第31話 ヘラルト、戦車兵になる
「やってくるとは思ってたが本当に来るとはな。迎撃しろ! ルベルの連中は俺達と遊びたいらしいぞ! 皆まとめてぶち殺せ!」
マンネスの言葉よりも先にヴォスの構成員も救済同盟の構成員も全員懐から銃を抜いていた。
数名は机の下や屋台の食材の下に隠された短機関銃や機関砲を引っ張り出し、向かってくるルベルの構成員たちを射撃する。
先ほどまで酒場のようだった平原は血と硝煙、銃声の響く戦場へと姿を変えた。
「よしヘラルト! 後は任せたぞ俺は逃げる! それとこいつを持っとけ!」
「ああそうしろ。しこたま飯を持っていくといい」
ヘラルトはアントンからヘッドホンを受け取りつつ腰の拳銃を抜く。
アントンに戦闘力は無い。離れた場所から指示をしてもらった方がいいだろう。
ヘラルトの武器は拳銃だけ、正直なところ不安は残るが、やるしかなかった。
「一か八かだな」
机の下に掘られていた穴に入りながら薬室の中を確認するヘラルト、そんなヘラルトに対し、声をかけてくる男が居た。
「おいヘラルト! お前はこっちに乗れ!」
マンネスだった。彼はテントを指さして叫んでいる。食材を取り出していたテントだ。
「こんな時に飯でも食おうってのか?」
「無駄口を縫い付けてやろうか! いいからさっさと来い!」
怪訝そうな顔をしながらもヘラルトは穴を抜けてテントへと向かっていく。
入り口の布をめくり、見えた物は……
「こいつは……」
テントの中、食べ物の詰まった木箱の下に、枯葉を思わせる茶色い塗装がされた戦車があった。
レウⅡ、ムステル共和国で最も生産された戦車だ。しかし本来なら動くはずの砲塔が撤去され、駆逐戦車のような改造が施されている。
「俺の相棒、レウⅡだ。まぁ俺の好きなように改造してあるがな。スラープン・レウってとこだ」
「砲塔が回らなくなってるじゃないか。馬鹿なのか?」
「うるせぇ! いいから乗れ! お前は装填手をやれ!」
尻を叩かれつつ、ヘラルトは砲塔の後ろにあるハッチからレウの中に飛び込んだ。
「よし出せシーム!」
「了解だ車長!」
レウの操縦席には既に栗色の頭をした操縦手が乗っていたが、それだけだった。
「おい本来の装填手と砲手は何処に消えた? この戦車には4人乗るはずだろう?」
ヘラルトは本来このレウを動かすために必要とされる人員に満たないことに苦言を呈したが、マンネスはいつも通りという顔。
「先の戦争で俺とシーム以外死んだ! なに、操縦手がいれば後は俺が装填手と車長と砲手を兼任すればいい」
「車長はいつもこうなんだ。いい人なんだけど……まぁ諦めてくれ。よろしく、僕はシームだ」
「ああ……なんとなく理解したよ。よろしく、ヘラルトだ」
操縦席に座っていた男、シームと挨拶を交わす。既に動き始めたレウに揺られながら、ヘラルトは砲弾を装填し始めた。
「距離300! 左10度! 弾種榴弾! 撃てェッ!!」
ハッチのすぐそばにある機関銃を撃ちながら、マンネスが指示を下してくる。
「命中!」
ヘラルトは砲弾を1人で装填しながら、砲の照準まですることになったのだが……
「狭い」
「仕方ないさ。砲を無理矢理増設したんだ、狭くもなる。前にでるよ!」
だだっ広い平原、遮蔽物もないそこはお互いに身を守る場所が少ない。シームは前に出ることで味方の盾になろうとしているのだ。
「負傷した奴らは後ろに連れていけ! 生きたい奴らはタコツボに隠れろ! 勇気ある自殺志願者は俺たちの後ろについてこい!」
マンネスの指揮で、ルベルの攻撃を押し返す。
しかしここで疑問が浮かんだ。
「救済同盟の騎馬隊はどうしたんだ? てっきり勇ましく突撃するかと思ったが」
「彼等なら大丈夫さヘラルト。彼等は逃げない」
「そう願いたいな」
ムステル救済同盟の主戦力である騎馬隊。彼等はルベルの奇襲と同時に明後日の方へと走り去っていった。ヘラルトはそれを逃げたと判断したが。
「なんだ? 奴等退いていくぞ? 自分からかかってきておいて見上げた度胸だ。いいか装填手! 俺達のやり口をおしえてやる。『背中を見せる奴は撃て』だ!」
「いい考え方だな」
ヘラルトは砲弾を装填しつつそう言った。




