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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第一部 2章 『尾張統一と桶狭間』
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第34話 両親の行方と遺言書

「お前の父親、坂井大膳は俺と戦をして、負けた。今は行方不明だ」


 は?


「え?」

「「「……」」」

「そ、それ、ど、どういうことですか?」

「言葉の通りだ。お前の父親が俺に戦を起こし、俺が勝った」

「わ、和睦は?二年前俺が来た時に和睦が成立したはずでは?」

「和睦は1年もたなかった。1年もすれば大膳は信光の調略に取り掛かった。信光と組んで俺を討つ算段だったのだろう」


 隣の利家に確認の意志を込めて視線を送ると利家はコクリとうなずいた。事実らしい。

 俺は感情を押し殺し、詳しく尋ねる。


「それで、戦はどんな感じだったんです?」

「信光が俺に大膳が戦を企てていると報告してきたからそれを理由に大膳の主君の信友を清洲に攻め込んで切腹させた。直接的な戦闘はその1回だけだ。小競り合いのようなのは何回かあったがな」

「それで、父上が行方不明というのはどういうことなんでしょう?」

 討ち死にでも国外逃亡というわけでもなく行方不明と言っているのが気になる。

「それがな、死体は見つかっておらず、国境警護の兵が誰も見ていないというのだ。まだ尾張国内に潜伏しているか、もしくは人知れず死んでいる可能性もある。あるいは、国境警備の兵に見つからずに逃亡した可能性もないわけではない」


 国外に逃げのびれた可能性は相当低いとのこと。戦が起きた半年前から今まで信長の兵が国中を探しているがいまだに見つかっていないらしい。死んでいる可能性が最も高いそうだ。


「そうですか……」

 話を聞き終えた俺は静かに心を落ち着かせる。そしてもう一つ重要なことを訪ねた。

「人質になっていた母上はどうなりました?」

「………」

 返事はない。

「………」

「……死んだ」


 刹那、俺は体が強い怒りと悲しみに支配される。刀を荒々しく抜き放ち両親を殺した張本人《信長》にまだ粗削りな俺の”一之太刀”が振るわれる。俺の初めての”一之太刀”は守るべき主人に向けて振るわれた。


「ガアァァァッ!!」


 利家と一益が止めに入るも間に合わない。信長も避けようとするが間に合わない。     信長が死を覚悟し目をつむる。

 だがその瞬間が訪れることはなかった。刀は信長の首ギリギリで止まる。恐る恐る目を開ける信長。すぐに俺を取り押さえる利家と一益。俺は刀を取り落とした。


「父上、母上」


 畳に涙が落ちる。

 もう危険はないと判断した利家と一益が俺を放すと俺は力なく畳に崩れ落ちた。


「あああぁぁぁ!!!!」


 清洲城の大広間に絶叫が響き渡る。



 10分後、ようやく落ち着いた俺に信長が話しかける。


「千代松、すまなかった」

「いえ、信長様は悪くありません。戦を仕掛けたのも父上のようですし。こちらこそ無礼を働いてしまいました」

「本来なら処刑するところだが特例で許す。これからも俺の臣下として励め」

「はい」

「では今日はもう下がってよい」

「はい、失礼します」


 俺は最後に信長たちに頭を下げ部屋を出る。ひとまず清州の実家に帰ることにする。



「千代松の剣、早かったな」

「そうですね。あれほど早い剣は久しぶりに見ました」

「俺の槍も間に合わなかった」


 千代松が部屋を出た後、信長がつぶやいた言葉に一益と利家が各々感想を述べる。


「俺も全く動けなかった。千代松は敵にしたくないな」

「同感です」

「俺も今の千代松と戦って勝てる気がしないですね。本当に、あの年であの腕前、しかも銃まで使えるなんて厄介すぎる」


 実際、千代松があの場面で剣を振るっていたらここに残った3人全員死んでいただろう。3年で恐ろしい成長を見せた親友《千代松》に思わず利家と信長はため息をついた。



 2年ぶりに実家に帰ってきた。家じゅうの戸が閉められており、もうしばらく誰も入っていないことがうかがえる。そして庭には墓ができていた。


 ”坂井大膳の妻、梅の方ここに眠る”


「うっ……」


 涙が出てくる。俺は墓の前に膝まづき、手を合わせる。


「母上……」


 あのいつも優しくて元気な母上はもういない。俺が銃の実験で家や小屋をたびたび爆破しても笑って許してくれた母上。祈と結婚させようとした母上。

 そんなたくさんの思い出を掘り返していると後ろから声をかけられた。


「おかえりなさいませ。千代松様」

「えっ!?」

「お久しぶりです」


 そこに立っていたのはかつて幼かった俺の手足となって働いていてくれていた門番さん。


「あ!久しぶり!まだここにいたの?」

「いえ、千代松様が帰ってきていると伺って。千代松様へ渡すものがございまして」


 そう言うと門番さんは懐から一通の手紙を取り出す。


「それは?」

「これは奥様から千代松様に当てられた遺言書でございます。死ぬ間際に私に必ず千代松様に届けるようにと」

「え!ちょっと待て。お前は母上にずっとついていたのか?」

「はい。大膳様の命で護衛の任についておりました」

「母上の最期は、どうだった?」

「……ずっと、千代松様に会いたいとおっしゃられておりました」


 それを聞いて、大粒の涙がこぼれ落ちる。俺も母上に会いたい。


「奥様はその手紙に自分の想い、願い、すべてを書き記したとおっしゃられていました!!その手紙を読んで、奥様の遺志を継いでください!千代松様!」

「っ!!」

 そう言われ、俺はおそるおそる、手紙を開く。


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