第26話 幕を引く
ヘラルトは小声で呟くと、戦車の中に身を潜めた。
すんでのところで再び銃弾が飛来したが、そのときには既にヘラルトは運転席の死体をどかした後だ。
「アントン、ルベルの増援はいつくる?」
『もうすぐだ。10分以内には確実に来る。ウィレムを片付けるならそれまでに何とかしないと地獄をみるぞ』
「了解だ」
ヘラルトは砲塔を、ウィレムが潜伏していると思われる場所……ではなく、ルベルの戦車に向ける。
「ウィレム、流石は名の知れた狙撃手だ。どこにいるのか皆目検討つかん。だから……」
ヘラルトは砲の照準を戦車に合わせた。
「お前が出てきたくなるようにしてやる」
砲口から火を吹くとほぼ同時、ルベルの戦車が金属の擦れるような嫌な音と共に撃破された。
派手に爆発炎上こそしないが、撃破された戦車から必死に脱出しようとする者もいる。しかしヘラルトは容赦しない。
砲の横にある機関銃で、ハッチから出てくる兵隊を狙い撃ちしていく。
「さぁどうするウィレム。出てこないと仲間がどんどん死ぬぞ。腕利きの狙撃手は果たして味方にも冷酷になれるかな?」
ヘラルトはウィレムの事は無視して野戦砲や戦車、そして兵隊をひたすら削ることに集中した。
『ヘラルト、西側の守りが薄い。そこを突け。それともう1つ、救済同盟の援軍がそっちに向かってる。ルベルにはまだ気付かれてないようだ』
「最初から自分達だけで解決する予定だったか。雑魚の露払いの為に依頼投げたな」
『お前はそれのお陰でウィレムの相手が出来たんだ。良かったじゃないか』
砲撃と操縦を一緒にすることはできない。ヘラルトは操縦席にあるペリスコープと覗き窓をたよりにアクセルを踏み込んだ。
「なんで味方のレウが俺達を攻撃するんだ!?」
「知るかボケ! 早く砲で黙らせろ!」
「駄目だ撃てば味方に当たる!!」
兵隊を野戦砲諸共踏みつぶし、逃げまどう敵を追いかけ踏みつぶし、覗き窓を狙ってくる者を踏みつぶす。
ヘラルトの操縦する戦車、レウⅡは装甲は薄いが速度は出る。操縦方法も普通のトラックを運転できるなら充分。小銃の弾も防げるそれを防ぐ術はもはや野戦砲か同じ戦車のみだが、走り回る戦車にそれを当てるのは困難な上、付近に味方がいる為まともに反撃も出来ない。
「早く出てこいウィレム。でないとお前の仲間がどんどん死んでいくぞ。指揮官だけ生き残って帰るか? 死体になった部下の家族にどう詫びるのか見ものだ」
『……お前言動が完全に悪党だぞ』
ヘッドホンからアントンの呆れたような声が聞こえてくる。しかしヘラルトの頭にもはや容赦という言葉は存在しない。
『ルベルの援軍が到着したぞヘラルト。迎撃するか村に逃げ込むか……いや、その必要はなさそうだな』
「どうした?」
アントンの言葉よりも早く、それは聞こえてきた。
『救済同盟の本隊、騎兵隊が到着した。巻き込まれないように気をつけろよ』
一時停止し、残りの戦車に砲撃を加えた後ペリスコープで周囲を確認する。見えてきたのは無数の戦車と兵隊を引き連れて来たルベルの一団と、それの反対側から突撃してくる一団。
戦車のエンジン音よりも大きな、馬蹄と鬨の声が聞こえ始める。
「神よ! 我等の同胞を守りたまえ!」
「最後の一兵に至るまで!」
「同胞たちを救えェッ!!」
先頭で旗を掲げる騎兵が叫んだ。後続する騎兵達も負けじと叫ぶ。
到着したルベルの援軍に対し騎馬で肉薄する無数の騎兵達の姿がヘラルトの瞳に映る。馬に乗ったままルベルの兵隊を短機関銃で撃ち殺し、抜き放ったサーベルで首を斬りつける。
投げられた爆薬が戦車を吹き飛ばし、逃げ惑う兵隊の背に槍が突き刺さる。
「もうウィレムがどうこうって話じゃないな」
救済同盟の援軍は次々とルベルの一団に突撃し、村の周囲を囲んでいた兵隊にも攻撃がいく。もうヘラルトが手を出さなくてもルベルは負けだ。
事実としてルベルは撤退を始めている。
「白けたな。アントン、ウィレムの野郎は?」
『完全に逃げたな。姿も見えたが……そっからじゃ救済同盟にも当たるから撃てん』
「本当にクソだ」
ヘラルトは懐から煙草を出すと、火を付けて思いっきり吸い込んだ。




