第12話 維持の崩壊
ルベルの国家維持局に対する攻撃は止まることはなかった。モーレンを巡って起きたあの戦いにより実行部隊全体の約3割を失っていた彼等は潤沢な兵器と兵士を持つルベルの攻勢を止める術はなく、国家維持局は崩壊へと向かっていった。
そしてこれを機にムステル政府のルベルに対する認識は改められ、ルベル壊滅に向け軍が動き出すこととなったのである。
夜、ホテル・アーメルスにて。
「『国家維持局解散』だとよ。無謀な作戦とカスみたいな軍備でやるからそんな羽目になるんだ。間抜けな馬鹿共が」
「口が悪いぞアントン。間抜けか馬鹿かどっちかにしろ。俺は馬鹿を推してやる」
アントンは読んでいた新聞を机に置くと煙草に火をつける。
モーレン破壊から約1ヶ月後、ヘラルト達の仕事は増えた。ルベルが各地で暴れているのもあるが、なによりも軍が介入し始めたのも大きかった。
「ここの所働きづめだが……軍から依頼がいずれ来るだろう。ルベルが所有している巨大兵器のうち残り2つ。飛行船ワルフィス、潜水艦クラーケンの撃破がな。その時はお前の仕事だヘラルト」
「……戦中味方だった兵器が次々相手になるとはな。泣けてくる」
ヘラルトはアントンと共に店の中で煙草を吸い、ジュネヴァを飲み、愚痴を垂れていた。
ここの所、まともな休暇が取れていない。ルベルの拠点を襲撃したり、あるいは襲撃から守ったりを繰り返している。だがどれもルベル打倒の決定打にはならない。
「巨大兵器を全て破壊するか、さもなくば奪取はしないとだめだ。前回破壊したモーレンだって平気で首都を攻撃できる射程距離があったんだからな。他の兵器にしたって、たった1機で戦況をひっくり返せるような兵器ばかりだ」
ため息を吐いたヘラルト、懐から煙草の箱を出したが、中には一本もなかった。
仕方なくアントンの口から煙草を奪い取ると思いっきりふかした。
「ヘラルト。今日は帰──」
金を置いて帰ろうとした、その時だった。
「うん?」
速足で現れたホテルマンがアントンに耳打ちしてきた。
「……ああ。ヘラルト、ちょっと待っててくれ」
アントンはそう言い残し、やや小走りでホテルマンの後を着いていった。
「また2人で悪だくみ? ヘラルト」
「エフェリーナか」
ヘラルトが1人になるのを見計らっていたのか、店の奥から白いワンピースを着たエフェリーナが出てきた。今日は歌う予定が無いのかさほど着飾ってはいない。
「お店にはヴォスの人や救済同盟の人が沢山来るわ。貴方の活躍も聞いてる。とっても『おいた』をしてるって」
「安心しろ。この店で『おいた』はしない」
ジュネヴァを飲むヘラルトの隣に座ったエフェリーナ。
「貴方のような人達は自分が死んだら悲しむ人がいるということを自覚するべきよ」
「で、俺が死んだら誰が悲しんでくれるんだ?」
「私」
エフェリーナの答えに、ヘラルトは笑った。無遠慮に、高らかに、品など知らぬと言わんばかりに。
「……そんなにおかしいかしら?」
「いやすまん。ちょっと安心した。捨てたもんじゃない、ってな」
微笑みを浮べたまま怒りを表現している器用なエフェリーナ。ヘラルトはジュネヴァを飲み干し、席に金を置いて丁度帰ってきたアントンの方へと歩いていく。
「じゃあなエフェリーナ。安心しろ。俺は死なない」
「私の友人も、夫もそう言って帰ってこなかったわ。自分だけ、なんて思わないことね」
「ああ、気を付けるさ」
手をひらひらと振りながら去っていくヘラルト。エフェリーナはそんなヘラルトの背中を伏せ目がちになりながら見送った。




