。
いくらルベルと言えどここまで本格的に街を攻撃してきたことなどただの一度もない。基本的に一般人の犠牲は最小限にとどめてきたはずだった。
だが今回は違う。一般人の犠牲など最初から眼中に無いのだろう。ヴォスや救済同盟の構成員をアーメルスの街ごと消し去ろうとしているのだ。
「平和の邪魔だ。全員皆殺しにしてやる」
ヘラルトは走った。火の手があがるアーメルスへと。




