第27話 興醒めな終わり
戦車の中で煙草を吸っていると装甲を叩いて声をかけてくる人物がいた。
「救済同盟の者だ! ヘラルト・ファン・デン・ベルクか!?」
大声が車内に響いてヘラルトは顔を顰めながら答えた。
「そうだ! お前は誰だ?」
「私はムステル救済同盟幹部、モーゼス・ボスマンだ。今回は頭領レオポルト・ヤンセンに成り代わり指揮を執っている」
ヘラルトは煙草を咥えたまま話を聞いた。
「お前以外の傭兵、賞金稼ぎ達は皆ルベルを恐れて依頼を無視した。我々の声に駆け付けたのはお前だけだ。賞金稼ぎのヘラルトの腕前しかと見させてもらった。勇猛果敢な戦士だ」
「勇猛だったとかそういう誉め言葉は別に必要ない。俺は金をもらうために来ただけだ」
と、本当の目的は伏せて返した。
「たった1人で見事な働きぶりだったからな、提示された額の倍くれてやるとも。さて私は行く。また機会があれば依頼を投げよう。さらばだ」
ほどなくして馬蹄の音が聞こえてきた。
「……煙草吸ったら帰るか」
幸いにして狙撃で負った銃創からの出血は治まっている。それに今出れば巻き添えを食うかもしれない。少し乗り心地は悪いがヘラルトは煙草を吸いながら優雅に待つことにした。
一方でルベル側は救済同盟の援軍が登場したことにより即時撤退を始めていた。
「ウィレムさんでなければ、この手傷じゃ死んでたでしょうね。大したものです」
輸送車両の中、ウィレムは車両の床に寝そべっている。
衛生兵の手によって治療を受けているのだ。ヘラルトによって負わされた負傷は足だけではなかった。右肩には釘が突き刺さり、脇腹には鉄の破片か何かが当たったのか大きな青あざが出来ている。額にも傷があり流れ出た血は片目を塞いでいた。
「味方はどうなってる?」
「援軍に来た連中以外は殆どがやられました」
「……そうか」
今回ウィレムが連れてきたのは訓練上がりの新兵達だった。まずは簡単な任務をこなして自信をつけさせようとしたのだ。しかし思惑は裏腹に凄まじい損害を出してしまった。
「ウィレムの野郎は生きてるらしいぞ。あの死神め」
ふと、輸送車両の外からそんな声が聞こえてきた。
「俺達が必死こいて前に出ようとしてる中、あいつは後ろで仲間が殺されるのを黙ってみてやがった。腸ぶちまけて喚いてる仲間見ても何とも思わねぇのかな」
「頭領の付き合いが長いから優遇されてるだけさ。あんなやつ、頭領が居なくなったら誰もついてこないだろうさ」
その言葉を聞いた衛生兵は青い顔をしながら急いで止めようと立ち上がったが、ウィレムが止めた。
「構わん。言わせておけ」
「し、しかし……」
「別に処断はしない。それに──今は疲れた」
衛生兵は再び座るとウィレムの手当を続けた。
──俺は完璧な狙撃手だ。この程度で揺らぎはしない。
ウィレムは目を閉じ、そして考える。彼等ではなくもっと経験を積んだ兵士を連れて来れば、もっと細かく戦場を見ていれば、自分がもっと敵を撃てたなら、こんなことにはならなかったのでは……
──鉄火場から離れすぎて頭がイカれてるな。冷静じゃない。
ウィレムは頭に未だ残る疑問を振り払い、これからどうするかのみを考えることにした。




