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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第一部 2章 『尾張統一と桶狭間』
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第41話 勘違い猿と戦後処理

 俺、坂井千代松は尾張、清洲城の西側5万石の土地に約1200人の兵士を保有する武将となった。5万石と言うと尾張全体が57万石なので尾張国の中のおよそ9%。これは信長の家臣の中でもトップクラスに多い数字だ。まあ半分以上父上からの相続なんだけどね。


 俺は稲生の戦いの後、その領地の税収(米)の確認や新たな兵士たちの配属先、稲生の戦いで討ち死にした人の確認や軍の再編などで多忙な日々を送っていた。難しいところはだいたい常道や彦三郎がやってくれるんだけど一応領主だから何もしないわけにはいかないのだ。そんなある日、俺は信長に清洲城に召集された。



 清洲城に向かっている途中、ある男と鉢合わせた。猿である。


「おう、千代松殿。お久しゅうございます」

「ん?ああ、さ、じゃない。えーっと……」


 あっぶね、危うく猿って言いかけた。名前なんだっけ?猿ってのがインパクト強すぎて……。秀吉って呼んでいいんだっけ?


「はっは、猿でも別にいいが……改めて、木下藤吉郎じゃ」


 ああ、そうだったわ。


「俺は坂井千代松。藤吉郎殿これからよろしく」

「む?”よろしくお願いします”ではないか?」

「え? ああ、よろしくお願いします」

「はっは。こちらこそ」


 なんだこいつ?前に会ったときはこんな偉そうじゃなかったのに。もしかしてもう俺より偉いとか?農民出身だろ?流石に早すぎないか?

 藤吉郎の態度について少し考えていると清洲城についてしまった。


「千代松殿、これを見てくだされ」


 そう言って藤吉郎が指さしたのは清洲城の石垣。別に、ただの石垣だが……?


「これがどうしましたか?」

「これはワシが稲生の戦いで壊れた石垣をわずか10日で修理したのだ。どうだ?」


 俺すごくね?みたいなドヤ顔でこっちを見てくる藤吉郎。


「え?あ、すごいっすね」


 とりあえず褒めておく。


「じゃろ?この功と稲生の戦いでの功をあわせて殿に500石の土地をいただいたのじゃ!あっという間に千代松殿越えじゃ!!」


 え?なんで自分の方が上だと勘違いしているのだろうか?


「あ、あの藤吉郎殿は俺の身分がどこかご存じで?」

「む?この前の足軽大将の会議には出ておらんかったから足軽か、小物頭じゃろう?」

「侍大将です」

「……ふぇ?」

「侍大将です」

「…………」


 大事なことなので2回言った。侍大将。つまり足軽大将の藤吉郎のはるかに上である。藤吉郎は呆けた顔、続いて驚きの顔、最後に”やっべえ俺めちゃめちゃ偉そうなこと言ってしまった!?”という焦りの顔に変化する。面白い奴だ、顔が。


「ち、ちなみに領地は?」

「5万石です」

「ごっ!、ごごご5万石ぅ!!?!?!??」


 藤吉郎のざっと100倍。


「藤吉郎君」

「はっ、はい!」


 藤吉郎の額には焦りで脂汗がうかんでいる。


「敬語。気をつけようね?」

「はっ、はい!もちろんです!千代松殿ぉぉ!!」

「じゃっ!またね!藤吉郎君!!」


 馬を馬小屋において、信長の所へ向かう。満面の笑顔で藤吉郎に別れの挨拶をした。


「はっ!!はいぃぃぃ!!」


 藤吉郎はおびえる顔をしていた。まあ俺じゃなかったら首とんでるだろうしね。

 あ、でもあいつ将来の天下人なんだよな。今のうちに媚び売っといたほうが良かったかもな。なんてことを考えながら俺は藤吉郎と別れたのだった。



 清洲城広間。そこには織田家の重臣が勢ぞろいしていた。

 まず、正面には主人たる織田信長。家老の位置は空席で、左右には丹羽長秀、滝川一益、前田利家、佐久間信盛など名だたる武将が並んでいる。

 そして信長の正面。そこには信長に似ている男(たぶん信行)とその後ろに林秀貞、そして頭を丸めた(坊主)柴田権六がいた。

 皆が信行に注目する中、俺だけはその後ろの柴田権六を見ていた。正確には柴田権六の頭をだ。髪型がッ……!あの頭頂部ハゲ、側面パーマ、さらにチョンマゲという面白髪型が消失しているッ……!!これは世界の損失だ……。



 そんな俺は置いてきぼりに話し合いが始まった。議題は今回裏切った主犯3名の処分。


「どうか、お許しください、兄上。美作に唆されて愚かなことをいたしました」


 なるほどね。死者に責任の大部分を押し付ける気か。合理的だけど気にくわない

な。


「……」


 信長は黙っている。裏切ったとはいえ信行は血を分けた実の弟だし、林秀貞も柴田権六もいなくなれば織田家にとって大きな損失だ。迷っているのあろう。

 しばらくたって信長が声を出した。


「新五郎(林道勝の別名)、権六」


 呼ばれたのは信行ではなくその家来二人。


「2度と俺を裏切んじゃねぇぞ?」


 信長がものすごくドスの利いた声でそう言った。


「は、ハッ!!」

「も、もちろんでございます!!」

「なら、許す。権六は引き続き末盛城にて信行の補佐。いいな?」


 その言葉に命は助かるとわかった信行が


「あ、ありがとうございます!!兄上!!」


 と安堵の表情で感謝を述べていた。

 意外だな。信長なら殺すかと思った。なんか残虐なイメージあるし。



 会議後、俺は信長に信行たちを殺さなかった理由を聞いてみた。


「勝家は優秀な武将だ。俺の天下取りにはあいつは必要だ。林もな」

「では、信行様は?」

「本当は殺すつもりだったんだがな。……母に頭を下げられたんだよ」


 なるほど……確かに信長でも母親に頭を下げられたら言うことを聞いてしまうか。


「千代松は殺すべきだったと思うか?」

「いえ、今度は何かあっても勝家殿が報告してくださるでしょうし」

「だな。信行もゆくゆくは俺の配下としてともに天下を目指したい」

「そうなるといいですね」


 兄弟で目指す天下、それも悪くないのかもしれない。

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