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第75話 甲斐の虎と二重スパイ

「さあ、話をしようではないか。上杉の小童よ」


 俺としては信玄の圧倒的な存在感を前にして話どころではないのだが。おしっこちびっちゃう。今更ながら床下から出ずに脱出しておけばよかったと後悔する。


「座ってよいぞ。そんなに緊張することはない。我もそなたもお互いの暗殺が目的ではない。そうであろう?」


 恐る恐る信玄の対面上に腰を下ろし、信玄の言葉に耳を傾ける。

 今の言葉は信玄は俺を殺すつもりはないってことか?


「そなたほどの実力者であればさっきの軍議の最中に油断している我が家臣団ごと我らを皆殺しにできたであろう? それをできたのにせなんだのはそなたの目的が暗殺でないことの何よりの証拠よ」

「ソノトオリデス」


 やっばい、ガチ緊張してる! 声が、声が!!


「互いの目的が命でないのなら語らうこともできようぞ。まずは、そうだな……そなたの目的は情報か?」

「はい」

「ふむ、何を知りたい? 我が軍の戦力か、もしくは作戦か?」

「そのどっちも、ですね」

「がっは! 正直なやつじゃ。軍容はさっきいたのが大将たちで兵数は約2万といったところだ。作戦は政虎の動き次第故まだ何とも言えんな」


 そんなすっと教えてくれることある!? 一応俺、上杉からの間者なんだけど?


「今度はこっちの番だ。どうやって侵入した? 我が軍は脱走侵入は厳しく取り締まっている。容易にできることではない」


 色々教えてもらったしこのくらいは教えてもいいか。いや、武田軍の兵を殺したのはまずいか。そこを誤魔化して伝えよう。


「昨日、陣の外の見張りの兵と入れ替わりました」

「ふむ、だが我が軍は5人一組の制度がある。なり替わるのも簡単ではないだろう」

「それは……この顔が変装なので」


 そう首の継ぎ目を見せる。今の顔が素顔ではないとわかり信玄が驚愕する。


「なんと!? こんな精巧な……確かにこれならバレずに侵入することも可能やもしれん。そなたどこの忍者じゃ?」

「伊賀です」

「伊賀か……伊賀の忍者は質が高いと聞くがこれほどとは」

「どうも」

「素顔は見せてくれんのか?」

「うーん」


 現代日本では顔は個人情報だと言われていたっけな。言われていたかはともかく顔を見せるのはリスキーか? さすがにやめといたほうがいいだろう。


「すみません、それは出来ません」

「そうか、仕方あるまい。だが……うむ、そなた我の家来になる気はないか?」

「は?」


 俺が、信玄の家来に? 上杉の間者として来てるのに? 敵前登用かよ!?


「それは、伊賀の上忍のこの俺と永久の契約を結びたいと?」

「然り、そなたは忍びとしても戦力としても優秀と見た。金ならいくらでも出す。どうじゃ?」


 金ならいくらでも出す、か。まさかその台詞を言われるほど強くなるなんてな。だが俺の忠誠を誓う相手は決まっている。


「申し訳ありません。私はすでに忠誠を誓っている相手がおりますので」

「む、政虎よりも良い条件を出すことは約束するぞ?」

「いえ、政虎様ではありません。政虎様とは今回限りの契約になっています」

「む、では誰じゃ?」

「尾張の、織田信長様です」

「織田信長、義元を討った男か」

「はい」

「その目、もうすでに一生を捧げる覚悟なのだな」

「はい」

「仕方あるまい。並のものであればここで切って捨てる所なのだがそなたではそれもできんだろう。今夜中に武田の陣を抜け、得た情報を政虎に伝えるがよい」

「……よろしいのですか?」

「構わん。それより我もそなたに依頼したいことがある」

「聞きましょう」

「上杉軍の軍容と作戦を探ってこい。できるか?」


 二重スパイか……もちろんできないことはないが気持ち的な問題だよな。でも二回連続でお願いを断っちゃうのは何か悪い気がする。


「わかりました。引き受けましょう。伊賀の上忍は高くつきますよ?」

「構わん。では任せたぞ。報酬はこれでよいか?」


 そう言うと信玄は近くにあった漆塗りの箱を開ける。その箱からは金色の輝きがあふれ出す。信玄が見せたのは甲州金と呼ばれる金貨。そしてそれが詰まった漆の箱を俺に手渡す。


「頼むぞ」

「これに見合った働きはしてみせます」


 大金を目の前にした俺は気持ち的問題などどこへやら、すっかりやる気になっていた。

 


 翌日、俺はすぐさま軒猿副隊長に連絡を取り上杉軍本陣妻女山へ帰還した。わずか3日で無傷で帰還。祈も安心のちょい出張である。


「ただいま、祈。……ゑ!?」


 状況を理解するのに時間がかかった。俺が戻ったのは祈と俺のテント。そこにいたのは祈と政虎。ふ、ふふふ不倫現場?? い、いやまさかそんなわけがない。でもなんでこんな早朝に政虎がなぜここに!?


「あ、おかえりなさいませ!! ご主人様」

「おお、かなり早い帰還だな」


 2人の様子には焦った様子はない。不倫がバレてうわぁぁとかいう展開はなさそうだ。


「あ、あの政虎様は何故ここに?」

「ああ、お前がいない間祈を借りていた。ともに夜まで語らったのだ」

「よ、よよよ夜まで!? いったい何を?」

「あ、そっか。ご主人様はまだ……」

「む、ああ。そうか。まだ話していなかったな」


 2人が意味深な笑みを浮かべる。俺はイマイチよくわからない。


「安心してください旦那様? 祈と政虎様の間に旦那様が想像するようないかがわしい関係は一切ございません」

「へ? あ、そなの?」

「だって政虎様は実は……」


 祈が俺の耳元で政虎の秘密をささやく。その言葉に俺は叫ばずにはいられなかった。


(ごにょごにょ)

「は? お、女!? 政虎様が!?」

「おい! 声がでかいぞ!! 外の連中に聞かれたら困るんだ!!」

「あ、すみません。いやでも、だって……」

「そんなに不思議か? ほら」


 そういうと政虎はいつも欠かさずつけていた白い布を頭から外す。美しい顔と意外にも長い黒髪が露わになる。


「マジかよ……」


 越後の龍、軍神。そんな異名を持つ日本で大人気の戦国武将、上杉謙信はまさかの超絶美女だった。


 当時のスペインの報告書には上杉謙信は上杉景勝の叔母と記述されているらしいので今作では女性ということにしてみました。


 メタ的な発言をするとこの作品女性キャラが少なすぎるというのも理由のひとつ。

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