第30話 銃声
前が見えない程堆く積まれた料理を見て、ヘラルトとマンネスは目を丸くしながら酒を飲み始めた。
「飯飯。ん、熱い」
「うちの馬鹿共が作った飯は美味いだろう? 特にビターバレン。こいつがいい。……昔はルベルの頭領も食いにきたもんだ」
アントンの持ってきた料理をつまみながら酒を飲んでいると、マンネスがそんなことを言ってきた。
「ルベルの頭領? エーリク・マイヤーが敵対してるヴォスの所へ飯を食いに来るだと? 悪い冗談だ」
「本当だとも。まだお互いが対立してなかった頃の話だ。ルベルとヴォスが結成された……初期も初期だな。一緒に飯を食って、笑った仲だ」
「そんな間柄で、どうしてああなった? 女取り合ってもめたか?」
ヘラルトの問いに、マンネスはまるで過去を懐かしむような表情を見せた後、答える。
「俺達は前を見てる。だが奴等は……後ろしか見えてない」
「なんだって?」
「車長! 時間ですぜ! 車長!」
「うるせぇッ! 今行くから待ってろ! じゃあなヘラルト、アントン。今日は楽しめ」
話を聞こうとした時、マンネスにお呼びがかかった。どうやらこれからが調印式の本番のようだ。
調印式の場に救済同盟の一団が遅れてやってきた。
「救済同盟の本隊、騎馬隊か。煌びやかなもんだな」
「ああ」
会場に向かってくるのは300騎程の騎兵隊。一人一人が式典用の蒼い服に身を包み、豪華な装飾の付いた槍を掲げている。
先頭を行くのが恐らくは救済同盟の頭領だろう。かなりの高齢男性で頭の髪の毛は残らず白く、目は本当に見えているのか分からない程瞼が落ちている。
「救済同盟の連中は年寄りが多いんだな」
「連中はムステル陸軍出身だが、あいつらは先の大戦で殆ど後方に配置されてて死ななかったからな。歳もとれる」
騎兵隊は殆どが50代から60代ほどの年齢層の人間で構成されている。たまに30代と思しき者も居るにはいるが。
勇壮な騎兵達を眺めながら、ヘラルト達は立ち上がりその後を見守った。がやがやとうるさかったヴォスの構成員たちは静かになり、馬を降りた救済同盟の頭領が中央の赤い絨毯を歩いて来る。
「これより! ヴォスとムステル救済同盟とのヴォス、救済同盟相互安全保障条約、その調印式を執り行う! ここに集った全ての者が証人だ!」
中央の台の上では、ヴォスの頭領、マンネスが調印式を見守る構成員たちに向け叫ぶ。
誰もが固唾をのんでその様を見守っていた。
「我がムステル救済同盟はヴォスと共に歩むことを誓う。お互いがムステルの未来の為、尽力する」
台に立った救済同盟の頭領はしわがれた声でそう宣言した。
「ではサインを」
その場に居る全員が見守る中、マンネスと救済同盟の頭領が署名をしていく。
「ここに条約が──」
ペンを置き、言葉を発しようとした次の瞬間。
銃声と共に救済同盟の頭領が倒れた。
「レオを塹壕に! やってくれたな。クソ野郎共が!!」
マンネスが歯を見せながら激昂する。こめかみに血管を浮き立たせながら見据える方向には武装した集団が見えてくる。
「ルベルのクソ野郎共だ! テメェ等鉛弾で歓迎してやれ!」
マンネスの叫びで、その場にいる全員が銃をとった。




