第40話 一騎打ちと論功行賞
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再び場面は変わり千代松の戦場。こちらでは千代松と林美作守の一騎打ちが始まろうとしていた。
「行くぞ!!俺は”特別上忍”坂井千代松!!」
「我こそは織田家重臣、林美作守通具!!」
刀を構える千代松と槍を構える美作守。
明らかな武器のリーチの差。15歳と30歳そこそこの美作守で体格にも差がある。それでも千代松は一歩たりとも引かない。それどころか勝ちを確信しているようにさえ見えた。
正面で槍を構える美作守の印象は《《そこそこ》》戦えそうという感じだ。アホみたいに強かったり逆にとんでもない雑魚だったりしない。はっきり言って俺の敵ではないだろう。
なら今俺が考えるべきことはどんな倒し方をするか、だ。できるだけ《《映える倒し方》》をしたい。かっこよければかっこいいだけいい。でも接戦を演出するのはナシだ。圧倒的かつ印象的な倒し方をしなければ。
「どうした?来ないのか?」
おっと、考え事に熱中しすぎてしまったようだ。
「失礼、少し考え事をしていた」
「負けた時の言い訳でも考えていたのかなッ!!」
悪態をつきながら槍を大きく横に振る。
んなわけねーだろ。俺は馬からジャンプで美作守を跳び越す。
槍は俺の乗っていた馬の頭スレスレを盛大に空ぶる。
俺はすでに美作守の後ろにいる。
「それを考えるのはお前だよっ!!」
刀を振るう。一応、”一之太刀”のように振ってみたが一之太刀にはならない。俺が”一之太刀”が出来たのはあの信長に向けて振った一回のみだ。
俺の一撃は”一之太刀”ではなかったがそれでも美作守を殺すには十分な一撃だった。首は宙を舞い、地面に落ちる。体は馬の上で微動だにしない。俺は刀を軽く振り、刀についた血を落とし鞘にしまう。それから数瞬遅れて俺の軍の歓声が戦場に響き渡った。
「「うおおおぉぉぉ!!!!」」
「千代松様バンザイーー!!」
「一瞬だ……!!」
「一撃!?!?」
「見えなかった……」
「林美作守、千代松様自ら討ち取ったりー!!」
逆に敵軍は指揮官であった美作守が討たれて呆然としている。
「は?え?」
「何が起きた?」
「殿?」
「美作守様?」
「あ、あああぁぁぁ!!殿ぉぉ!!」
俺を外道と罵ったあの兵士は人一倍大きな声で叫んでいた。そして、その兵士は俺に向きなおる。
「貴様、殺す……!!殿の仇討ちだ!!」
まあ、そうなるよね。
「ねえ、今の見てなかった?お前じゃ相手になんないよ」
「黙れ!!殿の敵を討つ!!」
そう言い、その兵士は槍で俺に襲い掛かってくる。当然、無言で切り捨てた。
その後は消化試合と言ってよかった。前線の美作守の兵士は大将を失ってどう動けばいいのかわからず混乱状態に陥っていた。後方の林秀貞の軍にはまだ美作守討ち死にが伝わっていないらしく、少しずつ前進しているが最前線までは出てこない。俺たちは美作守の軍の掃討戦に入っていた。
信長たちが千代松の戦場についた時、すでに美作守軍の有力武将の半数以上が討ち死にし、兵士たちも降伏する人が少しずつ出てきていた。そこに信長の軍が到着したことで林秀貞も撤退を始めた。
「千代松」
「信長様」
「戦況は?」
「美作守は討ち取り、その他武将も多くを討ち取りました。林秀貞の軍は出てきておらず、信長様の軍の登場で退却を始めました」
「そうか!美作を討ち取ったか!!よくやった!!」
「まさか千代松一人で美作を撃退するとは……」
「驚きましたな」
信長に続き、利家、一益も褒めてくれる。
「林秀貞、追いますか?」
「いや、退却したならいい。この戦の目的は達した」
「と、いうことは?」
「ああ、この戦、俺たちの勝ちだ!!」
「「「おおおぉぉぉ!!!!」」」
勝どきを上げる。今まで感じたことのない高揚感に包まれる。
のちに稲生の戦いと呼ばれる俺の初陣は見事信長の大勝利で幕を閉じたのだった。
翌日、俺たち信長方の武将は清洲に呼び出された。
「長秀殿、今日は何があるのですか?」
「ああ、千代松殿は初めてか。戦に勝った後は論功行賞なんだ」
「ロンコウコウショウ?」
「ご褒美タイムってこと」
「おー!!なんか貰えんの?」
「主に土地とか、アイテムとかだな」
「アイテム?」
「殿の刀とか、槍とか、陣羽織とか」
アイテムって言われるとゲームの特殊能力付きとかを想像してしまった。そんなわけないんだけどね。でもアイテムっていう言い方も悪いと思う。
「それでは論功行賞を始める」
本来は家老の林秀貞が進行役なのだが今回はいないため信長自ら進行する。
「今回、俺の弟の信行が挙兵し柴田勝家、林秀貞、林美作守らとともにここ清洲城に侵攻してきた。不利な状況だったがここにいる皆をおかげで無事退けることに成功した。ということでこの戦で最も活躍した者に第一功を与える」
家臣の中で誰が第一功なのか、と広間がざわつきだす。
「それでは、第一功!!坂井千代松!!前へ!!」
え?俺?
「はい!!」
一瞬戸惑ったが大きな声で返事をし、前に出る。
「坂井千代松は今回、急な敵軍の進行に対し作戦を立案し、自らも兵を率いて戦い、林美作守を自ら討ち取った!よってこの功により清洲城西にある千代松の館近辺の土地を安堵、さらに清洲西の土地2万石を与える」
そう言い、信長は金色の煌びやかな短剣をを俺に手渡す。
「え、えーっと?」
あいにく、俺はこういう場合の礼儀を知らない。会社みたいな感じでいいのかな?
「あ、ありがとうございます!!」
短剣を受け取り、頭をしっかり60度下げる。
家臣団の方から失笑が漏れる。なんでやねん。信長も苦笑していた。
「続いて、第2功!!滝川一益!!前へ!!」
「ハッ!!」
「滝川一益は今回、俺に従軍して柴田勝家配下の有力武将を8人討ち取った!!この功より所領安堵、刀剣1品、羽織一品を与える!!」
信長がさっきと似たような短剣を一益に手渡す。
「ありがたく」
一益は30度ほど頭を下げ、短剣を受け取った。あれが正しいのか。
その後、第3功前田利家、4功丹羽長秀と続き、無事、論功行賞は終わった。
俺は旧坂井大膳領と合わせ5万石の尾張有数の武将となったのだった。