第25話 狙撃手の帰還
堂々と戦車に向かって走っていくヘラルトだが気が付く者はいない。歩兵がおらず、戦車の中からは狭い窓からしか視界がない。その視界も今は村を砲撃するために使われているだろう。
──単騎なら俺でもどうにかなる。
ヘラルトは特に障害も無く戦車まで到達した。ルベルの兵隊たちも後ろから敵が来ているとは思わなかったのだろう。
あとはハッチをこじ開け、中の乗員を片付け、砲で村を囲んでいる他の戦車を破壊すればいい。
そう思って戦車に飛び乗るヘラルト、その時だった。
「は?」
突然銃声が聞こえてきた。それはヘラルトによるものではなく。明後日の方角から聞こえてきた。
ヘラルトは肩にまるで殴られたような衝撃を感じた。
「アントン……ウィレムの姿はどこだ?」
肩を押さえながらヘラルトは戦車の裏に隠れる。ヘラルトの肩からは大量の血が流れ出ていた。
『ウィレムは──居ない!? どこに消えた!?』
「あの野郎は逃げたんじゃなかったらしいな。あいつは──」
顔を出そうとした瞬間、今度は隠れた戦車に銃弾が飛んできた。
小気味良い音と共に明後日の方向へと跳弾したそれはヘラルトの目の届かないような遠くから撃たれたもの。
「ウィレムが思ったよりも骨のあるやつで感心したぞ。向かってくる勇気があるやつなら、俺も楽しい」
ヘラルトは短機関銃の弾倉を確認すると、戦車の前部へと這い、そして……
「おい誰かいるのか!? 撃たれたのか!?」
なんと純粋な人間なのだろうか。戦闘の最中であっても、戦車の中にいる兵隊はヘラルトを仲間と思い込んでそう声をかけてきた。
「こんにちわ」
ヘラルトはそんな優しい兵隊に挨拶で答えた。
覗き穴から短機関銃の銃口を突っ込んで斉射したのである。
すぐさま聞こえてくる不細工な悲鳴に、ヘラルトは顔をしかめる。
「やられっぱなしじゃ辛いからな。今度はこっちから仕掛けてやる。アントン」
『なんだ? ウィレムを見てなかったことなら謝るが』
「そんなことはどうでもいい。アントン、お前は酒を買ってこい。極限まで薄められたクソみたいな酒をな」
そんなものどうするんだ、アントンはそう聞いてきた。
「墓にかけてやるのさ。ウィレムの墓にな」
ヘラルトは軽口を叩きながら息を整え、戦車の背面に飛び乗ってハッチを力ずくでこじ開けようと試みた。
「ぐっ、案の定か」
おそらくヘラルトのことをずっと見ているであろうウィレムはこんな絶好の隙を見逃すはずもなかった。
どこからか放たれた銃弾はヘラルトの肩に当たり、鮮血を飛び散らせる。しかしここでヘラルトに疑問が生まれた。
──なぜ仕留めなかった?
ウィレムはシェルフィールでヘラルトを狙撃したことがある。そのときは一撃で急所に当ててきていた。
だが今回は2度にわたってヘラルトを仕留め損なっている。最初はただ遊んでいるだけかとも思ったが戦車がとられかけている今の状況でそんな真似はするまい。
導きだした結論は──
「腕が落ちたんだなきっと」




