表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

一章・サイキョウの男

 平成四十一年、政府は崩壊した。少子化が急激に進み、年金制度は意味をなさなくなった。国会や内閣、裁判所も形だけのものとなり、権力は無に等しいと言えるまでになってしまった。

 老人は皆、職を失って路上で助けを求める。金持ちはこの状況を逆手に取り大儲け。毎日どこかからデモの音が聞こえてくる。日本はここまで堕落してしまった。


 東京では落ちぶれた政治家たちが金で人員をかき集め、東京軍を結成した。力で国を治めようとしたのだ。一年で関東地方を支配し、徴兵に歯向かう者を虐殺するなど凄惨な事件も度々起きた。


 「この国を新しくしてやる」

二人の男が立ち上がった。大阪を拠点に西京軍を作り上げた。反政府を訴え、それに賛同する者も多く瞬く間に膨大な人数が軍に集まった。東京軍に対抗するため人々を徴兵するようになり、歴史を繰り返してしまうのではないかと人々の不安は募るばかりだった。

 司法が力を持たない今、彼らを止めるものは何一つとして存在しなかった。

 雪落幸太は高校三年生になって一ヶ月が経つ。でも、あの話を聞いてからはまだ一週間も経たない。その時に込み上げた憤りは捨てることも忘れることもできずにただ胸の中で押さえつけておくしかなかった。

 

 父親は殺された。俺はずっと知らなかった。もう一八歳になるからと母から話を聞かされた。

 平成三十七年に兵庫県で俺は生まれた。それから三年も経たないうちに父は西京軍に徴兵された。だから俺はほとんど父との記憶がない。ただ一つ、俺が幼稚園に入る時に一緒に公園で遊んだ記憶だけが残っている。楽しかった、と思う。あれは父に徴兵が知らされる後だっただろうか。あの時の笑顔は本物だっただろうか。三歳の子供にはわかりもしないことだった。

 そして平成四十二年、父は横浜奪還作戦の一員として関東へと向かった。横浜は東京の次に大きな軍の拠点で、そこを奪還すれば新政府設立の大きな一歩になる。しかしその途中、伊豆に着いたところで東京軍の奇襲を受け、父は逃げることができず銃撃された。母はすぐそれを聞かされたと言うが、俺も四歳の時で人の表情を読み取ることができるにはまだ早かったのかもしれない。

 新聞にはよく東京軍のトップがよく載っている。二井晴喜。俺はたまにこいつがいなければ、父が死ぬこともなかったという考えがよぎる。そのたびに恨みは積み重なり、もう器から溢れ出しそうなほどになっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 僕がこの国を変えなくては。

 政府が崩壊してから政治家たちは好き勝手に土地を奪い、人を殺めている。僕はここを出る。そう言って高知から大阪へと旅立った。

 最初は何も持っていなかった。仲間もなにもいなかった。だが、転機は早々におとずれた。一人の男と出会った。東京に住んでいたが軍に家族を連れ去られ絶望に苦しめられていたが自分も危険だと気づき大阪に逃げて来たそうだ。名前は四井と言った。中々に財力がある男だった。僕は一緒に反政府組織を立ち上げ、大きな看板を貼ったおかげか、人員はすぐに集まった。僕は政府奪還の作戦を何度も何度も練り直した。

 平成四十二年になり、関東は既に全域を支配されていた。東京軍は皇族を保護したためか、北海道、東北からの支持が厚くみるみるうちに力を蓄えていった。

 それから間も無く、一つの計画を実行することにした。「横浜奪還作戦」これは大きな賭けだった。横浜を奪還すれば政府の奪還も目前に迫る。成功することを祈った。徴兵して鍛え上げた人員たちなら大丈夫だと信じた。しかし、そう簡単には行かなかった。伊豆に到着したところで奇襲を受けたのだ。部隊の半数は殺害された。絶望的な状況だったため作戦は中止となった。西京軍は中国や韓国との貿易独占でやや優勢で前線は長野や静岡、新潟を保護していたものの、その先の関東地方は防御が固く奪還は難航していた。僕は最も信頼できる四井に代表を転任させ、一旦作戦を熟考してみることにした。だがそれも長くは続かなかった。僕はがんが発症してしまい入院したが発見が遅れたそうで、寿命はあと三ヶ月だと宣告された。新政府を見てみたかった。その願いは僕が生きてるうちには叶わないだろう。まさか自分の中に敵がいたなんて。そうだ!僕はすぐに四井に電話した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ