第2話 次の仕事へ
ヘッドホンを肩に掛け、片手に短機関銃を持ち、もう片方の手で煙草を吸いながら誰も居ない道路をヘラルトは1人で歩いた。
後ろから車が来ているが、気にしない。
「よう、乗ってくかお兄さん」
「アントンか。ちょうど星も見飽きてきたところだ。乗せてくれ」
黒塗りの車がヘラルトの隣で止まり、窓から太った髭面の男が顔を出した。
ヘッドホンから聞こえてきた声の主、アントンである。後ろに丁寧に撫で付けた茶髪と黒い瞳の男。ヘラルトと同じく軍服を着ているがこちらはだらしない印象を受ける。体形がそうさせるのだろうが。
「早く乗れ。それとも星でも見ながら1人で歩くか?」
「乗るさ。酒はあるか? 景気づけに一杯やりたい」
ヘラルトは煙草の臭いのキツイ車に硝煙の香りと共に乗り込んだ。
「それにしても酷いもんだ。ヴォスの連中が掛けた懸賞金。たかだか2000万ゲルダだぞ? 月の給料にもならん」
「マフィアもケツに火がついてるんだろうよ。それに、俺達の目的は金じゃない。『平和の維持』だ」
「『お前の』目的だ。間違えるな。俺は金が欲しいが武力がない。だからお前を雇ってるんだ」
「俺は武力を提供し、お前は仕事を持ってくる。お互い必要だからそうするだけだ」
車が動き出す。ヘラルトは窓から吸い終わった煙草を投げ捨てると新しい煙草に火をつけ始めた。
「それにしてもなぁ……命掛けて、敵から恨みもかってこれだ。ちっとはそこらへん考えてほしいもんだ。あと煙草くれ」
「あいよ」
ぼやくアントンの口に火をつけたばかりの煙草を咥えさせると、ヘラルトはもう一度煙草に火をつける。
「ヘラルト。いい加減どっかの勢力に付くべきだ」
「どこにつく? マフィアか? それとも軍か? はたまた維持局か? どれもお断りだ」
「そりゃそうだが一匹狼気取るにも限界があるぞ」
ヘラルトは短機関銃を後部座席に置くと座席をおもいっきり後ろに倒してこう言った。
「俺は俺の稼ぎで生きてくさ」
アントンは苦笑する。
「そうかい。ならもっと働いて貰わないとな。お前に稼いでもらわないと俺も干からびる」
車は街のほうへと進んでいく。
「次の仕事の話をしよう。毎度ながら危ない仕事だぞ」
「危なくない仕事なんてやった覚えないぞ」
車の中にアントンの笑い声が響いた。
翌日の昼過ぎ、ヘラルトは自宅のソファーで目を覚ました。
「……飲みすぎたか」
机の上に転がっている大量の空き瓶と、吸い殻でパンパンになった缶詰を見ながら、ヘラルトは机に置きっぱなしの煙草とライターに手を伸ばした。
「飯……」
煙を吐き出しながら呟いてみるがヘラルトは一人暮らし、当然朝食など出てくるはずもない。
休日の日中を惰眠をむさぼることに費やしてしまった罪悪感にさいなまれながら、仕方なく身体を動かして、吸い殻と焦げ跡まみれのキッチンに向かう。
ベーコンと乾燥して固くなったライ麦パン、それにオレンジ色が濃いチーズを乱雑に切って口の中に詰め込む。スープなどといった気の効いたものはない。昨日飲みかけで放置されている水で薄められたワインで流し込む。
「行くか……」
そして両脇に拳銃と、靴下に名前入りのスプーンを入れるのを忘れない。
ヘラルトは庭に停まっている茶色いボロ車に乗り込むと、黒い排ガスをふかしながらある場所へと向かった。




