第26話 親友と書いてライバルと読む
千代松が炎から突っ込んでくる保正に弾丸を浴びせた。保正の深緑の忍者服が赤く染まる。
「わー!!ちーくん勝った!!」
隣で見ていたもみじが手をたたいてはしゃぐ。
千代松と保正の戦いは俺から見てもまさに紙一重だった。もちろん上忍の保正も前に見た時よりはるかに強くなっていたし、千代松もそれと互角にやりあえていた。
「丹波くん決勝ちーくんとじゃん。勝てんの?ちーくん上忍二人倒してんじゃん」
「正直怪しいな。あの連射できる銃が相当厄介だ」
藤林保正や服部さくらは伊賀国でも指折りの実力者だ。俺も保正とは何回も対戦しているがその実力は本物だ。服部さくらも千代松には負けたがその対戦内容や横にいるもみじを軽々と倒したことから相当の実力者だとわかる。その二人が敗れたという事実。俺も昨日は連射できる銃が初見だったとはいえ完敗した。千代松はあの連射できる銃により伊賀の中でも最上位クラスにまで成長していた。だが俺は勝たなくてはならない。上忍として、ライバルとして。
あと10分ほどで決勝が始まる。相手は丹波。今までの丹波の試合を見てきたがさすがの一言につきる。2試合目の橘先輩との試合の時のようにいつの間にか罠が張られていたり、卓越した身体能力で押し切ってたりもする。忍術も基本に忠実ながらも出す速度も完成度も高い。忍者として間違いなく最強の域にある。
「ちーくん丹波くんに勝てそう?」
「ああ、勝つよ。俺はこの大会が終わったら尾張に帰るから負け逃げみたいになりたくないし」
「ああ、そうだよね。寂しくなるなぁ。絶対勝ってね、あいつを決勝っていう大事な場でボコボコにしちゃえ!応援してる!」
「ぼ、ボコボコは無理じゃないかな?でも応援せんきゅ。でも丹波マジで強いんだよな」
「だよねー、どうやって勝つの?女装とかすんの?」
もみじには丹波に勝つ方法お色気の術しか思いつかないのだろうか。
「するわけねぇだろ!だいたい相手が俺だってわかってんのに女装しても意味ねぇだろ!?」
「あ、そっか」
「お前はアホなのか?」
女装は実際の任務とかですることはあるが相手が誰だかわかっているのにするバカはいない。
「じゃあどうやって勝つのさ?あたしお色気以外で勝つプラン思いつかないんだけど」
本当にそれしか思いついてなかったのか。
「そうだなぁ、実は昨日やったときは勝ったんだけど、あれはリボルバーが初見だったのが大きかったしな」
正面からやりあったら勝率3割ほどだろう。それで試合をするのは心許なさすぎる。だがあと10分ではできることも無いに等しい。心許ないが正々堂々正面からやるしかないだろう。できることと言えば・・・最後に射撃の練習でもしておこう。そう思い部屋を出る。
「もみじ、俺は最後にちょっと銃の練習をしてくる」
「ん、頑張ってね」
「おうよ」
会場から少し離れる。ちょうどいい場所を見つけ、遠くの木に向けてリボルバーを構える。
「お、先客がいた」
後ろから声をかけられ、振り向く。そこには今から戦う親友。
「お、丹波。お前も最後の練習?」
「いや、控室は父上とか橘先輩とかいろいろ来て試合前なのに落ち着けないんだよ。すげぇプレッシャーかけてくるし…」
「ははっ、なんか想像できるわ」
「千代松は最後の練習?気にせずやってくれよ」
「嫌だよ。なんで直前に戦う相手に手の内あかさないといけないんだ」
「ははっ、だろうな」
丹波も俺がわざわざ手の内を見せるとは思っていなかったのだろう。
「千代松、俺は絶対に負けられない。上忍として、この里を継ぐ者として、お前の親友として」
「俺も負けるつもりはない」
「もちろんだ。全力でやる。お前も全力でやれ」
「ああ、ぜってぇ負けねぇ」
「よし、それでいい。いい試合にしよう」
「おう!」
そう言い、丹波は戻っていた。俺は再び銃を取り出し、構え・・・おいそこ!!丹波!!何こっそり見てやがる!!さっきのいい雰囲気が台無しだわ!!俺は丹波に怒鳴りつけ、一緒に控室の方に戻った。だが射撃練習は出来なかったがいい感じに緊張は解けた。結果的には良かったかもね。
「決勝戦!南の里の上忍・百地丹波と南の里の中忍・坂井千代松の試合を始める!!双方準備はいいか?」
「「おう!!」」
「では、はじめッッ!!」
俺と丹波が同時にお互いに突っ込む。いつもならここで銃を撃つのだがどうせ避けられるから撃たない。そのまま接近戦に突入する。刀を激しく打ち合う。丹波は両手、俺は片手なので押されるが、すぐに左手の銃で丹波の腹を狙い撃つ。だが丹波はうまく体をひねり掠るだけで済んだ。保正の時もそうだったが頭か胸など本当に実弾で撃たれて即座に動けなくなるような所に当てないと試合ではノーカンだ。
だが丹波も体をひねって避けたため、体勢が崩れる。そこに刀を叩き込む。
「身代わりッ!」
刀は丸太に当たる。そして今度は剣を振り切って隙ができた俺に丹波の刀が斬りこまれる。それをギリギリ避け、そこに弾丸を撃ちこむ。それも当然のように避けられた。そこで一度距離をとった。
「はぁ、はぁ、やるな、千代松」
「ふーっ、お前もさすがだな、丹波」
俺と丹波は互いを賞賛しあい、薄く笑いあう。
そして再び距離を詰める。
第二ラウンド、開始。