第3話 アントンの店
夕方頃、ヘラルトはアントンの店へと着いた。街中に構えるその店はひどくボロボロなトタン屋根の木造。看板すらもないそこは開店しているのか判断に悩むところだ。
「アントン、居るか? 居ないなら売り上げ貰っていくぞ」
「居るぞヘラルト。あと売り上げに手をつけてみろ。糞がソーセージに見えるまで調教してやる」
まるで女の叫び声のようにきしむドアを開け中に入る。ズラリとならぶ銃や銃弾に囲まれ、アントンは埃っぽい店内で煙草を吸いながら新聞を読んでいた。
「昨日の仕事が新聞に載ってるぞ。『賞金稼ぎヘラルト、工業地帯を吹き飛ばす』だとよ」
「まるで悪党扱いだな」
「実際悪党だろうよ。知らないやつからすればな」
空き缶に煙草を押し付けるとアントンは店の床板を外し始めた。
「仕事の話だ。来い」
「ああ」
床板で隠されたそこには階段があり、地下へと行ける作りになっていた。アントンが仕事の話をするときはいつもここを使う。
蜘蛛の巣やらネズミやらを散らしながら降りていくと、アントンはランタンに火を灯し地下室を照らす。粗末な木の机と、銃弾の入った箱や、大砲の弾などが所狭しと置かれている。埃をかぶっているようなものも多いが。
「次の仕事だが、これを見ろ」
アントンは写真を机の上に何枚か投げた。
「……76cm3連装砲……『モーレン』か?」
「ご名答」
白黒の写真に写っていたそれは巨大な大砲。恐らくは航空機からとられた物であろうそれは周囲に小さく映っている車と比べても圧倒的な大きさを誇る。
「大戦中、戦艦に積もうとしたがあまりの重量と反動故に要塞砲として活用された砲、通称『モーレン』現在はマフィア、ルベルが保有している。そういやお前はこれの威力を知ってるんだったか」
「まぁな、東部戦線じゃ世話になった」
「そんな世話になった英雄も今やマフィアの手先だ。ムステルが誇る巨大兵器6種のうちの1つ。今回の仕事はこいつの破壊だ」
アントンが一枚の写真を太い指でトントンと叩く。写真に写っていたのは土嚢や重機関銃、コンクリート製の堡塁に大量の戦車と対空砲。それがまるで長い蛇のようにどこまでも続いている。
「デカいな。1人じゃ時間がかかるぞ」
「できないとは言わないあたりやっぱりお前は最高だ。安心しろ。今回は仲間がいる」
「仲間?」
ヘラルトは茶色い眉を吊り上げアントンを見る。
「今回の仕事は国家維持局からの依頼だ。連中はルベルを目の敵にしてる」
「俺達も目の敵にされてるぞ。俺達はなんでもござれの賞金稼ぎなんだからな」
「だから恩を売っておくのさ。敵はむやみやたらに作るもんじゃない」
はぁ、とヘラルトは深く溜息をつく。アントンの言う通りの展開になればいいが、終わった後で逮捕などしてこられたらたまったものではない。
「今回の作戦で功績をあげれば俺達の名声も更に上がるってもんだ。気合入れてやってくれ。もっと言うなら仕事取ってきて、武器も全部こっちで用意して、後方からとはいえ支援もしてるんだ。戦闘は──」
「ああ、分かったよ」
そのまま無限に小言を言いそうだったアントンにヘラルトは降参とばかりに両手を上げる。
「そうこなくちゃな。仕事は2週間後だ。さて飯でも食おうか。俺特製アントンサンドを食わせてやる」
「いや、それはいい。この後用事があるからな」
やれやれと肩を竦めるアントンを残して、ヘラルトは店を出た。




