第9話 別れ
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前世の親はひどかった。何を言っても帰ってくる言葉は8割罵倒。1割塩対応。1割無視。父はだいたいいつも酒臭く、顔を赤くしていた。母はそんな父や幼かった俺にいつも罵声を浴びせた。そして俺が高校生、家のものをいろいろ勝手にもって出て行った。それからは父が俺に罵声を浴びせるようになった。
そんな環境でたまったイライラを発散することができたのがサバゲ―だった。最初はただのストレス発散だった。それがだんだん楽しくなり、唯一の趣味になった。そこで友達もできた。関連して本物の銃も好きになった。
社会人になってやっと家を出た。これで父とも一緒にいなくて済む。そう思った。前世の俺にとって家族とはそういうものだった。
そんな俺にとって新しい父と母は本当の家族というものを教えてくれた存在だ。大好きだった。だからこそ、少し罪悪感もあった。千代松という存在は前世の俺・泰進の魂と記憶が入っている。あんなクソ親に育てられた魂がだ。クソ親に育てられ、人にエアガンを撃ってストレス発散していた俺もまたクソだ。この俺の大好きな二人にはこんな未来のクソ野郎の魂と記憶が入ってない普通の子供を産ませてあげたかったと心から思う。
そんな物思いにふけっていると、刀を研いでいた父が話しかけてきた。
「なあ千代松、信長様とはうまくやれてるか?」
「はい、とても良くして貰ってます」
やっぱり父としては息子の普段の様子が気になったりするのだろうか。
「もし俺がのぶ・・・」
「そういえばこの前・・・あ、すみません。なんですか?」
「いや、何でもない。どうした?」
何か言いかけていたが何でもないならいいだろう。
「信長様と利家と狩りに行ったのですが」
「ほう」
「信長様が寝ているイノシシを見つけて乗ってみたいとか言い出しまして」
「ほう」
「僕と利家は慌てて止めたんですが、信長様はそっと近づいてその背中に飛び乗ったんです」
「ほう、それで?」
「イノシシが飛び起きて暴れ回りましてね、信長様は10秒も経たずに振り落とされました」
「さすがうつけと呼ばれるだけのことはあるな」
「本当ですね」
その日は清洲の家に泊まって翌日かえることにした。その夜は家族3人で母の作ったご飯を食べながらいろいろな話をした。
翌日、帰る時のこと。
「では、また」
「また1月ほどで帰ってくるの?」
「はい、そのつもりです」
「そう、元気でね」
「はい、母上!」
「千代松、体に気をつけろよ」
「はい、父上!では、失礼します」
俺は二人の両親と門番さんに見送られながら那古野に帰った。
那古野に帰ると、家に信長と一巴先生が来ていた。
「あれ、どうしましたか?」
「ちょっと話があってな。入るぞ?」
「どうぞどうぞ」
3人で囲炉裏を囲んで座る。
「それで話とは?」
「千代松、橋本一派の試練合格、あらためておめでとう」
「ありがとうございます」
「お前は兵法も免許皆伝を貰っていたな?」
「はい」
「だがお前にはまだ戦は出来ない。どれだけ銃がうまくて指揮ができてもまだ将にはできない。若すぎるからだ」
「はい」
それはそうだろう。9歳の俺が大人の兵士を指揮して戦うことは士気の問題などにつながるだろう。
「かといって末端の兵士にして死なれるわけにもいかない」
師匠もうなずく。
「だが、このままあと6年くらい何もせずにここにいてもお前は得るものがない」
そうだろうな。せいぜい剣術の練習と銃の制作くらいしかやることがないだろう。
「だからお前を修行に出すことにした」
「はい?」
「修行に出すことにした」
修行に出すことにした?いったいどこに?っていうかそういうのって自分から行くものじゃないの?「俺は修行の旅に出る」とか言ってさ。
「どこにです?」
「伊賀国だ」
「なんで伊賀国なんです?」
「伊賀国には草の者と呼ばれるものが多くいる。そこでお前は多くのものが得られるだろう」
草の者。有り体に言えば忍者か。なるほど確かに銃を使う上で忍者のように立ち回って接近戦を避けるのは悪くない戦い方だ。
「幸い、ここにいる橋本一巴は伊賀守だ。当然、国内の草の者とも面識がある」
師匠がうなずく。確かに初めて会ったときは伊賀守って名乗ってたわ。
「なるほど、話は分かりました」
正直、あまり行きたくない。ここは居心地がいいし、新しい環境に行くのはやっぱり怖い。だが、せっかく転生して、新しい人生が始まったのに新しいものから逃げてどうするんだ? それに忍者なんて男の子なら誰もが一度はあこがれるものだろう。それになれるチャンスだぞ? 新しい人生、こういうものにチャレンジしても良いんじゃないか?
「わかりました。僕、行きます。ただ一つお願いが」
「なんでも申せ」
「あっちにも工房を用意してください。銃の制作はあっちでも続けたいので」
「そうか、わかった。俺に任せろ。爺に用意させる」
平手政秀殿も本当に大変だなぁ。お礼を言っておかないと。
「では、用意しておく。そっちも準備しておけ」
「ハッ」
それから約3か月後。
信長から準備が整ったと連絡があった。
季節は冬。俺は年が明けてから伊賀国へ出発することになった。
「父上、では行ってまいります」
行く前に清洲城下の自宅に父と母にあいさつをしに来た。
父上は泣いていた。数年修行に行くだけだから泣くほどのことではないだろうに。
「が、頑張って来いよ…。父も頑張るからな…。」
「はい、父上もお元気で」
「うっ、すまん、すまんな…」
なんで謝るんだろう。泣いて別れるからか?こういう別れもいいもんじゃないか?
「ほら、あなた。いつまで泣いてるの。千代松に心配されちゃうわよ?」
「そ、そうだな。頑張ってこいよ。体を大事にな」
「はい、いってきます」
こうして俺は伊賀国へ旅立った。