第13話 不穏な航海
準備を整え深夜、ヘラルトはアントンと共に海の上に居た。深緑に染色された小型船はアントンの操縦で波を切り裂き、眼前に見えてくる陸へと向かう。
シェフィール国、これから向かう陸地の名前であり、これからヘラルトが襲撃をかける場所でもある。
今回の仕事は賃金が全く発生しない、赤字確定の仕事だ。それでもヘラルトとアントンは苦言1つ言わない。
「いきなりで驚いただろうヘラルト。今回の仕事の説明をしてやる」
「シェフィールで仕事か。パスポートは持ったかアントン?」
「安心しろ。領海侵犯だ」
操縦席の後ろに座ったヘラルトは煙草を吸いながらアントンから地図とクリップで止められた複数の写真を受け取った。
「そいつが今回の目標だ」
ヘラルトの持つ写真に写っていたのはシェフィール人の研究者と思しき人物に囲まれた巨大な鉄塊。人間の身の丈の2倍ほどもありそうなそれは尻の部分にダーツのような翼がついている。
『燃料気化爆弾』そう呼ばれる新型爆弾である。
「それは半径300mを死体の山にする爆弾だ。そんなもんを量産なんてされようものなら戦争にしかならん」
背中越しに、アントンは語る。
「ヘラルト、今回の仕事はこの川の先にある研究所の破壊、そして研究員の殲滅だ。多分見張りがわんさといるだろう、気をつけて進め」
「ああ」
アントンの操縦する船が河口に近づいた、その時だった。ヘラルトの視線の先にあるものが映る。
「おいアントン。あれ見えるか?」
「ムステル海軍の揚陸挺? なんでこんなところにあるんだ?」
ヘラルトが目にしたのは鋼鉄で作られた小型船。それはかつてムステルが先の大戦中に運用していた揚陸挺だった。
しかしここはシェフィール、これを運用していたこともなければ輸出されたこともないはずだった。
「見張りも死んでるぞ」
河口を進むにつれて、違和感は増えていく。
見張りと思われるシェフィール兵の死体や血の付いた木々が目に入る。
「アントン」
「嫌な予感がしてきたな。一気に行くぞ」
アントンは全速力で船を進ませる。
遡上するに従って船のスクリュー音以外に何か音が聞こえてきた。ヘラルトにとってとても聞き馴染みのある音。銃声である。
銃声の発生源は森に囲まれた研究所の付近から。ヘラルトは双眼鏡を覗き込んだ。
「一体なにが起きてやがる!? ヘラルト! 前に何か見えないか!?」
音の出る方角に見えてきたのは森に囲まれた研究所。そして……
「ああ、見えるぞ。最悪だ」
ヘラルトが双眼鏡越しに視線を向ける先に居たのは研究所を守ろうと小銃を撃つシェフィール兵、そしてヘラルトの着る軍服よりも更に1つ古い軍服を着たムステル兵達の姿……
「ルベルの精鋭部隊……人狩り隊だ」
「なんてこった……ルベルめ、新型爆弾を奪いに来やがったのか! どっから情報が漏れた!?」
「いいからアントン飛ばせ。じゃないと取り返しがつかなくなる」




