第97話 新加納口の戦い 弐
「な!? こんな所にも伏兵が!! 早く左側に壁を作れ!!」
「ダメだ!! 間に合わない!! うわッ!?」
利家と勝家は最初、逃げる敵の背を追い有利に追撃戦を進めていったように思えた。だがところどころで伏兵に襲われ少しずつ兵を減らしていった。そして開けた場所に出たところで敵に包囲され全滅の危機に陥っていた。
「権六殿、これは……」
「嵌められたな。信長様ともだいぶ離れてしまった。このままでは全滅だ」
「ではどうする?」
「戻り、信長様と合流する。悔しいが信長様も連れて一時退却だ」
「あの伏兵だらけの道をもう一度通るのですか?」
「……仕方あるまい。これより奥に進んでも美濃の奥地に入るだけで味方はいない」
「二度目なら伏兵のいる位置もわかっていますから被害は減らせるでしょうし、何より他に策がありません。俺が道を拓きます。権六殿は殿を」
「了解した」
利家たちは来た道を取って返し、信長との合流を目指した。だがその間入る時に攻撃してきた伏兵は一人もいなかった。そして新加納口のちょうど中間ほどの狭い道で利家たちを追ってきた信長と合流したのである。
「信長様」
「利家、無事だったか」
「この道を抜けたところに敵の大軍がいたので引き返してきました。急いで撤退しましょう」
「俺たちは美濃側へ抜けて秀吉と合流した後、墨俣側から脱出しようと考えていたのだが」
「おそらく無理です。あれならまた木曽川を渡った方がよいでしょう」
「そうか、長秀に伝えろ。今度は長秀を先陣として……ん?」
「あ!! 敵襲!!敵襲だ!! 囲まれてるぞ!!」
この狭い道の場所に織田軍4000人が集まってしまった。ここは敵からすれば格好の狩場だ。
「一斉に放て!!」
敵の指揮官の大声と同時に周りから大量の矢が降り注ぐ。この狭い場所に織田軍があふれかえり逃げ場がない。そこに降り注ぐ矢は織田軍の敗北を決定づけた。
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俺が信長が斎藤氏と戦をしているというのを知ったのは近江から戻り、大垣についた時だった。そこで聞いた話は大垣を治める氏家直本が織田と戦うために出陣したと城下町の人たちが話していたんだ。そこで詳しく聞き取りを行い、とりあえず墨俣城まで行ってみようということで俺は隊を率いて墨俣城へ向かった。
俺が率いる2400の軍は翌日に墨俣城へ入った。墨俣城にはわずかな兵しか残されておらず秀吉と輝政は犬山側から侵攻する信長と連携して稲葉山城を攻める作戦らしい。そんな美濃を攻め滅ぼす大戦を俺がいないときに始めるというのは一体全体どういう了見だということで俺は秀吉を追いかけて美濃へ侵入した。
だが墨俣城から数キロ進んだところで衝撃的な状況を目にした。織田の旗を掲げたわずか数十のボロボロの部隊が墨俣城の方向へ逃げていくのだ。そしてその先頭には……
「輝政!! サル!!」
2人とその後ろのボロボロの兵は俺と2400の部隊を目にするとまるで助かったと言わんばかりの表情で走ってくる。
「大助殿」
「状況は? 見たところ敗走しているように見えるが」
「恥ずかしながらその通りでござる。1000人強いた我らの部隊が今はもうこれだけでござる」
「は!? 1000人強が50人もいないこれだけになったてのか!? どんな負け方したらそんなことになるんだよ!!」
「敵の大隊を追いかけたら伏兵にあって、気づいたら囲まれてて……一点突破しようとしたのですが激しい追撃を受け……」
「おい、じゃあお前らと合流できなかった信長様はどうなってる? 苦戦してるんじゃないか?」
「わからん……もうだいぶ前から使者が来てないのでござる。ワシらが敗走したときに使者は出したが帰ってこないのでござる」
「なら使者は届いてないと見たほうがいいな。状況がわからないなら急いだほうがいい。稲葉山城の城攻めをやってるとは考えずらい。彦三郎、地図を」
「は!」
彦三郎が濃尾地方の地図を持ってくる。それを広げ、信長が襲われるとしたらどこかを予想する。
「彦三郎はどこだと思う?」
「わかりません、情報量が足りません」
「だよな。悠賀は?」
「……あくまでも、私が斎藤軍で美濃に攻めてきた織田軍を迎えうつとしたら、という話ですが……ここですね」
悠賀が指さしたのは尾張と美濃の国境木曽川、犬山城の西・新加納口。
「その心は?」
「この川を渡った直後に細い新加納口という細く入り組んだ道があります。織田軍の方が数が多いですが狭い場所ならその兵力差を上手く活かせません」
「なるほどな、俺も同意見だ。じゃあそこへ行こう。他に思い当たるところもないしな」
「は!」
「輝政とサルは墨俣城へ戻れ。俺たちは信長様の所へ向かう」
「わ、ワシらも!」
「お前はいけても部下がついてこれねえよ。さっさと戻れ。そんなボロボロじゃ足手纏いだしな」
「くッ」
「ほら、さっさと戻れ。俺たちは行くぞ!! 騎馬兵は先行し、歩兵もできる限りついて来い!!」
「「ハハッ!!」」
俺の隊2400が新加納口に向かって進軍を開始した。竹中半兵衛の唯一予期しない軍勢が新加納口の戦いに乱入する。
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「半兵衛様!! 市橋長利殿から墨俣城から進軍してきた1000の部隊を殲滅したと報告が」
「よくやった、と伝えてください。これでもう憂いはありません。こちらももうそろそろ終わります。尾張側に布陣している直本に尾張側から新加納口をふさぐように伝令を」
「は!」
「ここからは犠牲を出すことは許しません。できる限り弓矢を用い敵を殲滅しなさい。道をふさぐ隊も鉄砲と弓、盾で敵を近づけないようにさせてください」
「は!」
「ここからは単純な詰将棋にすぎません。ここで信長とその重臣をすべて葬り去ります」
「おう、半兵衛、よくやっておるか?」
「!? 龍興さま」
突然後ろから話しかけられ膝まづく半兵衛とその配下。話しかけてきたのは斎藤家の主・斎藤龍興。横に女を侍らせ、戦場であるにもかかわらず鎧すら身に着けていないその姿に半兵衛は思わずため息をつく。だが一応は主、無碍に扱うわけにはいかない。
「まもなく織田軍を殲滅できるかと」
「ほう、さすがじゃな。我の出番はなさそうじゃ。我は先に稲葉山に戻る」
「は、はぁ?」
「我は必要なかろう。我は他にもやることがあるのだ、のう?」
そう言いながら女の髪に顔をうずめる龍興。家臣が命懸けで戦ってるというのに主人は女と遊んでいるなど、そんなことがあっていいのか。いいはずがない。だが前の主・義龍様が亡くなられた今、それを咎められる人はもういない。何度自分が咎めようかと思ったが、龍興は気にくわない者は平気で処刑、追放する身勝手な人物だ。今、美濃を追い出されては知名度の低い半兵衛では浪人として国々を彷徨うことになる。それは避けたかった。故に半兵衛はおとなしく龍興に従うしかない。
「は! あとはお任せください」
「おう、任せた。では行くぞ」
龍興は女を抱きながらその場を去って行った。半兵衛はそんな主に苛立ちを感じながらも、何もしない主より今も戦っている自軍の兵士の方が大事だと即座に切り替え、再び軍の指揮を始めようとする。
「半兵衛様、我らの主は……」
「今は、耐えるしかありません。あんなのでも一応美濃国をまとめているのです。いないよりはマシです」
「ですが、このままでは美濃国は……!!」
「少なくとも私がいる間は美濃斎藤氏は滅ぶことはありません。安心なさい」
それでも近いうちに、あれは叩き直す必要がありそうですね。




