第28話 たまにはパーティーでもいかが?
ルベルによる救済同盟の拠点襲撃から1週間、ルベルの襲撃は殆ど止まった。せいぜい娼婦が刺殺されたり、弁護士がコンクリート漬けで海から上がった程度。何か間違っている気もするが不気味なほど平和な1週間であった。
夜、ヘラルトはホテル・アーメルスを訪れていた。
エフェリーネと酒を飲もうと思って足を運んだのだが、ヘラルトの顔を見たエフェリーナは笑顔……に見えるがどこか怒っているようにも見えた。
「ヘラルト、またおいたをしたみたいね」
「さぁ、どうだろうな。仕事ならしたが」
「あまり人を心配させないで。貴方まで友達の所に行かれたらつらいわ。もう空っぽの棺を見るのは嫌よ」
ヘラルトは黙って酒を飲む。
「女は無力ね……男の人は女の言葉なんて聞かず勝手に行ってしまうもの」
「言葉は届いてるさ。その言葉に従う気がないだけだ」
「……馬鹿」
小さくそう言うと、エフェリーナは去って行った。
残されたヘラルトはグラスの酒を一気に呷り、煙草に火を付けた。そろそろ帰ろうかと考えていた、そんな時。
「よう賞金稼ぎ。ありゃお前の女か? いい女だ、あれほどの上玉はそう何人もいるもんじゃない。大事にするこった」
「……なんでここに居る?」
聞いたことのある声に振り返ってみればそこに居たのはニヤついた表情の男、ダミアンが立っていた。
似合わない黒いスーツを着ていて、特にヘラルトを警戒するでもなく拳の届く位置にいる。
「ここはヴォスのシマだぞ。お前がここに居たらまずいんじゃないのか?」
「安心しろよ。俺は今やヴォスの一員だ」
ダミアン、よく裏切る男である。
「あの後、ルベルの下っ端が計画してた小遣い稼ぎに参加したんだがな。よりにもよってこの俺様にガキと女を殺せなんてぬかしやがってな。勢いあまってそいつらの拠点諸共吹っ飛ばしちまった」
「で、追手がかかったからヴォスに泣きついたわけか」
そういうこった、ダミアンはそう笑いながら勝手にヘラルトの頼んだ酒の肴を食べ始めた。
「そういう訳だから、今はお前の味方だ。命拾いしたな」
「一度裏切った奴は何度も裏切る」
「おいおいひでぇな。仕方ない。この場は俺が奢ってやろうじゃねぇか。それで機嫌直せよヘラルトちゃん」
その後もダミアンはひたすらヘラルトに声をかけてきた。ヘラルトが無視していようが構わず延々とである。いい加減黙らせようと振り返ればダミアンはしてやったりというような表情をしていた。
「ダミアン。お前は少し黙ることを覚えろ。うるさい」
「おしゃべりが好きなのさ。喋るのは人間にだけ許された特権だ」
「ぬかせ」
ヘラルトはダミアンの言葉を右から左に受け流していた。ちらりとダミアンを見ると相変わらず何か話しかけてきていたがヘラルトはもうそれ以上は答えない。金だけおいてその場を後にした。
『ようヘラルト、怪我は治ったか? さてヘラルト。お前と俺宛てに招待状が届いたぞ』
朝、ヘラルトが煙草を吸いながら電話に出ると、アントンからそんな言葉が飛んできた。
「招待状? 何かのパーティーか? タダ飯がしこたま食べられそうだな。どこでやってるんだ?」
『ヴォスの連中が救済同盟との調印式をやるらしくてな。お得意さんの面を見てみたいと俺達もお呼びがかかった。今後の仕事の為にも、絶対にお前には出てもらう』
「たまには硝煙の臭いのしない連中と酒が飲みたいもんだ。もしくは美しいご令嬢と」
『ボヤくなよ。ヴォスと救済同盟、どっちとも親睦を深める機会だいい仕事を回してくれるようになるかもしれん。それにタダ酒だって飲める』
ヘラルトは大儀そうにしながらも了承した。
血なまぐさい組織同士の会合、ルベルが手を出しませんように。ヘラルトは心の中でこれっぽっちも信じていない神様に祈った。




