第10話 モーレンへの侵入
「賞金稼ぎさんよ。俺達どうやら白旗振ったほうが利口みたいだぜ」
ダミアンは苦々しい表情でそういいながら、空を舞うワルフィスを見ていた。
ワルフィスから聞こえた拡声器による大音量の降伏勧告、その効果は抜群だった。ヘラルトとダミアンを除き、周囲の仲間は同じ考えをしていて、白旗を上げて投降しようとする者もいた。
実際もう戦力の大部分が削がれている。2つ目の防御陣地からは対空砲による水平射撃まで始まった。
「おい、賞金稼ぎ。なんとか言え」
「白旗か、振ってみろ。振る手が消し飛ぶぞ」
ヘラルトの答えに、ダミアンは歯を見せて笑う。
「だろうな。じゃあどうするね?」
「モーレンを吹っ飛ばす、目標は変わらん。その後に逃げる。お前はどうする? 付き合うか?」
「腰抜けと最後を共にする趣味はねぇ。付いてくぜ。なにすりゃいい?」
「まずは近づく。走るぞ。オリンピックでメダルが貰えるくらい走れ」
ヘラルトとダミアンは前に進むことを選んだ。巨大な鋼の怪物、モーレンに向かって。
『ヘラルト、どうせお前のことだ。モーレンを吹っ飛ばそうって考えてるんだろう? 右側に進め。守りが薄い』
「了解だアントン。おいダミアン。右から攻めるぞ」
「あいよ」
塹壕を飛び出したヘラルトとダミアンは右側に向かって走り出した。塹壕を越えた先にあるのは2つ目の防御陣地。機関銃と野戦砲、無数の歩兵が居るが、確かに数が少ない。
「そろそろ接触するぞ。手榴弾投げ込め」
「あいよ」
ダミアンはいつの間にか鹵獲していた柄のついた手榴弾を思いっきり遠投した。
遅れて炸裂する手榴弾。その音と共にヘラルト達は防御陣地へと突っ込んでいく。
距離にしてあと200m程、相変わらず野戦砲や機関銃が稼働していたが、ヘラルト達は構わず突撃する。
銃弾が頬を掠め、砲撃による爆風で転がりながら、それでも歩みを止めず進む2人。
ヘラルトとダミアン。2人に恐怖はなく、その表情にはうっすらと笑みさえ浮かべていた。
「2人来るぞ!」
「たかだか2人だ! やっちまえ!」
ヘラルト達の進む方向から敵が喚き散らす声が聞こえる。
ヘラルトは身に付けていたダイナマイトに火をつけ、投げた。
「ダミアン着いてきてるな?」
「おうさ! 言われた通りメダルが貰えるくらい走ってるぞ! ハッハァ!!」
機関銃手に銃弾を撃ち込んで黙らせ、野戦砲をダイナマイトで吹き飛ばし前進する2人。
自分達が進むのに邪魔な敵だけを撃ち殺し、防御陣地へと飛び込んだ。そこには味方を撃ち続けている対空砲の群れがある。
「1つ奪え!」
「おう!」
合計20門の円形に配置された対空砲、稼働しているのはその半数。水平射撃をするそれらをダミアンの短機関銃で黙らせ、ヘラルトが奪取する。
水平射撃をしやすいように穴を掘っていなかったのが幸いした。
「賞金稼ぎ! お前それ使えるのか!?」
「対空機関砲アリー20、こいつは女を扱うより簡単だ」
「お前の女は相当なじゃじゃ馬らしいな! 背中は任せるぞ!」
そういうとヘラルトとダミアンは対空砲を操作し、未だ味方に攻撃を加えている対空砲に向かって射撃を開始した。
その後は野戦砲、重機関銃、歩兵、土嚢の積まれた簡易な堡塁、人がいそうな物陰……
兎に角敵が隠れそうな場所に片っ端から対空砲を撃ち込んでいく。心地よい発射音が響き渡る度、敵のわめき声や悲鳴が響いてきた。
「弾切れだ!」
「アントン。見えてるんだろうな?」
対空砲は破壊した。予定通りならばこの後空軍が爆撃を開始するはずだ。
『確認した。だが空軍は来ない。引き返したそうだ。あいつら見捨てやがった……』
空軍は来ないとアントンは嘆いた。だがヘラルトはさして落胆もしなかった。戦場ではこういったことはよくある。
「ダミアン。空軍は来ない」
「そうかい……予想はしてたがまったく連中は……」
「お前はどうする? せっかく対空砲があるんだ。ぶっ放してもいいぞ」
ダミアンはまだ無事な対空砲に弾を装填し、上空を舞うワルフィスへと狙いを定めた。
「コイツは対空砲だ。名前の通りに扱ってやる」
「……頑張れ」
にやりと笑ったダミアンは上空のワルフィスに向かって対空砲を撃ち始めた。
『さてヘラルト。もうこうなったらお前が単独でモーレンを落とすしかない。まずは内部に侵入しろ』
ヘッドホンから聞こえてくる言葉の通りに、ヘラルトはモーレンへと走り寄っていく。
「デカいな。流石はこの国を守り続けた守護神だ」
目の前に見える巨大な砲に、ヘラルトは賛辞の言葉を送った。
先の大戦中、この国を守り続けた巨大な砲、それが今ではマフィアの手駒だ。
「その姿は見るに耐えん」
数本のダイナマイトと、鹵獲した短機関銃、そして銃剣を持ってヘラルトはコンクリートと鋼鉄でできた怪物、モーレンの内部へと侵入した。




