第51話 浮野の戦い (4)
翌日、朝5時。彦三郎が俺の寝ている所に飛び込んできた。
「我が主!!敵に動きが!!」
「……すぴー」
「我が主!!寝ている場合ではありません!!早く来てください!!」
「……それ、今じゃないとダメ?陣形変えてるだけとかだったら許さないからね?」
「えっ……。た、確かに陣形を変えているだけ、だけといえばそうなのですがその陣形がまずいんです!!こちらも対応しないと!!」
「……任せる」
「ちょ!!我が主〜〜!!」
俺が目覚めたのは7時半。前世で会社行く時にはこのくらいの時間に起きていたものだ。あの会社割と家から近かったんだよな。
「我が主!!敵の動きを見て我らは防御陣形を敷きました。如何ですか?」
「うん。ありがとう。で敵は?」
「ここからではよく見えないので少し高い丘に行きましょう」
少し歩き、戦場が見渡せる丘にやってきた。まず手前。我が軍、左翼600人。一巴師匠の軍が合流し初日の俺たちの被害を相殺した形だ。陣形は防御陣形。
続いて中央、大将・信長とその前方に森可成、前田利家の隊合計300人ほど。逆に信長の後方に丹波長秀隊500人。これは信清殿が裏切った時、信長を守る位置だ。
そして中央を挟んで俺たちの反対側。右翼、滝川一益隊400人。俺たち同様防御陣形を敷いている。
次は奥側。敵の中央には大きな動きはない。問題があったのは両翼。先端をここからでもわかる重装備の騎兵で固め、隊全体は棘のような形をしている。明らかな突撃態勢。それは両翼に2隊。俺たちと一益殿のところに突っ込むつもりか。
っていうか
「あれ、やばくね?正面の敵右翼、確か山内盛豊だっけ?あの隊1000人弱いるけど」
「ええ、相当まずいです。ですがこの防御陣形なら……」
「いや、無理だろこれ」
こんなの防御陣形をあっさり突破して壊滅するのがオチだ。
「やべえな。数も俺らより多いし」
「信長様に援軍を要請しますか?」
正直、それをしないと厳しいかもしれない。でも敵中央に動きがないから信長が兵をこっちに送ると中央が攻められる可能性がある。それに……
「俺たちより一益殿の方がやべえ」
「え?あっ!」
一益殿の方は400人しかいない。それに対し敵はこっち同様1000人が突撃態勢をとっている。信長が援軍を送るなら絶対に右翼だ。そうしないと右翼は壊滅する。
「信長様には頼まないが、後ろの長秀殿に援軍を要請しろ」
長秀殿は信清殿が裏切らない限りあそこを守備する意味はない。今はその無駄が命取りだ。
「了解、我らは?」
「陣形を変える。あれはこれでは守りきれない」
「ですが、これ以上の防御陣形は……」
「ああ、ない」
「ではどうするというのです?」
「これだよ、これ」
俺は自分の首を軽く叩いて彦三郎に見せる。
「ま、まさか敵将の首!?山内盛豊の首ですか」
「ちっちっち、まだまだだね彦三郎くん。俺狙うのは敵総大将、織田信賢の首だ」
「……はぁぁぁ!?!?」
「今すぐ敵と同じ突撃陣形を敷け。先頭は俺がやる」
「ちょ、ちょっと待ってください!!あれと正面からぶつかる気ですか!?」
「うん!!はよ陣形作り直せ!!」
「しょ、正気の沙汰じゃない……」
俺が発案したのは敵のあの突撃陣形を同じ突撃陣形で突破して敵中央を横から攻撃するというもの。
「長秀殿にここの守備はお任せする。今回は守りばっかだったからな、やっと俺たちが攻めるターンだ!!」
そう言って俺は丘を駆け降りた。
「わ、我が主ぃぃぃ!!!!」
彦三郎の声が戦場に反響した。
俺は整列した自分の軍を振り返り、士気を上げる言葉を考える。稲生の時はなんだったか。確か信長の天下の夢の話だったか。今回は……決めた。
「お前たち!よく聞け!!」
兵士みんなが俺を見上げる。リボルバーを取り出してそれを上に掲げた。
「今、俺たちはかなり厳しい状況にある!!」
その言葉に兵士がざわついた。
「俺たちはこの戦に勝たなければならない!!そしてそのための俺たちの役目とは正面に敵右翼をここに押し留めることだ!!だが守っているばかりではいられない!!守り続けても消耗しきって負けるだけだ!!そんなことは絶対に受け入れることはできない!!」
「「おぉぉぉーーー!!!」」
「よって俺たちは今から敵を倒しに行く!!俺たちの手で信長様に勝利をお渡しするのだ!!」
「「おおおぉぉぉーーー!!!信長様に勝利をーー!!」」
「勝利の鍵を握るのは俺たちだ!!俺たちでこの戦の勝利を掴む!!絶対にやれる!!お前らと一緒なら!!」
「「おおおォォォーーーー!!!!」」
「お前らには俺がついている!!戦国最強のガンマンであるこの坂井大助が!!」
そう言って俺はリボルバーを敵軍に向け、引き金を引いた。
パァァァーーーン!!
銃声。敵の先頭の重装備の男が馬から落ちた。悪いけど演出のため、士気のための尊い犠牲だ。いや、戦だから問題ないか。
「「おおおぉぉぉ!!」」
「俺がいる!!お前らがいる!!俺たちが負けるわけがねぇ!!」
「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」
「行くぞ!!全軍!!突撃ィィィーー!!!!」
「「うおおおぉぉぉ!!!!」」
俺たち左翼軍は最高潮の士気のまま、敵右翼に突撃を開始した。これが浮野の戦いで最も激戦となる6日目の戦闘の開始の合図となった。