第57話 橋本一巴と愛弟子たち
「信長様ァァァ!!!!」
刃が振り下ろされる。
カキンッ!!
刃が何かに受け止められた。それは・・・・・・
「師匠!!」
「一巴!!」
師匠が信長に振り下ろされた剣を右手の刀で受け止めている。そう《《右手で》》。
師匠の顔が痛みに歪み、刀を取り落とす。
「・・・・・・ッ!!」
「師匠!!」
「一巴!!」
信長が咄嗟に師匠を守ろうと動く。だがそれは師匠が止めた。
直後、師匠に敵の凶刃が振り下ろされた。
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信長様との関係は支えるべき主人であり、小さい頃から見てきた弟子でもある。僕の銃の腕をかって取り立て、信長様を任せてくれた信秀様。その期待に応えようと今まで頑張ってきた。任されたからには責任を持って、何かあったら守るんだ。
信長様の他にもたくさんの弟子をとった。信長様の小姓、松平家の人質、当時尾張最大の敵だった奴の息子、信長様に気に入られようとしている農民の小僧、他にもたくさんの弟子ができた。中でも坂井千代松。彼は僕を軽く凌駕する才能を持っている。彼の成長はまだまだこれからだ。そう、まだ子どもだ。両親をあの年齢で失った彼を師匠の僕が支えてあげないと。
そうだ、まだやらないといけないことはたくさんある。まだ死ねない。
「アアアァァァ!!」
痛む右腕、切り裂かれた胸。痛い、苦しい。でもそれが自分の責任を放棄する理由になるか? 否だ。左手の銃を強く握り、正面の敵に向けて引き金を引く。
パァァァーーーン!!
一度の銃声で2つの弾丸が放たれ2人の兵士が倒れる。
「師匠!!」
「一巴!!」
2人の弟子が僕を呼ぶ声が聞こえる。
「信長様、ご無事、ですか?」
「ああ、大丈夫だ。それよりお前が・・・・・・!!」
「僕は、大丈夫です。まだ、戦いは、終わってない。僕は、まだ、やれる!」
「一巴」
「信長様は、弟子たちは、僕が、守る。それが、僕の、責任」
「一巴、もういい。下がっていてくれ。俺も、大助もいる。お前の弟子が成長したところを見ててくれ」
「そうですよ、師匠。信長様は俺が守ります。師匠は早く治療を」
「ふ、2人とも」
「大丈夫ですよ。だって俺たちは“戦国一の砲術家”橋本一巴の弟子なんだから」
「ああ! 行くぞ!!」
掠れた視界に2人の弟子が敵を次々と倒していく。
(ああ、もう2人とも、立派に戦えるようになってたんだね・・・・・・)
2人の実力は知っている。いつかの模擬戦で実力に驚かされたのは記憶に新しい。知っていたはずなのに、どこかで2人を守らなきゃいけないという意識があった。2人はもうとっくに一人前だったのに。
そんな安心感の中、橋本一巴は目を閉じた。
「師匠!! 師匠!!」
「一巴!! 起きろよ!!」
誰かが僕を呼ぶ声が聞こえる。今は疲れているんだ。もう少し寝かせて欲しい。仕方なく目を開ける。
「あ!!」
「一巴!!」
「師匠!!」
視界に映ったのは3人の弟子。前田利家、織田信長、坂井大助。3人とももう一人前の僕の愛弟子だ。
「ぁ、み、みんな」
起きようと地面に手をつくと、体に痛みが走った。胸に大きい刀傷ができている。
「そうか、僕は死ぬのか」
右腕は動かない。全身傷だらけで胸の傷は明らかに致命傷だ。
「・・・・・・すみません。師匠。できる限りのことはしたんですが」
「気にしなくていいよ。むしろありがとう。戦はどうなった?」
「あの後すぐ、信清殿が到着されて、敵は両翼がないこともあり撤退していきました」
「つまり、勝ったんだね」
「はい」
「そっか。よかった」
天国へのいい土産話だ。僕も結構頑張った。できる限りのことはやった。弟子もとっくに一人前だ。
「信長様」
「一巴」
「申し訳ありません。もっと支えていたかったのですが」
「いや、お前はもう十分やってくれた。ありがとう」
「そう言ってくれると、嬉しいです」
「ああ、お前には銃を教わり、最後には命も救ってもらった。本当に、ありがとう」
目頭が熱くなる。ああ、今まで頑張ってきてよかったなぁ。
「利家」
「はい」
「君には免許皆伝をあげられなかったね」
「・・・・・・はい」
「でも君は銃なんてなくても立派な1人の武将だ。槍の又左なんて呼ばれて。これからも信長様を支えてあげてくれ。どうしても銃がやりたいなら千代松、じゃなくて大助に教えてもらってね」
「はい、ありがとう、ございました・・・・・・!」
「うん。・・・・・・大助」
「はい、師匠」
「君はすごい人だ。今まで僕が教えてきた人の中でも、ダントツで銃の才能がある。でもまだ荒い。これからも銃の腕を磨いて。そうしたら君は僕を超える、日の本一の、砲術家になれる」
「っ、はい」
「泣かなくていい。大助、これからも励むんだよ。どんな時でも、冷静に、これを忘れてはいけないよ」
「っ、・・・・・・はい!」
「うん。あとこの銃は道一に、渡して欲しい。僕の愛銃だから大事にするよう、伝えて、欲しい」
大助にもらった銃。それを息子に渡すように頼んで再び目を閉じる。
「師匠?」
「一巴?」
「先生?」
体に力が入らない。本格的にその時が来たようだ。
「・・・信長様、利家、千代松、強く、生きて。この戦国の世を、輝いて、生き抜いて・・・・・・」
僕の愛弟子の未来に幸せがありますように。
永禄元年7月12日 “戦国一の砲術家” 橋本一巴
尾張国丹羽郡 浮野の戦いにて戦死。 享年不明
作者が言うのもあれですが橋本一巴、かなり好きなキャラクターでした。
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