幸せ
ドラゴン討伐から凱旋した俺達は、
国を救った英雄として、皆の感謝を浴びる中、そのまま式を挙げる流れになった。
国は喜びに満ち、最高の祝福の中、結ばれる運びとなった。
式の次の日。
ユアリの約束を叶えるため、お茶会を行うことにした。
二人っきりのお茶会だ。
「これで合っているのだろうか?」
ユアリの言っていた紺の服を仕立ててみた。
鏡の前で、見てみても正解がわからない。
男物だというのに、股が分かれていない謎な服だ。
「着心地は、思ったより悪くはないな」
ユアリを驚かせようと思い、内緒で仕立てあげさせた服。
喜んでくれるだろうか?
笑われるかもしれない。
でもきっと、それはそれで楽しいだろう。
そんなことを想いながら、庭先に出る。
一輪の極上のバラが咲いていた。
そうとしか思えないほど、綺麗な女性がいた。
真っ赤なドレスに身を包んだユアリティーだった。
手には真っ黒な手袋を嵌めている。
初めて見るあまりに幻想的な姿に、言葉を失い見とれていた。
「あまりの美しさに見とれてしまいましたか?」
ユアリは、からかうように言ってくる。
「はっ?」
ユアリの言葉に、我に返る。
「いやいやいや。俺はお茶会をすると言ったんだぞ。なんでそんな服をしているんだ?」
ユアリはクスクス笑っている。
「あなたにとってのお茶会は、ドレスを着て、優雅に薔薇を鑑賞することではありませんでしたか?」
「あのなぁ。お前にとってのお茶会の服はこっちだっただろう」
俺は、自分の服を指差してみせる。
「さすがです。あなたは和服もお似合いですわね」
心底嬉しそうに、うっとりと俺を眺めてくる。
じっくり堪能してから、ユアリは言った。
「さてでは、一緒に紅茶でも、飲みましょうか?」
完全にユアリのペースだ。
「お茶の種類だって違うだろう?」
「あら? 紅茶と私が飲んでいるお茶は、発酵の仕方が違うだけですよ」
「そ、そうなのか? こんなに味が違うのに……。だが、お前はあっちのお茶が好きなのだろう」
「式でワタクシが着た服がありましたでしょう?」
ユアリは、俺の質問には答えず、別のことをきいてくる。
俺は、式でのユアリの姿を思い出した。
「あの真っ白な服のことか」
「あれは白無垢と言います」
「白無垢?」
また聞いたことのない言葉だ。
「あの服の意味は『あなた色に染まりたい』ですのよ」
「俺色に染まりたい? どういう意味だ?」
「今日のお茶会は前回と目的がちがいます」
「目的?」
「前回は、ワタクシ自身がお茶を楽しむために参加していました。ですが、今日のお茶会の目的は、『あなたと一緒にお茶を楽しみたい』です。あなたも同じ気持ちだから、その服装を着てきてくれたのでしょう?」
服装は違うが、気持ちは同じ。
お互いがお互いを想い合っている。
確かにこれ以上に嬉しいことはないかもしれない。
「そうか、そうだな。なら今度からは交互に楽しむことにしよう。前も言ったが、俺はあの茶菓子も好きなのだ」
「それは名案ですね」
ユアリは、嬉しそうに手を合わせた。
「ところで、今回のお茶会は、どうしてこんな夕方から始めるのだ」
「それはもう少し待てばわかりますよ」
並んで椅子に座ると、ほどなくして空が鮮やかなオレンジ色に染まっていった。
「なるほどこの夕日を楽しみたかったんだな」
「あなたもわびさびがわかるようになってきましたね。ですが、今回は違います」
太陽が沈み切り、夜のとばりが降りてきたとき、
視界の先から、なにかがヒューと音を鳴り響かせながら打ちあがり、空に炎が弾けた。
「なんなんだ。あれは」
「花火ですよ。火の花と書いて花火です」
次々と色鮮やかな火花が、闇夜を飾っていく。
「この贅沢は、城下町に住むすべての人が等しく味わっていることでしょう」
幸せのおすそ分け。
ただひたすらに美しさだけを、競う魔法。
かなわないな。
と思う。
いつの日か、もっと幸せを与えられるようないい男になりたいものだと思いながら、
空にパッと開き静かに消えた花火の余韻を楽しんだ。
◇ ◇ ◇
花火を見て満足そうな若の顔を見て、幸せが胸いっぱいに広がるのを感じました。
「どうですか? こういった暮らしは」
「まあ、悪くはないな」
「あなたの悪くないは、とてもいいという意味ですね」
「そんなこと言ってないだろう」
照れる顔が本当に可愛らしい。
ワタクシが静かに手を重ねると、そっと握りかえしてくださいました。
同じ景色を見て、同じ時を大切な人と過ごす。
未来がどうなっているかわかりませんが、間違いなく今は幸せです。
そして願いましょう。
いつまでもこの幸せが続きますように。
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