第93話 葬式と新設五番隊
父上の葬式は細々と行われた。今回は織田軍として戦ったがそれ以前は信長らの敵だったため織田家臣団の中でも来たのは利家くらいだった。そもそも極秘で清洲に住んでいたため生きていると知っていた者もほとんどいなかったことも来る人が少なかった要因のひとつだろう。参列者の多くは元父上の配下であり、父上が家臣たちから深い信頼を得ていたことがよく分かった。
葬式も終え、久しぶりに帰ってきた清洲の家で2日寝込んだ。やはり肉親の死は堪える。もちろんいつかは来るものだとわかってはいた。わかっていても辛いものは辛い。父上の顔を思い出して時折泣いた。思い出すたびに泣いた。葬式では頑張って耐えたのに、1人になると我慢が効かなくなった。2日たって部屋から出て、父上が使っていた部屋に入ると、また泣いた。不意に後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「え?」
「旦那様、思いっきり泣いてください。祈が慰めてあげますから」
「っ!」
「辛いですよね。わかります。祈も少しの間ですが一緒に暮らしましたから。少しでいいですから、悲しみも共有しましょう。誰かと一緒なら、少し楽になりますよ」
「……そう、だね。……父上は昔はこの辺の領主の家老で、今住んでるこの家に住んでて、そこで俺が生まれて……」
俺はゆっくり語りだした。俺が生まれてからの、俺の知るかぎりの父上。俺は意外に父上のことを知らなくて、それでも俺の中での父上を精一杯祈に話した。祈は優しく微笑んでうなずいて、聞いてくれた。
その翌日は清洲城に顔を出した。信長と少し話をした。
「昔、大膳は気にくわぬ奴だと思っていた。やることなすことすべてが卑怯で俺の父上もよく苦労していた。だが、駿河から元康に連れられ戻ってきてからの大膳はそんな印象は無くなって……何というか……」
「何となく、わかります。以前は家族の前でしなかった顔を他の人にも見せるようにもなったというか」
「そうだな。まさか俺のために清洲を守る戦いをするとは思わなかったが。とにかく大膳のおかげでここは守られた。大膳に感謝せねばな」
「父は、きっと信長様とか関係なく清洲を守りたかったんじゃないかと思います。ここは父上が育った街だから。それにきっと俺のためっていうのもあると思います。ここには祈がいましたから」
「で、あるか。だが理由など関係なく、大膳はここを守った。葬式には参加しなかったが墓参りくらいは行ってやるか」
「そうしてあげてください。きっと父も喜びます」
「喜ぶか?」
「……喜びます。たぶん」
今回の伊勢軍の侵攻で俺の1番隊、4番隊は大きな打撃を受けた。4番隊は壊滅寸前まで追い込まれ、1番隊も中央を担当していた軍はほぼ全滅だ。彦三郎も大けがを負い、一時はだいぶ危なかった。だが、悪いことばかりではなかった。
日光川の戦いで左翼を率いた吉村悠賀が新たに5番隊として俺の隊に加入し、犬山城の捕虜らの大部分を率いることになった。残りの捕虜は1、4番隊の穴を埋める。結果的に日光川の戦いは吉村悠賀という大膳に隠れた天才を世に知らしめる戦いとなったのである。再編された俺の隊の紹介をしておこう。
一番隊
隊長・山下彦三郎
弓と槍の達人山下彦三郎率いる600人隊。主に弓、鉄砲の遠距離戦担当だが、日光川の戦いで近距離戦に持ち込まれることがあったため反省を生かし元犬山兵らからなる長槍隊を増設した。
二番隊
隊長・黒沢大吾
Mrフルパワーこと黒沢大吾率いる500人隊。主に最前列の槍隊。我が隊の主戦力であり、刀、槍の精兵が集まっている。だが俺の隊は遠距離部隊が多いため出番少なめ。
三番隊
隊長・蓮沼常道
俺の軍の軍師的存在、常道率いる100人隊。主に補給や予備隊をまとめる戦闘向きではない隊。他の隊の補助に徹する。
四番隊
隊長・森川隆康
元林美作守の側近、森川隆康率いる500人隊。近距離遠距離どっちも行けるオールラウンダー的存在。便利。大吾と仲が悪いが最近は解消されつつある。(極力お互いに関わらないというのを彦三郎が二人に厳命しているため、大助にそう見えているだけである)
五番隊
隊長・吉村悠賀
元大膳の側近である吉村悠賀率いる500人隊。まだよくわかっていないけど、もしうちの隊同士でやりあった場合、勝つのは多分5番隊。隊長の策略がすごい。今までの俺の隊にはなかった戦法を取れるようになることだろう。
残りは俺の直属兵約300人。
新設された五番隊とその隊長の吉村悠賀。彦三郎の話によれば父上が尾張に悪名を広めることになった半分ほどの理由はこいつにあるらしい。正直こいつは俺や常道の指示で動かすより日光川の戦いのときみたいにある程度自由に動かせる、独立遊軍的な立ち位置にした方が強いと思う。日光川の戦いではほぼ倍の数いた敵右翼をあっという間に壊滅させ、敵将を討ち取ったと聞いている。他の軍が崩れている中で左翼だけは終始有利に進んでいたらしい。恐るべき戦果だ。尾張を守った立役者と言っていいだろう。
こんな感じで犬山兵を抱えて2500人へとパワーアップした大助隊。まだ日光川の傷が癒えきっていない俺たちへの最初の任務は、信長の妹・お市の方の浅井長政へ嫁入りまでの護衛であった。ーーーいや、無理じゃん。