第27話 大忍術体育祭・決着
お待たせしました!!
正面から右手に刀、左手に銃をもって突っ込んでくる千代松。その目からは全力で戦いながらも、俺との勝負を楽しんでいるように見える。そして多分俺も同じだ。気分が高揚している。3年間、戦い続けた親友との最後の勝負。
伊賀に来てすぐの頃は全然忍術も剣術もダメだった千代松。それから3年たった今、上忍を二人倒し、この俺と互角に渡り合える、忍者として最高峰の境地に立っている。たったの3年でだ。その才能は恐ろしいもので、里で天才ともてはやされていた俺もいつ追い抜かされるかと思い、千代松が来てから俺も一層修行に励んだ。結果的に、千代松のおかげで俺もこのレベルに至れたのだと思う。そして千代松もきっと来た初日に勝負して負けた俺をずっと追いかけてきたように思える。
そんな関係の中で話していくうちにいつの間にか仲良くなった。もともとの里の仲間は俺を上忍の家系っていうことで一定の距離を置いて接していたように思う。でも千代松はそんなの関係なく接してくれた。千代松は人付き合いが上手だった。千代松を通して、里の仲間とも仲良くなれた。本当に感謝している。それでも一番仲良かったのは千代松だ。そんな千代松とのバチバチで最高の関係もこれで終わり。最後に、最後だからこそ、絶対に勝つ。「千代松、俺は絶対に負けられない。上忍として、この里を継ぐ者として、お前の親友として」さっき俺はこう言った。正直、一つ目と二つ目はどうでもいい。”千代松の親友として”これだけでいい。千代松、お前の親友として、俺は最後に全力でやって、勝つんだ。
向かってくる丹波の顔には笑みが浮かんでいる。余裕かよ?俺は必死だってのに。俺はこの3年ずっとお前を倒すために全力で取り組んできた。それなのに全然お前に追いつけたっていう感覚がない。ずっとお前は俺の先を行ってるんだと思っていた。実際その通りだった。ただ、丹波は俺に追い抜かれないために必死に努力していた。まさに努力する天才。こんなに厄介なことはない。どうしたらこんな奴に勝てるんだと何度も思った。俺にできたのは努力し続けることしかなかった。最初に勝てた時はすごく嬉しかった。高校入試や大学入試に合格したときのような感覚。俺の努力は間違ってなかったと思えたのをよく覚えている。それからもっと努力して、勝てる回数が20回に1回になり、10回に1回になり、今では10回に3回くらい勝てる。それでもまだ少ないけど・・・。
そんな俺の目標であり、ライバルであり、親友である丹波との最後の勝負。気分が昂る。すごく大事な一戦だっていうのにわくわくが収まらない。自分の体がこんなに動くのは初めてだ。これがいわゆるゾーンに入るってやつなのかな?すごく心地良い。さぁ、最後の勝負を楽しもう、丹波。
丹波の鋭い斬撃をギリギリで避け、こちらも斬撃を繰り出す。もう何度目かわからないこのやり取り。極めて高度な剣戟。たまに鳴り響く銃声。吹き矢の静かな発射音。お互いこれまでに無い集中状態。だがゾーンに入ったとはいえ体力が無限になるわけではない。切れた息。大きく刀を振り、丹波と距離をとり、息を整える。
「そろそろ終幕にしよう、千代松」
「ああ、フィナーレだ」
お互い深呼吸した後、突っ込む。
「ハァァァァッ!!!」
「うおおおおおおッ!!」
らしくもなく大声で突っ込む丹波と俺。忍者としてあるまじき行為だ。だが声を出さずにはいられない。
俺と丹波の最高の剣技がぶつかり合う。火花が散り、強い衝撃が体に走る。だが両手で刀を持つ丹波と右手だけで刀を持つ俺では当然分が悪い。俺は刀を後ろに倒し、衝撃を逃がす。そして左手のリボルバーで丹波の腹を狙う。だが丹波もそれに反応した。刀にかけた力が逃がされたとわかった途端、左手を刀から放し、棒手裏剣を投げる構えを見せる。
「ガァァァッ!!!」
「オオオオォォォッ!!」
パァァーーン!パァァーーン!パァァーーン!!
戦場に鳴り響く銃声。それと同時に棒手裏剣も投擲された。
「勝負ありッ!!」
試合終了の合図。俺と丹波は刀を収め、その結果を待つ。すごく長い一瞬。
「勝者・坂井千代松ッ!!」
オオオオォォォ!!!!
準決勝とは比べ物にならない歓声が会場を包む。
勝った?俺が?
丹波を見ると足と、腹、それから胸に赤いインクが付いている。そしてその表情は負けたっていうのに笑っている。
「た、丹波……?」
「どうした?千代松。お前の勝ちだ!!」
言われてようやく感情が事実に追いつく。そして嬉しさがこみあげてきた。
「しゃァァァーーー!!!」
その俺の雄叫びに会場は再び歓声に包まれた。
「優勝、坂井千代松。優勝おめでとう。実に5年ぶりに上忍以外の家系から優勝者が出た。しかも上忍を3人倒している。貴殿にはこの大会の見事な戦いぶりを表し、”特別上忍”の称号を授ける!!」
「はい!!ありがたく!!」
里長の百地政永から和紙に書かれた特別上忍の証明、南の里の里長・藤林長門から上忍の証である短剣を受け取る。
「準優勝、百地丹波。貴殿も素晴らしい戦いぶりを見せてくれた。決勝では惜しくも敗れたものの、このことを糧に今後も励め」
「はい!!ありがとうございます!!」
こうして大忍術体育祭・トーナメントは優勝・坂井千代松、準優勝・百地丹波という結果で幕を閉じた。
「お疲れさん、千代松」
「ああ、お前もな」
大会終了後、いつも二人で修行していた場所に何となく来たら丹波がいた。
「優勝おめでとう、千代松。すっげぇ強かったよ」
「丹波もな。いてて」
肩の包帯を見せながら答える。これは丹波が最後に投げた棒手裏剣が刺さった傷だ。少しずれてたら致命傷になる位置だ。あの体制が崩れたタイミングでこれほど的確に投げられるの本当にヤバイ。ペンキ弾食らった丹波より俺の方が重症だ。優勝者の方が重症ってこれ如何に?
「いつ帰るんだ?」
「明後日の卒業式に出て、その翌日だ」
「結構すぐだな」
「なんだ寂しいのか?」
「……ああ」
ちょっとからかってやるつもりだったのになんだその反応。
「あ、そうだ明日暇?最後に遊び行こうぜ」
「お、いいね。どこ行く?」
「ここから西に馬で2時間くらい行くと面白いとこがあるらしいんだよ」
伊賀から西に馬で2時間?どこだろう?
「あ、そうだ。もみじも連れてこーぜ。あいつなぜかめちゃめちゃ動物に好かれてる
し」
「動物?」
「うん、そこにはなぜかめちゃめちゃ鹿がいるんだと」
「あ!もしかして奈良?」
「あ、知ってんだ。行ったことある?」
中学の修学旅行で行ったけどあんまいい思い出ないな。鹿せんべい持った途端、目の色変えて襲ってきやがって、それが無くなると急に興味なくなって離れていくんだよ。なんて薄情な奴らだ。ちょっとは愛でさせろよと思った記憶がある。これはリベンジチャンスか?
「いや、ないな」
前世のことは黙っておこう。
「よっしゃ、じゃあ決定な!もみじには俺から声かけとく。明日お前んち集合な!」
「オッケー!じゃ、また明日」
次回、奈良観光。