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ヘラルト  作者: 田上 祐司
第2章 新型爆弾を破壊せよ

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第18話 狙撃

 ヘラルトは息を殺して部屋の中で待っていた。


 ──来い。


 足音は聞こえない、しかしもうすぐそこまで人狩り隊の人間が迫っているのがなんとなく分かった。


 そして次の瞬間、ヘラルトが居た階段の方から部屋に向かって銃撃が始まった。ヘラルトが部屋の中に居るのが分かったのだろう。人狩り隊達は容赦なく部屋に向けて銃を乱射してきた。壁に、ドアに、窓に、ひたすら銃撃を加えてくる。


 そして銃撃の後、中を確認するため人狩り隊は銃を構えて突入してくる。


「なにッ!?」


 驚きの声を上げたのはヘラルト、ではなく人狩り隊のほうだった。


 ヘラルトはただ部屋の隅で震えて待っていたわけではなかった。入り口のすぐ上、ドア枠の僅かなでっぱりを利用して天井に張り付いていたのだ。ヘラルトは突入してきた人狩り隊に飛び降りながらナイフを刺し、一目散に窓から飛び降りて行った。


「はぁー……やるなぁ。俺達とどっこいくらいの実力はあるぞ」


 ヘラルトにナイフを刺された隊員が立ち上がる。すんでのところでナイフを掴んで止めていて、血の一滴たりとも流れてはいない。

 

 ナイフを投げ捨てた隊員は笑みさえ浮かべていた。


「危険な奴だ。とっとと殺しちまおう」


「そうだそうだ。あんだけやれる奴だ。そう簡単には会えない」


「戦争だ。相手が1人しかいないけど」


「食っちまおう。殺しだ殺し、へへへへ」


 ヘラルトを追いかけようとする人狩り隊の下へと、1人の隊員が走ってきた。


「お前等退くぞ。ウィレム少尉の指示だ」


 隊員の言葉にその場に居た人間全員が肩を落とした。






 窓から飛び降りたヘラルトは一直線に研究員たちが連れていかれた方角へと駆けて行った。


 足跡は川の方へと向かっていた。恐らくは船で彼等を運ぼうとしているのだろう。


『ヘラルト。奴等研究員を船に積み込み始めた。急がないとまずい』


 肩に掛けたヘッドホンからはアントンの声が漏れていた。一体どこからのぞき見しているのかは知らないが、先ほど隠れている時に喋ってこなくて良かった。


「アントン。爆弾はどうした? 積み込んで輸送できる設備はあるのか?」


『爆弾を運んでる様子はない。設備はあるが積み込んでない。研究員と技術者を連れて行こうとしてる。完全にムステルで量産でもするつもりだろう』


 ──まずいな。


 ヘラルトの中に新型爆弾の量産以外に一つの予感があった。それもとびっきり嫌な予感が。


『ヘラルト。多分お前も感じてるだろうが、そこに長居するのはまずい。爆弾の回収、破壊は不可能だろうから研究員を何人か始末したらその場を立ち去れ』


「ああ、分かってる」


 ヘラルトが建物の影に隠れつつ研究員を狙って射撃しようとした、次の瞬間。


「かはっ……」


 腹に殴られたような感覚を感じ、ヘラルトは痛みに耐えつつも一目散に物陰へと逃げ込む。


 ──腕がいいな。銃弾が銃声よりも先に来たぞ。


 ヘラルトは下腹に手を触れる。月明かりでもよくわかるほど赤いそれはヘラルトの血。


 狙撃されたのだ。銃声はおよそ一秒程度遅れて聞こえてきた。500m以上離れた位置から






 ヘラルトが撃たれた場所から少し離れた所。ヘラルトから見て正面にある森の中で小銃を構える男がいた。


 ルベルの若頭、ウィレムである。


 ──こんなものか? モーレンを破壊した男の実力は。


 ウィレムは内心失望していた。自分たちが必死になって守ってきた要塞砲を破壊した人間がこの程度とは思いたくなかった。


 湿った木の葉が積もる地面にうつぶせで小銃を構えるウィレム。顔にムカデや蟻が這おうとも一切動じず、ひたすら存在感を消すことに注力していた。


 距離にして約600m、ウィレムの腕前なら当てるだけならばどうということは無い距離。目標であるヘラルトも手傷を負った上に逃げ出した。


 撃ったのは下腹、重要な臓器や血管がある急所だ。そんなところを戦場で撃たれて生きていた人間はいない。


 ──ヘラルト・ファン・デン・ベルク。どうやらモーレンを破壊できたのは運が良かっただけなんだろうな。


 ウィレムは落ちた空薬莢を回収するとその場を後にした。

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