第11話 砲が落ちる時
モーレンの内部に侵入したヘラルトの前に現れたのは無数の武装した敵だった。
「まさかこの中にまで侵入してくる奴が居るとはな。殺せ! 絶対にここで止めろ!」
「ルベルの意地を見せろ!」
「侵入者に裁きを!」
コンクリート製の階段で出くわした彼らは短機関銃や小銃でヘラルトを迎え討とうとしてくる。マフィアではあるが勇敢な兵士達だ。狙いも悪くない。だが、致命的なまでに経験が足りていない。
ヘラルトは物陰に隠れながら下にいる敵に向かってある物を転がした。
こつりとつま先に当たる硬質の柄が付いた手榴弾、敵はそれを確認した瞬間、叫ぶ。
「ブラーム! 伏せ──」
刹那、足元に転がっていた手榴弾が炸裂、衝撃波で敵はまとめて吹き飛び、生き残った者も重傷を負った。
「ああ、衛生……へ」
「じゃあな。安らかに眠れ」
まだ息がある敵に銃弾を叩き込み、ヘラルトは先へと向かう。
『ヘラルト。モーレン自体を手持ちのダイナマイトで木端微塵にするのは不可能だ。弾薬庫……恐らく主砲の装填装置の側に小さい弾薬庫があるはず。それを破壊しろ』
「ああ、分かったよアントン」
アントンの通信に返答し、ヘラルトは階段を降りていく。
ややこしい配管や、見てもなんのことだか分からない何かのマークが付いた扉を無視し、ひたすら進む。敵は時折反撃に出てくるが、設備が壊れるのを恐れてか軽装備だ。
「敵襲! 数は……嘘だろまさか1人か!?」
「そんな馬鹿な事あるか!」
敵は喚くが、1人である。ヘラルトただ一人がモーレンの内部に侵入しているのだ。流れ出る血を泥まみれの軍靴で踏みしめ、ヘラルトは短機関銃を構え進む。
そうしてコンクリートの廊下を抜け、敵をなぎ倒し、開けた場所が見えてきた。この巨大な砲の制御室である。
「こんなとこまで敵が来てやがる! 入り口の連中一体何をやってやがった!?」
「いいから早く扉を閉めろ! 時間を稼げ!」
いよいよ敵は籠城するために金属製の重い扉を閉じようとしたが、遅かった。閉めようとした手はヘラルトによって撃ち抜かれ、次には胸を撃ち抜かれた。
そしてついに制御室へとたどり着いたヘラルトは短機関銃だけを突っ込んでひたすら乱射。敵が物陰に隠れたのを見計らって身体を出し、生き残った敵に銃弾を撃ち込む。
ヘラルトの射撃は機械のようなそれだ。
「この……なぜ俺達を殺そうとするんだ……俺達は国の為に戦っているのに」
胸に銃弾を食らい、まだ生きている敵が恨めしそうにヘラルトを睨みつつそう言ってきた。
「国の為に……か。それだけ聞けば良い事のように聞こえるな」
「ああ……」
「だが俺は知ったこっちゃない。俺は、俺の戦友との約束を、遺言を守る」
「うらぎり……もの……め…………」
制御室にいた最後の1人が、息絶えた。
「……やるか」
やるせない気持ちになりながらヘラルトは制御室の中を探す。
すぐそばに弾薬庫を発見した。ヘラルトの平均よりも大きい身の丈の更に倍ほどもある砲弾があった。そばにはおあつらえ向きに推進薬もある。
ヘラルトはダイナマイトを束にして、ライターで点火。弾薬庫に投げ込む。
『ヘラルト。弾薬庫にはまだ到着していないだろうが……ダイナマイトにせよなんにせよ、火を付けたら即座に逃げろ。死ぬぞ』
「安心しろアントン。もうやった」
『呑気に言ってないで早く逃げろ。挽き肉になるぞ』
導火線に付いた火が爆発に至るまでに、ヘラルトは全力疾走する。
見たことも無いほどの速さで足を動かし、階段を駆け上がる。
導火線の火が束になったダイナマイトに触れる。刹那、響き渡る轟音と衝撃波。だがそれだけでは終わらない。そばにあった推進薬、砲弾、あらゆる爆発物を巻き込み、炸裂する。
「強烈だな。街中で吠えてる女よりうるさい」
衝撃波がヘラルトの後ろから迫ってくる。鼓膜が消し飛ぶような恐ろしい爆発音が聞こえる。分厚いコンクリートと鋼鉄で作られた頑丈なはずのモーレンの砲塔、それが震えている。
ヘラルトの足がモーレンの出口へとたどり着く。薄暗い外と鉄臭い空気がたまらなく愛しく感じる。しかしただ出口に出ただけでは心もとない。
「おい賞金稼ぎ!! やったのか!?」
「逃げろ」
駆け寄ってくるダミアンにそういいながら、ヘラルトは走り続けた。
先ほどまでいたモーレンの内部に入るための入り口からは石混じりの衝撃波が吐き出される。内部で爆発した弾薬類があらゆるものを破壊していく。
「アッハッハッハッハ!! すげぇ! すげぇぞこりゃあ! アッハッハッハッハ!!」
「いいから振り返らず走れ!」
外に突き出した巨大な3本の砲身がまるで力尽きた生き物のように地面に落ちてくる。割れたコンクリートが、鋼鉄が飛ばされる。
先の大戦でこのムステルを守り続けてきた守護神の、その末路……
その終わりは、驚くほどにあっけないものだった。
「派手に吹っ飛んだもんだ。なかなかいい最期だったぜ。モーレン」
「……さて、逃げるぞダミアン」
『ヘラルト。無事なのは確認できた。そこの近くに車が見える。それに乗って逃げろ。作戦は成功だ……だが……』
ヘッドホンから聞こえてくるアントンの声は何とも言えないものだった。
ヘラルトは確かに生き残った、目標も破壊した。間違いなく勝ったといえる。しかしその代償に失ったものが大きすぎた。
この戦いで国家維持局の実行部隊は8割が死亡、あるいは重傷。加えて砲などは鹵獲され、生き残りの多くはルベルの軍門に下った。
目標達成と引き換えの、多大な代償だった。




