戦いの後
壮絶な戦いでしたが、終わってしまえば、あっけないものです。
目の前には、竜の亡骸が横たわっていました。
竜が勝つか、人が勝つか。
そこに正義はありません。
弱肉強食。
人が強かったただそれだけのこと。
ワタクシは、勝利を噛みしめ微笑みます。
「はあ、痛い」
腕を見ると、肌が焼け爛れています。
動かすことはできます。
若が駆け寄ってきました。
「大丈夫か!?」
慌てた若が急いで手を取り、回復魔法をかけてくれます。
氷結の魔法も入れてくれているのか、暑い夏の日に食べる氷菓のように、気持ちがいいです。
「こんなになってまで……」
「手が残っているだけ、いいですよ。お茶は飲めそうです」
「そんなのんきな」
痛みはひいていきますが、綺麗に火傷のあとはなくならないかもしれません。
「こんな汚い手では、婚約破棄でしょうか?」
「そんなわけないだろう」
「だとしたら、ワタクシは失ったものはなにもありません」
「顔も傷ついて……」
気づいていないうちに、頬にも傷を負っていたようです。
魔力が、若から放たれます。
優しく撫でてくれると、傷がきえていきました。
「若、ありがとうございました」
「お礼を言うのは俺の方だ。ドラゴンも、ほとんど君が倒した……」
若の言葉に私は首を横に振ります。
「いいえ、あなたが隙をついて、ドラゴンの腱に傷をつけてくれなければ、ワタクシは無事ではすみませんでした」
とどめを刺したのは、ワタクシでしたが、そのための隙を作ってくれたのは若でした。
もしも、あのタイミングで若が飛び出してきて、攻撃してくれなければ……。
「きっと今を迎えることはできなかったでしょう」
竜は、倒すことはできたかもしれませんが、よくて相打ちでした。
「どれも付け焼き刃で、たいしたことはできていない」
「この頬の傷も若がこの場にいなければ一生消えませんでしたよ」
「ほんの初級の魔法だ。げんに手の火傷はほとんど治せていない。もっと力があれば……」
「ワタクシは、魔法なんて使えません」
傷つけば、自然に治癒を待つしかない。
前世はそれが当たり前でした。
一瞬で怪我が治るなど、奇跡以外のなにものでもありません。
ワタクシは、若が必死で訓練を行い、覚えてくれたことを知っています。
ワタクシのために。
「あなたは勇気があり、なにより優しい。きっといい殿に……いいえ、いい王になることでしょう」
人のことを想える人が、上に立つことがどれほど奇跡であるか。
ワタクシは前世で、身に染みるほど知っています。
若は、私の手を痛いほど握りしめると唐突に言いました。
「結婚してほしい」
若の言葉に、頷きます。
「それはもちろん婚約しておりますから」
「そうではない。俺は君のことを愛していると言っているんだ」
「ワタクシでよろしいのでしょうか。それに結婚したあとも、別にほかの方を側室にしてもかまいませんよ」
「君がいい。君だけでいい。君と一緒にずっといたい」
「それは光栄です」
感極まったワタクシは、両手を広げて、待ちました。
いくら待っても、若はワタクシの胸に飛び込んできてはくれません。
「あれ? 喜んで抱きついてきたりしないのですか」
「そんなことできるわけないだろう!」
顔をそっぽ向いて真っ赤にする若。
愛おしさが溢れてきます。
「可愛い」
ワタクシは思わず、若の頭をなでました。
「子供扱いするな! そういうところはイヤなのだ」
「あらあら、嫌われてしまいましたか。婚約破棄されますか?」
「ことあるごとにいうんじゃない! 根に持っているだろう!」
「そんなことはありませんよ?」
本当にそんなことはありません。
からかうのが楽しいだけです。
「ワタクシは、若のこと大好きですから」
ワタクシが、そういうと、若は顔をさらに真っ赤にします。
とても初々しい。
「好きといわれるのは嬉しいが、若と呼ばれるのはイヤだ」
「そうですね。もう若とは呼べませんね」
ワタクシは考えをめぐらしました。
「では、これからはあなたとお呼びしますね」
「あなた!? それはまだ気が早いというか。まだ式も挙げていないし」
いやといわれてやめるワタクシではありません。
だって照れてる顔も可愛いのですから。
「では、あなた帰りましょう。ワタクシ達の城へ」