第1話 賞金稼ぎの男
ある夜のこと。人で賑わう繁華街でそれは起きた。
「ここが糞野郎の巣だ! 焼き払え!」
戦車に乗ったマフィア、ルベルが敵対しているマフィア、ヴォスの構成員が経営する風俗店に攻撃をしかけたのである。マフィア同士の小競り合いが始まったのだ。
戦車の一撃で建物は半壊、ヴォスの構成員に嬢も複数名死亡したが、それだけでは終わらなかった。
「キャアアアッ!!」
「ルベルだ! 早く逃げろ! 崩壊す──うわぁぁぁッ!!」
崩壊した建物からは勿論、巻き込まれまいと周囲の住民も逃げだしたが間に合わなかった。反撃に転じたヴォスが戦車にロケット弾や銃弾を撃ち込んだ。抗争が始まってから数分とたたず、夜の繁華街は戦場へと変貌した。
叫びながら逃げ惑う住民に、ルベルは敵も味方も区別ができず、誰彼構わず銃弾を浴びせ、戦車に搭載された火炎放射器が建物もろとも人間を焼いた。
「助けて! お母さんが!」
「無理だ逃げろ、お前も死ぬぞ!」
抗争に巻き込まれ、大量の負傷者をだしていく。その多くは武器ももたない一般市民。母親を失った子供が泣き、腸をぶちまけた男が助けを求め喚く。
「ルベルの連中正気じゃねぇ! 一般市民まで殺すなんて!」
「いいから撃ち返せ! アイツらぶっ殺さないと被害が拡大する一方だぞ! 援軍呼べ!」
「呼びに行ったやつは腸ぶちまけて泣いてる! 俺達で何とかするしかない!」
「戦車相手にどうしろってんだ!?」
瓦礫の山に隠れながら小銃で抵抗を見せるヴォスの構成員達、しかし相手は戦車で、小銃程度では歯がたたない。ロケット弾も一発しかなく、それも先ほど外れてしまった。
「おい! あんた等のせいで俺達まで巻き込まれてる! なんとかしろよ! いつもいつも高い上納金要求してるくせに!」
「ひっ!? せ、戦車がこっちみて──」
建物に向けて、ルベルの戦車が砲弾を撃ち込んだ。
ヴォスの構成員は勿論、身を寄せていた店の黒服もこれにより殺されてしまった。
「誰か……助けて……」
崩壊した建物に押しつぶされながら、巻き込まれた住民は呻く。助けを求める声など、もはや誰にも届かないと思われた。
「おいルベルの援軍だ! 車が突っ込んでくるぞ!」
「……いや、待てあれは」
次々向かってくるルベルの兵隊たちの後方から、逃げる住民の波をかき分け向かってくる一台のトラックの姿があった。
『ヘラルト。ヴォスとの契約をとりつけておいた。この戦争は金になる。目標は繁華街で暴れるルベルの下っ端、その掃討だ。戦車もいるから気をつけろ』
トラックを運転している男に肩に掛けたヘッドホンから低い男の声が聞こえてきた。
運転するのは夜風に茶色い短髪をなびかせる古い軍服姿の男、名前をヘラルト・ファン・デン・ベルクと言った。
身長195cm、体重125kg、筋骨隆々のマッチョマンである。
「了解したアントン。レモネードでも飲みながら待ってろ。飲み終わるころにはこっちも片付いてる」
ヘラルトはアクセルを目一杯踏み込んだ。
助手席にはダイナマイトの束と短機関銃が置いてある。腰には大量の弾倉とダイナマイト、完全武装だ。
「おい誰だ!? 突っ込んでくるぞ!」
「撃て撃て! 撃ちまくれ!」
凄まじい速さで突っ込んでくるトラックの接近、驚いたルベルの構成員が小銃で迎え撃つが間に合わない。
「こんな狭いとこで走るんじゃねぇよ! 待って、止まれ! ギャアアアアア!」
通りに鎮座している戦車に向きを合わせると、ヘラルトはドアを蹴り破って短機関銃を手に飛び降りる。
「ぶっ飛べ」
戦車にもう少しで接触するという時にヘラルトは手に握られていた起爆装置を握りこむ。
次の瞬間、オレンジ色の炎と共にトラックは爆発、戦車は原型をとどめない程に爆発、中に居た乗員に加え周囲で戦車を盾にしていたルベルの構成員をも吹き飛ばした。
「ヘラルトだ! 賞金稼ぎのヘラルトだ! 撃ち殺──」
「裏切者め!!」
すぐさま反撃が飛んでくるが、ヘラルトはさして気にせずに一人一人確実に殺害していく。
その様はまるで殺すのが仕事の機械のよう。あっという間に形勢が逆転し始めた。
「クソったれ! 用心棒がいるなんて聞いてないぞ!」
「いいから撃て! こっちがやられるだけだぞ!」
そうしてルベルの戦力が最後の数人になった頃、ヘラルトは壁に隠れ懐から煙草を取り出して火を付ける。
「お前等がお前等だけで殺し合いするだけならまだ良かったんだがな」
煙草の火で腰に付けたダイナマイトに着火、構成員が隠れている瓦礫の近くに投擲。
「何もしてない民間人まで巻き込むな」
ダイナマイトが炸裂、瓦礫諸共敵を吹き飛ばし、繁華街で行われた戦闘は終局を迎えた。
ここはムステル共和国。
『全てを終わらせる戦い』と呼ばれた大戦の後、治安が悪化。大量の浮浪者とマフィアを生み出し続ける魔の都である。




