第56話 浮野の戦い (9)
遅くなりました!!
少し用事がありまして……
今日から再開いたします。
「思ったより抵抗が激しいな」
「ですな。後ろから突入したのに......」
俺たちは敵両翼を討った後、兵を休めるのも最小限に敵の後方を攻め始めた。にも関わらず敵はそれを想定していたかのように後方に防御陣形を展開した。
「これでは奇襲の意味がない。敵両翼を討った後、持ち場に戻って防御に徹した方が良かったくらいだ」
「ああ、このままだと信長様の方がやばい。急がないと」
「大助殿、何か策はありますか?」
「一度この乱戦を解いて敵の横を攻める。というのは敵も想定しているでしょうか?」
「敵の防御陣形の組み立ての速さを見てもあらゆる状況を想定されていると考えた方が良いでしょう。その上で突破できると言うならやるべきでしょう」
「いえ、ここで兵数を割くデメリットの方が大きいような気がします」
「では、どうしましょう?」
「一益殿も考えてくださいよ」
「考えてはいるのですが......この状況が最も勝てる確率が高い計算なんですよ。前に強い者を集めて敵の後方に突撃。確率をあげるためのことは全てやりました」
「ちなみにその確率を教えて貰っても?」
「突撃開始前で7割5分と見込んでいたのですが敵の防御陣形の展開の速度から6割ほどに落ちました。まあすべて私の見立てが正しければ、ですが」
「その計算だと信長様がどれだけ耐えられる計算なんです?」
「四刻ほど」
四刻、つまり8時間ほど。だが開戦から一刻強しか経っていないがもう本陣は陥落寸前だ。もしかして滝川一益の計算とやらは当てにならないのではないだろうか。
「それはさすがに厳しいでしょう」
「ええ、修正しなくてはいけませんね」
いや、もう当てにしないから大丈夫。
「何か変化が欲しいですね」
「ええ」
「策は無いんでしょう?」
「ええ」
当然の如く頷く一益。なんて頼りないんだ。
「なら、俺が最前線で道を切り開きます。一益殿は兵の統率を」
「わかりました。兵は精鋭を100人連れて行ってください」
「いえ、俺1人で行きます。精鋭は今まで通り、前衛に固めて置いてください」
「は? 1人?」
「ええ、では行っ」
「まま待って下さい!! 危険すぎます!! 1人で前に行って今言った活躍ができる確率は1割にも満たない!!」
「それは俺の事を低く見すぎじゃないすかね? まあ見てて下さいよ」
唖然とする一益を置いて俺は前線に躍り出る。
「俺は信長軍左翼の将、坂井長之丞大助!! 来いよ、お前ら。大将首だぜ?」
左手で首を軽く叩き、反対の手で刀を抜く。途端、敵兵が一斉に群がってきた。
「「おおおぉぉぉ!! 大将首だぁぁぁ!! 殺せえ!!」」
「どけ、お前!! 俺の手柄だ!!」
「ふざっけんなよ!! あれは俺の手柄だ!!」
いきなり人のことを手柄呼ばわりとは、こいつらにモラルは無いのだろうか。そんなことを考えつつ、襲ってきた奴らをまとめて切り飛ばす。
早く、もっと早く。敵の槍や刀を掻い潜り、回転しながら周りの敵をまとめて切り捨てる。銃は使わない。できるだけ刀で戦って、有効なタイミングでのみ銃で仕留める。これはリボルバーをリロードする暇がないからだ。ただひたすら前へ、斬って、斬って、斬り続ける。
「ヒュー、ヒュ………」
荒れた息を整え、攻撃を掻い潜り、敵をまとめて薙ぎ払う。敵が血潮を上げて倒れる。もう何度目かもわからない。斬った人数は200を軽く超える。だが動きは確実に乱れている。最初は最低限の動きで振られていた剣が今はやや大振りになっている。“叩き切る”という言葉が適切だろうか。体力の限界が近い。
戦況の方は3層の敵のうち2層目を突破した所だ。残すは乱戦している第一陣のみ。乱戦中の味方をかき集めながら信長を救出しなければ。だが気になる点も多い。まず敵大将・織田信賢らしいものがいない。敵中央を突破してきたにもかかわらずそれらしき者が一切いなかった。左右のどちらかにいるのか? 大将は討ちたいけど信長救出を急がないといけない、今は探す余裕はない。
「さあ、もうすぐ信長様のところです。突っ込みましょう」
「ええ、俺についてきてください」
「大丈夫なのですか? 随分と消耗しているようですが」
「そうですね、一益殿がやってくれてもいいんですよ?」
「いえ、お任せします」
ちょっとは頑張ってほしい。ここまで俺ずっと頑張ってきたんだから少しは一益が武将らしく敵を倒すみたいな所も見せてほしい。
「ふーーーっ」
一度深呼吸した後、刀を握り直し乱戦に乱入する。
「信長軍の兵はこの軍に合流しろ!!」
一益が戦っている兵士たちをまとめ上げ、軍が少しずつ大きくなっていく。
「ん? あれは?」
「信長様の旗が近づいてくる?」
信長の軍旗を掲げた小隊がこちらに近づいてくる。
「一益殿、あれは……」
「ええ、信長様でしょう、いち早くこちらに合流するために突撃しているのでしょうが……なんて無茶を」
「あんなのはすぐに消滅するぞ!? 俺たちも急がないと」
「焦りは禁物です。大将の軍としては少ないですが100はいます。計算ではまだ半刻は猶予があります。落ち着いていきましょう」
「……わかったよ!!」
俺たちは軍を集めながら信長のもとへ急ぐ。
「急げ!! そろそろ本当にあっちが消滅するぞ!!」
「計算よりだいぶ早いですね。本当に急がないと」
「お前の計算を信じた俺がアホだったよ!!」
いけない。いつもは敬語なのについ前世の友達みたいな話し方になってしまった。
「あ!! 見えてきました!!」
「突っ込むぞ!!」
「了解です!!」
突撃していたはずの信長たちの勢いはすでに失われ、囲まれてしまっていた。囲んでいる敵の壁を破り突入する。
「信長様!!」
「大助!!」
こちらに気づいた信長が叫び返す。俺が来たことによる安堵の表情だ。
だがその後ろでは敵の狂人が信長に向かって振りあげられていた。
「信長様ァァァ!!!!」
信長は気づいていない。銃を抜くが間に合わない。頼む、誰でもいいから信長様を守れ!!
刃は、振り下ろされる。




