表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第一部 2章 『尾張統一と桶狭間』
60/253

第60話 利家の想いと『敦盛』

今川義元。駿河、遠江、三河の三国・100万石を治める大大名。別名は”東海道一の弓取り”。室町初期から続く名家・今川家の頭領であり1560年現在、この国の最大勢力の一つである。

 織田信長。昨年やっとこ尾張国統一を成し遂げた”尾張の大うつけ”。統一したばかりの尾張をまだ完全に支配できておらず、今のところは下四郡17万石の弱小勢力に過ぎない。


 こうしてみると本当に絶望的な状況だな。今川義元は今最も天下に近い人物と言っても過言ではないだろう。そんな大物を信長が打ち破る歴史的瞬間を見れるとはな。ちょっと感動。


 5月19日。おそらく今日今川との戦闘になるだろうとのことで織田の重臣たちは清洲城に集められていた。

「籠城だ。籠城しかない」

「ああ、その通りだ。外で戦っても勝ち目はない」

 今川の大軍を前にして家臣たちの中では籠城という消極的策を推す者が多かった。もちろん信長はそれを良しとはしなかった。

「籠城はせぬ。古来より城にこもって勝った例がいくつある? 戦は城を頼るな」

 それだけ言うと信長は部屋を出る。残った家臣たちは口々に言う。

「愚かな」

「城から出たら負けるというのがわからんのか」

「やはり、信長様は”大うつけ”じゃ」

 俺と利家は信長を追った。


 信長は寝所で横になっていた。何かを考えているように見える。

「殿はこの戦どうするおつもりですか? 無策で挑んでも勝てないでしょう? 何か考えがあるのでは、と」

 利家が尋ねる。

「そんなものはない。この兵力の差は策でどうこうできるものではない」

「で、では!! 殿は勝ち目がないのに無策で今川に挑むと!?」

「…………」

「な、なら籠城にすべきです!! 急ぎ美濃に和睦の使者を送ってその援軍が来るまで耐えれば……」

「無理だな。そもそも斎藤義龍は俺たちと和議なんて結ぶはずがないであろう」

「な、なら……尾張を脱出しましょう!! 今川と戦えば殿は殺されてしまいます!! 生きてさえいればまた機会が!!」

「利家!!!!」

 突然大声を出した信長に利家がビクッと肩を震わせる。

「俺が、逃げる? ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!!」

 だが利家も負けじと言い返す。

「あなたはこんなところで死ぬべき人間じゃない!! 勝ち目のない戦いで死ぬよりは生き残って天下への道をまた一から探し始めるほうが賢明だと言っている!!」

「利家!! そんなに逃げたければお前ひとりで逃げろ!! 戦に参戦なんてしなくていいからな!!」

「と、殿……」

「出ていけ!!」

 利家は誰よりも信長のことを考えて話している。だが、それが信長に伝わることはなかった。

 利家は絶望の表情を浮かべて部屋を出る。こぶしを握りしめ、瞳には涙を浮かべていた。


「大助、お前も俺を止めるのか?」

「いえ、止めませんよ。俺は信長様を信じていますから」

「ふ、そうか」

「利家だって、信長様を想って言っているんです。どうか許してあげてください」

「そんなこと、わかっておるわ。あいつは誰よりも俺のことを想ってくれている。誰よりも忠誠心があつく、何よりも俺のことを優先する。あいつは、そういうやつだ。誰よりもあいつと付き合いが長い俺が言うのだから間違いない」

「そうですね。俺もそう思います。俺も殺されかけたことありましたし」

「はは、そんなこともあったな。とにかく、あいつは必ず、戻ってくる。必ずだ」

「ええ、間違いないでしょう」

 利家は大丈夫だ。あいつはそういう奴だから。そう信長と確かめ合う。

 

「報告!! 丸根砦、陥落です!! 城主の佐久間重盛殿は討ち死にとのこと!!」

 報告は唐突に来た。尾張を守る重要拠点、丸根砦があっさりと陥落したというのだ。

「誰に落とされた?」

「報告では今川方の武将・松平元康、朝比奈泰朝に落とされたとのこと!!」

「むう、竹千代か」

「竹千代が!?」

(竹千代は元服して松平元信と名乗ったがその後名前を変え松平元康と名乗っていた)

「あいつはすっかり今川の武将か……」

「あまり戦いたくない相手ではありますね」

「報告!! 鷲津砦、松平元康により陥落です!! 砦を守っていた飯尾定宗、織田秀敏らは討ち死にとのこと!!」

「竹千代、丸根に続き鷲津も落とすか」

「厄介ですね」

「ははは!! あいつも立派な武将になったという事だ。友の成長を喜ぶこととしよう!!」

「確かに、そうとも言えますね。ははは」

「報告、御苦労だった。下がってよいぞ。大助は戦の準備をしておけ」

「はっ!!」

 部屋を出て、障子を閉めると何やら音楽のようなものが聞こえてきた。障子に移る影から見て、何か踊っているようだ。耳を澄ます。

(人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり

一度生を享け、滅せぬもののあるべきか

これを菩提の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ)

 確か信長の好きな舞だ。確か名前は……幸若舞『敦盛』。人の世の時の流れの儚さを表している一節だ。なんでこの節を踊ったかはわからない。きっと信長流のルーティンみたいなものなのだろう。俺はそう納得し、戦の準備へ急いだ。

 

 戦国一、いや日本一有名な戦いかもしれない。

 織田信長VS今川義元 

 桶狭間の戦いが今始まる。 

 

 


 次回から桶狭間の戦い!! 

 乞うご期待!!

 8万6千PVありがとうございます!!

 この度なんと15万字を突破しました!! これからも読み続けてくれると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ