第33話 ひつまぶしと尾張の変化
尾張・那古野についたのは剣聖と別れてから6日後だった。
「久しぶりに帰ってきたな」
尾張の町並みを見ながらつぶやく。
「そうですね。私も久しぶりに実家に顔を見せに行こうかと思います」
「そうしてあげるといいよ。とりあえず一回俺の家に荷物を置きに行こうか」
「了解です」
そういえばあの猿(おそらく豊臣秀吉?)まだいるのかな?なんて考えながら家に入る。家に猿は…居なかった。
「もうここには住んでいないようですね」
「だな。何というか、生活感がない」
テーブルには埃がかぶっている。もう出て行ってからかなり時間が経っているようだ。
「祈今夜はここに泊まる?それとも実家?」
「そうですね。今日はもう遅いですし実家に帰るのは明日にしようと思います」
「おっけー。でも軽く掃除しないとだなぁ」
「こんな時は祈にお任せっ!」
メイド服の祈がテキパキと部屋を綺麗にしていく。15分も経つと埃だらけだった家は塵一つない部屋に変貌していた。
「ありがとう、祈。ちなみに夜ご飯はどうする?もう遅いしどっか食べに行こうか?」
「そうですね、ではそうしましょう!」
「さっきの掃除のお礼に祈の食べたいところにしよう」
「ありがとうございます!では早速いきましょー!」
祈は外食にテンションが上がっている。祈は1時間ほど那古野の街を歩き回り、結局夕飯は家の近くのひつまぶしのお店になった。
「おお、これ美味いな」
「ですね!」
さすが那古野の名物と言われるだけのことはある。まさに絶品だ。祈も満足してくれたようで箸がすごいスピードで進んでいる。美味しそうに食べてくれていて俺もなんだか幸せな気持ちになる。あっという間に至福の食事時間は終わり、祈は「また来ましょうね!」って笑顔で言っていた。
翌日、俺は一人で那古野城へ信長に会いに行った。
「貴様っ!何奴!!」
「信長様の配下の坂井千代松と申します。信長様に御面会させて頂きたいのですが」
「む?信長様ならここにはおらぬぞ?」
門番さんが言うには信長はここにはいないらしい。
「え?外出中でしたか?」
「いや。今那古野を治めておるのは織田信光様だ」
「え?どういうことです?」
「信長様は二月ほど前に清洲へ移られた」
清洲?あれ?清洲には父上がいるはずなんだけどな。まあ父上は信長様の配下になったわけだしどうとでもなるか。
「わかりました。では清洲へ行ってみます」
「うむ、そうするがよい」
なんかちょっとモヤモヤする部分があるがとりあえず俺は門前払いされる形で那古野城を後にした。
さらに翌日。俺は祈を那古野において一人で清洲城へ向かった。祈の家族との再会を一日で終わらせてしまっては申し訳ないからだ。俺の両親も元気にしているだろうか?まあ清州に行けば会えるだろう。
お堀にかけられている橋を渡り、門番さんに話しかける。
「信長様配下の坂井千代松と申します。信長様に御面会させていただきたいのですが」
「信長様は今外出中で……あ!今帰ってきましたね!」
門番さんが端に寄り、頭を下げる。俺が今しがた渡ってきた橋を馬に乗った男が3人が渡ってこっちに向かってくる。俺はその先頭の男に向けて頭を下げた。
「信長様!お久しぶりです!坂井千代松、伊賀での修行を終え終わりに帰って参りました!!」
「おお!千代松!久しいな!元気にしておったか?」
「はい!信長様もお元気そうで何よりです!!」
「よし、中でゆっくり話そう」
そう言い、信長は城の中に入っていく。俺は信長の後ろを歩いていた男に話しかけた。
「久しいな、利家」
「ああ、千代松!お前でかくなったなぁ!」
「久々に会う親戚のノリじゃん。でもまあ身長もかなり伸びたしね」
「利家殿、そのお方は?」
信長に付き従っていた最後の1人が話に入ってくる。この人とは初対面だ。
「ああ、こいつは坂井千代松。坂井大膳の息子で銃の達人だ。千代松、この人は滝川一益。元は近江の有力武士だったんだけどギャンブル好きで家を追放されたらしくてね。でも優秀だったから信長様が引きとったんだ。銃も結構使えるから千代松とは気が合うかもしれない」
「どうも、滝川一益と申します。以後お見知りおきを」
どの時代でもギャンブル好きっているんだな。
「これはご丁寧に、坂井大膳の息子の坂井千代松と申します。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
お互い深く一礼する。
「おーい!何してる!早く来い!」
城の中から信長が叫んでいる。
「怒られてしまいましたね、行きましょうか」
一益がそう言い走り出すと、俺と利家もそれを慌てて追った。
「では伊賀での話を聞かせてくれ、千代松」
信長のその一言を皮切りに俺たちはこの3年あったことを語り合った。
俺は丹波との修練の日々のこと、剣聖との旅のこと、奈良に旅行へ行ったこと。信長は兄弟喧嘩のこと(戦争になりそうだけど)、利家は槍のこと、一益(ギャンブル最弱)によるギャンブル必勝講座。
各々がここ数年であった楽しいことや面白いことを語り合う。
「あ、そうだ。俺、上忍になったんですよ」
「ふぁ?」「へ?」「はい?」
そんな話の中俺がぽろっと漏らした一言にほかの3人が固まる。
「おい、いやいや千代松。嘘は良くないぞ?上忍は百地、藤林、服部の3家からしか排出されないんだろう?」
「嘘じゃないですよ。さっき大忍術体育祭の話しましたよね?そこで優勝すると”特別上忍”っていう称号を貰えるんですよ。ほら、これ」
利家の否定の言葉を俺は即座に否定する。そして特別上忍の賞状を見せる。3人はそれを食い入るように見る。
「ほ、本当だ……」
「ま、マジですか」
「はっはっは!千代松はメチャクチャ成長してるみたいだな!」
信長が高笑いする。ひとしきり笑った後、信長は急に真面目な顔になって言った。
「上忍になったお前ならきっと俺が今から言うこともしっかり受け止めることができると信じているぞ?」
「へ?急に何ですか?」
「お前の父親、坂井大膳のことだがな…」
「あ!そうだ!上手くやれていますか?信長様も清洲に入られているということはきっと上手く……」
「千代松ッ!!」
俺の言葉を信長の大声がかき消す。
「な、なんですか?」
「お前の父親、坂井大膳は俺と戦をして、負けた。今は行方不明だ」
は?