第35話 始まりの命令
マンネスの指揮のもと、ルベル殲滅に向けヴォス、救済同盟は動き出した。
その動きを見たムステル軍は両マフィアを抱き込み、一挙に方をつけようとあろうことか密約を交わし一時的な共闘をすることとなる。
軍とマフィアが手を組む、前代未聞だがこれにより単純な兵力はルベルを越えるほどとなった。
しかし、ルベル殲滅は容易ではない。彼等の戦力はその多くがムステル本土にあり、本拠地であるメラント島への道は未だ固く閉ざされたままだった。
「全く、面倒なことをしてくれたな。結成当初から付き従っていたからと放っておいたらこの始末だ」
「ゆ、ゆるして──」
調印式の襲撃後から数日後、ルベルの本拠地であるメラント島では頭領エーリクによって苛烈な拷問が行われていた。
エーリクと幹部の見守る中で拷問を受けているのは、調印式を襲撃するように手引きしたルベルの構成員。親父と呼ばれていた男。
「あ、あの場面なら……誰だってああするはずだ。アイツらを2人まとめて殺せれば、敵は……」
「頭2つ潰しただけで奴らが解散するなら俺だってそうしている」
天井から吊るされ、鉄パイプで滅多打ちにされた構成員。彼の指は1本も残っていない。
エーリクは彼の前で足を組んで腰かけると白い長髪に付いた血をぬぐい始めた。
「お前は勝手に兵士を動かした。自分の手駒だけじゃ勝てないからと貴重な兵士を何人も動かしてくれたな。そのお陰でアイツらは全滅だ」
「兵士ならまだまだたくさんい──」
構成員が話し終わる前に、エーリクは再び鉄パイプを顔面に叩き込む。
「お前ごときが兵士の命を好き勝手使うんじゃない。ムステルのマフィア全てと軍を相手にしなきゃいけない状態を作ったんだ。お前がやったのは、先の大戦で政治家共がやったことと全く同じだ。つまりお前はもう味方じゃない、俺達が打ち倒すべき『敵』だ」
エーリクは腰の拳銃を掴むと頭と胴体に2発ずつ弾を撃ち込んだ。
「全く、面倒な……」
煙の出る拳銃に安全装置をかけ、そのまま椅子に座るエーリクに側にいた幹部、ウィレムが話しかける。
「もう戦争は回避不能でしょう。軍、ヴォス、救済同盟は戦力をかき集めている。仮に我々が解散したとしても、奴らは我々を許さない。加えて付いてきてくれた部下をまた飢えさせることにもなる」
「そうだな。こうなってしまえば、あとはもう進むしかない。ウィレム、本土の戦力を動かすぞ。全ての勢力に大規模攻勢を仕掛ける」
「指揮官はどうしますか?」
「訓練していた将校達を使え。お前は隊を率いて南を、俺は北部をやる。『モステルド』を使え。明日の日の出前に攻撃開始だ」
「モステルドを、ですか?」
「不満か?」
ウィレムの顔が少しだけひきつったのをエーリクは見逃さなかった。
「いえ……では行ってまいります」
ウィレムは他の幹部を引き連れて部屋を後にした。
「……ここが正念場だな」
エーリクは服を脱ぎ捨てると部屋の中にある棚から、古い軍服を取り出し着替え始めた。
「何年もかけてようやく国を獲る準備を整えてきた。こんなところで終わってたまるか」
吐き捨てるように言うと、エーリクは散弾銃を担ぎ、軍靴の音も高らかに部屋の外へと出て行った。




