第62話 桶狭間の戦い(2) 開戦
熱田神宮にて、織田信長の兵3000人が集結していた。林秀貞、柴田勝家、丹羽長秀、滝川一益、佐々成政、河尻秀隆、長谷川橋介、金森長近などそうそうたるメンツだ。
信長は熱田神宮を参拝する。戦勝祈願だ。
(熱田大明神、我らに勝利を!!)
「熱田の者に命ずる。ここに白い旗とかを無数に立てておけ!! まだ俺たちがここにいると思わせるためにな」
「りょ、了解!!」
「俺たちはすぐに善照寺砦に移動する。全軍ついて来い!!」
「「ハッ!!」」
「信長様、大助殿は?」
「利家殿の姿も見えないようですが」
長秀が大助を、勝家が利家のことを問う。
「大助は義元本陣の位置を探りに行かせた。利家は今回はお休みだ」
「利家殿がお休み? 何故だ?」
「諸事情だ。行くぞ!!」
信長は強引に話を終わらせる。その様子に勝家と長秀は首をかしげながらも黙ってついて行く。
11時55分、出陣の5分前。
「大助はまだか!!」
「まあ、簡単な任務ではないですし。もう少し待ちましょう」
「出陣は12時だ。それは変わらない。12時までに大助が戻らなければ三河との国境を走って今川の本隊を見つけ次第、攻撃する」
「待ってください!! それでは本隊と当たる前に絶対にほかの隊と当たります!! 他の隊と当たってしまえば、本隊に警戒されてしまいます!! そうなれば負けは必至です!!」
信長の告げた作戦を長秀が慌てて否定する。
「もちろん、大助が戻ってくるのが最善だ。大助が戻ってくれば、本陣だけをピンポイントで奇襲できる」
(頼むぞ、大助……!! 織田の未来はお前にかかってる!!)
長秀は心の中でそう強く祈った。だがこれは長秀だけでなく、利家も一益も可成も、もちろん信長も同じことを祈っていた。
だが12時になっても大助は戻ってこなかった。
「……仕方ない、か」
時刻は12時ジャスト。出陣すると予告した時間だ。
「佐久間信盛隊500をここに残し、それ以外の3000強を全軍出陣させる」
「はっ!!」
「まずはもっともいる確率の高い三河との国境へ向かう」
「……」
「なんだ長秀? 何も言わないのか?」
「もうそれしかないでしょう。最初に行く場所に本隊がいれば勝てるでしょうし」
「そうか。大助が戻ってこないのは残念だったな。情報も、戦力としても」
「本当ですよ。大助さえ戻ってくれば奇襲がしやすいのに」
「いないものは仕方ない。整列しろ!!」
「はっ!!」
信長の指示で城門の前に整列する。
「行くぞ!! 義元の首を取る!! いざ、出陣!!」
「「オオオオォォォ!!!!」」
信長を先頭に城門を出る。
「ん?」
「あれは?」
「……遅刻だぞ。……大助!!」
血泥にまみれの大助。その左手には二つの首が持たれている」
「はぁ、はぁ。……すみません。遅れました」
「おい、なんだそれは?」
「今川の将、松井宗信と岡部直定の首です。奇襲するときに邪魔になりそうだったので取ってきました」
「全く……、俺が命令したのは本陣の位置と戦力、陣形のはずだが?」
「もちろん、それも、わかってます。本陣は桶狭間山の麓の窪地に滞在しています。兵数は6000ほど、多くの家臣が集まっています。ただし兵の多くは戦い慣れてなさそうでした」
「そうか、十分だ。よくやった!! これから奇襲をかける。いけるか?」
「なんとか……。移動中は休みたいですが」
「よし。大助は自分の隊に合流しろ」
「了解」
「主様お疲れ様です」
「おう、彦三郎。ちょっと休みたいから俺の後ろに乗ってくんない?」
「はい」
彦三郎は俺の馬に乗り、手綱を引く。その胸に寄りかかり、目を閉じた。
「主様、主様、着きましたよ」
「んむぅ?」
「ほら、寝ぼけてないで起きてください」
「ん? あ、おはよ」
「おはようございます。ほら戦ですよ」
すんげえ台詞だな。
だがその台詞通り、斜面の下には今川本陣があった。
俺は腕をぐるぐる回して、
「だな、いっちょやるか!」
体はところどころ痛むが、問題ない。と思いたい。
信長が全軍の前に馬で現れる。
「お前たち!! 相手は駿河、遠江、三河の三国を治める今川義元だ。覚悟はいいな?」
「「おおおぉぉぉ!!」」
「今川は因縁のライバル、だと我が父・信秀はずっと言っていた。まあこれは父上が勝手に言っていただけで相手は全然そんなこと思ってないだろうし、俺も『さすがにそれはないだろ』って思ってたけどな」
なんだなんだ?何の話だっけこれ? まあ俺も今川のライバルは武田とか北条とかだと思うけど。
「まあライバルかどうかは置いておくが、今川は倒さなければならない相手だ。そしてその大将首が今、目の前にある!! こんなチャンスは二度とねえ!!」
おお、この織田家存亡、尾張一国の危機をチャンスと言うか。
「このチャンスは逃さねえ!! 今川義元の首は必ず取る!! 失敗は許されねえ!! いいな?」
「「おおおぉぉぉ!!」」
「義元の首を取ってこの戦、俺たちの完全勝利だ!!」
「「おおおぉぉぉ!!」」
「全軍、突撃ーーーー!!!!」
突撃の号令とともに、信長が馬の手綱を引き斜面を駆け下り始める。先頭で行くのかよ!! まあめっちゃカッコいいけど。俺もちょっとやりたい。
「坂井隊も行くぞぉぉぉ!!」
「「オオオオォォォ!!」」
俺が先頭で斜面を駆け下り始める。その後ろに大吾と隆康、そして利家がついてくる。
正面の敵は薄い。簡単に抜ける。本陣の兵は弱そうだった。できるだけスピーディーに義元とできれば今川の重臣も討って、周りの敵が寄ってこないうちに退散したい。
「接敵します!!」
「俺がやる!!」
「俺も!!」
俺が前に出ると同時に、利家が槍を手に俺に並ぶ。
「「オラァァ!!」」
これが、開戦の合図だった。
桶狭間の戦い、開戦。