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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第一部 1章 『少年期千代松の修行編』
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第29話 新生タダ飯食らいと一之太刀

 剣聖も伴い、4人で奈良を観光しているといつの間にか夕方になっていた。なんだかんだ言って奈良を楽しんだ。


「じゃあ、ちょっと早いけど夕飯食って帰るか」

「だね!」

「じゃあ飛鳥鍋!」

「まあそれでいっか。もみじは?」

「あたしもそれでいいよ」

「剣聖に選択権はねえ」

「むう、仕方あるまい」


 ということで来る時に丹波が行きたがっていた飛鳥鍋の店に来た。そして鍋を囲んで待つこと10分。美味しそうな鍋が完成した。



「剣聖様、よそいましょうか?」


 もみじが珍しく気を利かせ剣聖の皿にさまざまな具材をよそっていく。そして最後に椎茸を3個1番上に乗せる。もみじがすっげぇ悪い顔をしたように見えた。


「はい、どうぞ!」


 もみじが輝く笑顔で剣聖に皿を差し出す。剣聖はすごく複雑な顔をしていたが美少女の笑顔に押し負けて「あ、ありがとう……」と言って皿を受け取った。


「これ結構美味しいね」

「な?やっぱ美味しいだろ?」


 舌包みを打つもみじに丹波が自慢気に声を上げる。


「初めて食べるけど美味いな。鍋に牛乳ってあうんだな」

「な、意外だよな」

「具材は普通の鍋とそんなに変わんないんだよな」

「だな、お!このネギ美味いぞ」

「マジ?」


 自分の皿のネギを取ろうと皿を手に取り、箸でネギを取ろうと・・・・・・


「おい、剣聖」

「んっ!?」


 口とをモゴモゴさせた剣聖が気まずそうな顔をする。俺の皿には椎茸が3個追加されている。そして剣聖の皿には椎茸は一つも残ってない。


「自分で食え」

「も、もう食べた」

「嘘つけ」

「ほ、本当じゃ!嫌いなものは最初に食べる派なんじゃ!」


 堂々と嘘をつきやがって。ああ、もういっか。自分で食べる、と見せかけて…剣聖の口に椎茸をぶち込んだ。悶絶する剣聖。俺は仕方なく残りの椎茸を食べる。なかなか美味しかった。


 そんな騒がしい夕食も終わり、そろそろ帰るか、という所で問題が発生した。なんと剣聖は金を持ってなかった。


「お前、どういうこと?金持ってないのに飯食ったの?」


 最初は剣聖様と呼んでいた丹波がついにお前って呼ぶようになった。だが本題はそこではない。


「む、むう」

「む、むうじゃねえ!どういうつもりだ」


 丹波が低い声で問い詰める。

 その間、もみじが俺に話しかけてくる。


「とりあえず一回払って外でない?ここは目立つよ」

「だめだ。外に出てこいつが剣で抵抗したら俺達じゃこのジジイに勝てない。この狭い室内で俺と丹波ともみじの3人がかりでギリだ」

「え……まじで?」

「マジだよ。このジジイは腐っても剣聖だ。俺は2年前一撃も当てられずに負けてるし。いつでも戦えるように警戒しとけ」

「う、うん」


 その間、丹波の尋問が続いている。


「で、どうすんの?」

「む?」

「お前が払えない分、俺たちが払うわけだ。その分をどうやって払う?その刀でも売るか?」

「こ、これは儂の愛刀じゃ!これだけは売れん!!」

「だからどうすんだよ!」

「わ、儂がそなたらを伊賀まで護衛しよう。剣聖の名にかけて安全を保障する。これでどうじゃ?」

「足りないな。獣は俺たち3人で十分対処できる。盗賊や山賊なんかも俺達なら問題ない」

「む、むう」


 押し黙る剣聖。そこで俺が案を出した。


「じゃあこのジジイ伊賀に連れてって打ち込み台にしたらどうだ?こいつならどんな技打っても問題ないし訓練の相手としては最高だぜ?剣術も超一流だし。丹波の父上に雇わせてその金で俺らに返すってのは」

「父上が雇うかな?」

「こいつは名が売れてる”剣聖”だ。間違いなく雇ってくれると思う」

「うーん」

「おい剣聖、お前はどうだ?」

「は、働き口まで紹介してくれるとは……! 儂から言うことは何もない」

「な、丹波?こいつの分は俺が払うしこいつの剣の腕も保証する。どうだ?」

「そこまで言うなら……」


 こうして無事に会計を終え、店を出た。店員さんにはちゃんと謝罪した。剣聖の頭は無理やり下げさせた。



 こうして俺たちは奈良旅行を終え、伊賀への帰路についた。来たときより一人増えているが大した問題ではない。帰りの山道は当然だが電灯もなく、真っ暗だった。だが剣聖がうまく先導してくれた。少し剣聖の評価が上がった。だが伊賀まであと30分というところで問題が起きた。


「止まれ」


 静かに剣聖が言った。


「え、なんで?」

「静かにしろ」


 剣聖が小さくも鋭く、圧のある声で言った。その真剣な声に俺たち3人が息をのむ。だが何が起きているのかは俺達にはわからない。いや、何かが近づいてくる。まだ遠いけど、確実に近づいてきている。


「ここで待ってろ。周りの警戒は怠るな」


 そう言うと、剣聖は何かが近づいてきた方向に刀をもって走って行った。俺たちは周りを警戒しつつも剣聖が向かっていった方を見る。

 剣聖は獣の前に立つと刀を抜き放ち、獣と相対する。


「グルルルル」


 獣が低い鳴き声で威圧する。あの獣は巨大な熊だ。2メートル半ほどある。あんなでかいものなのか?俺が橋本一巴の試練の時の奴は2メートル弱だったはずだ。それと堂々と相対する剣聖。ちょっと悔しいがかっこいいと思ってしまった。



 熊がその巨体からは想像できない速度で剣聖に突っ込む。


「すまない、山の守護者よ」


 剣聖が静かにつぶやく。そして大きく飛んだ。


「沈め。剣聖の名のもとに」


 剣聖・塚原卜伝が”剣聖”と呼ばれる所以となった奥義「一之太刀」。最速、最強。的確で美しい。熊の首が空を舞う。熊の胴体は立ったまま。剣聖は熊の方を振り返ることなく、俺たちの方に戻ってくる。熊の胴体が奥で倒れた。


「怪我はしておらんじゃろ?」

「あ、ああ」

「う、うん」

「さすがだな、剣聖」

「ほっほ、見直したか」

「ああ、本当に見直したよ」


 丹波が剣聖の剣技を見て評価をあらためたようだ。俺も剣聖の評価が大きく上がった。あの見事な一撃。さすがは剣聖だ。


「では、出発しよう。伊賀まではあと30分くらいじゃろう」


 そう言って馬に乗り再び先頭を歩きだす剣聖。本当に子どもに鍋をおごらせた人と同一人物とは思えないな。


 その後は特に問題なく伊賀の里へ着いた。こうして学生最後の旅行が終わった。明日は卒業式、そしてその翌日には俺は丹波たちとお別れだ。

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