第19話 炸裂する爆弾
撃たれたヘラルトは射撃されないように四方を岩に囲まれた場所へと逃げた。
もはやヘラルトは人狩り隊を追いかけるどころの話ではない。出血を止めなければならなかった。
「ああクソ……弾が貫通してない……痛いな」
『おいヘラルト! どうなってる!? 無事なのか!?』
ヘッドホンから聞こえてくるアントンの大声に、ヘラルトは額に脂汗を滲ませながら答えた。
「腹を撃たれた。人狩り隊の連中はどうだ?」
『……もうすぐ全員収容しそうだ。それより大丈夫なのか?』
「急がないとな」
幸いにして人狩り隊がこちらに向かってくるような気配はない。ヘラルトは懐からライターを取り出すと息を整え……
『おいヘラルト。なにをやろうとしてる?』
「ウッ……グウゥゥゥッ!!」
ヘラルトは傷口に指を突っ込んで銃弾を探した。血でぬるぬると滑るが、なんとか指先に銃弾が触れた。
「ぬッ、ウゥゥゥゥッ!!」
『おいヘラルトよせ! 何してるのか知らんがそいつはたぶんきっと間違いなく不適切だ!』
「適切もクソもあるか!」
何度も取りそこね傷口を広げつつ、ヘラルトはなんとか銃弾を取り出すことに成功した。
「ガハァッ、はぁっ、はぁっ……」
脂汗を流しながら、自分の腹に入ってきた銃弾を投げ捨て、今度はシャツを破り、それに火を着けた。
「アントン……お前は人狩り隊を見張ってろ。船が動き出したら……なにがなんでも止めるんだ」
揺らめく火を見ながら、ヘラルトは再び息を整え、傷口を焼きだした。
「ヴゥウウウウウウッ!!」
『お、おいヘラルト。だ、大丈夫なのかよ……』
痛みのあまり失神しそうになるのを抑え、ヘラルトは傷口を焼いた。
「ふぅ……ああクソ……2度とやりたくない」
猛烈な痛みだったがとりあえず出血は止まった。香ばしい香りが腹から立ち上っているがそこは気にしない。今のヘラルトの頭にあるのは人狩り隊の連中と連れ去られた研究員をどう殺すかだけだ。
『今から回収に向かう。撤収だ』
「いいや駄目だ。あいつらをぶち殺す。風通しのいい腹にしてくれた礼金をくれてやる」
『手負いで勝てる相手じゃない! 退け!』
ヘッドホンから漏れるアントンの言葉は無視してヘラルトは銃を手に人狩り隊がいるであろう川のほうへと走った。
そしてその道中で、ヘラルトはあるものを発見した。
シェフィール兵が使用していた重機関銃である。
「野郎共、こいつならどうだ?」
固定用の三脚諸共担ぎ上げひたすら走る。徐々に水の匂いが濃くなってくる。ハエが集まり始めた死体を踏み越え、足跡をたどる。
そうしてようやく。発見した。
船に乗り込みエンジンを動かし、今にも出航しそうな船の一団が。
「これでも食らえ」
ヘラルトは三脚を使わず重機関銃を腰だめに構えると船に向かって射撃しようとする。
彼らの乗る船はさして防弾性が高くない。中の人間に被害を与えることくらいは出来るはずだ。
だが、今日のヘラルトは運がなかった。
ヘラルトの後方、研究所のほうから凄まじい爆発音が響き渡ったのだ。僅かに顔を後ろへ向けてみればそこはまるで大規模な爆撃にあったかのよう。研究所を中心として連鎖的に爆発と橙色の炎が立ち上る。
衝撃波で森全体が揺れ、地響きはまるで火山の噴火のよう。
「クソ……こうなれば駄賃代わりに……」
全速力で撤収していくルベルの船に向かって、ヘラルトは重機関銃を撃ち続ける。
しかし揺れと、ヘラルトの負傷もあってまともに当たることは無かった。
「ヘラルト! 乗れ! 早く!」
そうこうしているうちに後ろからアントンの叫び声が聞こえてきた。
「走れ! 急げ!」
全速力で川を下ってくるアントンの船。そしてその後ろからは爆発の炎が迫ってきていた。
「ルベルめ……覚えていろ。臍からクソをひり出せるようにしてやるからな」
下唇を噛みながら、ヘラルトは重機関銃を放り投げて走った。アントンの船は速度を落とすことなくヘラルトへと近づき……
「飛べ!」
アントンの合図に合わせ岸から全力で飛ぶヘラルト。なんとか船の後ろ部分に着地が出来た。
「アントン! 奴等を追え! ぶっ殺してやる!」
「馬鹿野郎! もうそんな話じゃねぇ!!」
波しぶきをあげながら進む小型船。
後ろから迫る爆発も、おさまりかけていたその時だった。
極大の爆発が起きた。研究所を中心として猛烈な爆風が巻き起こり、ヘラルトとアントンの乗る船に向かって衝撃波を届ける。
「ぐぅああああああああッ! しっかりつかまれヘラルト!」
「いっそ手を離して飛んでった方が早いかもな」
大きく揺れる船、その揺れは激しくなり、やがては船を前のめりにさせながら転覆させるに至った。
ヘラルトとアントンは川に投げ出された。




