第34話 ヒール
その言葉を聞いた瞬間、ヘラルトは眉根を寄せた。
『ヒール』それはムステルに存在する6つの巨大兵器の1つである。全長27m、全幅55m、左弦に大量の砲、機関砲、機関銃を備えた地上攻撃用の攻撃機である。
「マンネス。こっちに軍の爆撃機編隊が来る。『ヒール』まで連れてきたらしい」
アントンの言葉をそのままマンネスに伝える。
「全員下がれ! 下がれェッ!! 急げェッ!!」
巻き添えを食うと予想したのだろう、マンネスは力の限り叫んだ。
しかし、言葉よりも先にヘラルト達の頭上から唸るようなプロペラの音が、見上げればそこには無数の爆撃機と共に一機の巨大な飛行機が目に入る。
50㎏爆弾を大量に腹に括りつけた大型爆撃機、そして左弦に武装を集中させた巨大な攻撃機ヒールの登場だ。
「ええいクソッたれめ。遅かったか」
マンネスが苦々しく呟く。空を舞う爆撃機が黒い物体を投下してくるのが目に映る。黒々としたそれは爆弾の類である。
「お前等! 乗れるだけこいつに乗れ! 早く!」
彼らが居る場所は平原、おまけに昼間だ。見通しのいいここは爆撃機の格好の的である。マンネスは他の仲間を乗せ退避しようとしたが、少しばかり遅かった。
「ギャッ──」
「動けねぇ……誰か!」
「逃げろ! 早くここから離れろ! うわっ──」
地上に着弾した50㎏爆弾の瞬発信管が起動しルベルもヴォスも関係なく無差別にすべての人間を吹き飛ばしていく。ルベルはこの攻撃を受けて撤退を始めていた。
「とんだ通り雨だな」
「言ってる暇があるなら動け装填手! そら追加が来たぞ!」
空を見上げれば高度を落としたヒールが左旋回を始めようとしていた。その様はまるでハゲタカのよう、死体を探して空を舞うのだ。ハゲタカと違うのは自分で死体を作り上げる点だろう。
「仕方ない戦車を放棄! 的になる全員逃げろ! シーム、装填手出ろ急げ!」
「結構気に入ってたんだけどな。この戦車」
「ぼやくなよヘラルト。僕も悲しいんだ」
戦車はヒールからすればいい的でしかない。それを今から証明される。
高度を落としたヒールは左側面に搭載された機関砲や小口径の砲を一斉に発射、地上にいるルベルやヴォス、救済同盟の構成員に向かって砲弾の雨を降り注がせる。
着弾した砲弾が土埃を巻き上げ、破片をばら撒き、人間を粉微塵に破壊し赤い霧に変えた。爆撃機とヒールの登場でもはやルベルもヴォスも逃げることに必死だ。
装甲の薄いレウのような戦車はこの攻撃で粉々にされてしまった。
「走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れェェェッ!!」
「最悪だよまったく!」
「軍学校を思い出すな。いつもこうして教官にケツを蹴り上げられながら走ってた」
一番にマンネス、二番にシーム、三番にヘラルトが走る。この時ばかりは陸上競技の選手にも負けない程の早さだったろう。
そうしてひたすら他の仲間と共に逃げ回っていると、空からの攻撃が止んだ。
「終わったな。ヘラルト、なかなかいい動きだったぞ。装填手の席は空けて置いてやる」
「救済同盟の頭領はどうなった?」
「……駄目だったみたいだな」
マンネスの下へ、涙を流しながらやってくる救済同盟の構成員がいた。撃たれた頭領を手当てしようとしていた構成員だ。
「救済同盟頭領、レオポルト・ヤンセンが先ほど身罷られました……手はつくしましたが、なにぶん出血が酷く」
「そうか……ジジイめ。死に急ぎやがって」
泣き崩れる構成員の肩に手を置きながら跪くマンネス。
「マンネス車長殿、救済同盟は急ぎ代役を立てることになります。その後はどうか、どうか仇を……」
「俺達とお前達は対等だ。言われるまでもない」
立ち上がったマンネスはその場に居る人間すべてに対して声を張り上げる。
「聞け! 救済同盟頭領、レオポルトは死んだ! ルベルによって殺された! 彼は奴等に対しても血を流さない方法を模索する人格者だった。だが奴等は、その人格者を殺した。断じて許せん。これより我々ヴォスはルベルに対し全面戦争を仕掛け、奴等を徹底的に潰す! 救済同盟の諸君らはどうか!?」
マンネスの言葉に、救済同盟の構成員は勿論、ヴォスも呼応した。天まで届けとばかりに咆哮する。
かくして、ルベル殲滅に向けヴォスと救済同盟は準備を始めるのであった。




