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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第一部 1章 『少年期千代松の修行編』
25/252

第25話 紙一重

「ちーくん、なんで煙?ちーくんの戦闘スタイルと一番相性悪いじゃん」

「……わからない。考えれば考えるほど不利になることばかりだ」


 もみじの素直な疑問に丹波も難しい顔をして同意する。

 丹波は考える。千代松の目的は?基本的に銃で敵を倒す千代松には煙は相性最悪だ。かといってアクロバティックな動きで距離を詰め体術で仕留める服部さくらに有効打になるとも思えない。じゃあ煙の中で戦う理由は?今まで最も多く千代松と戦ってきた俺にも全くわからない。


「どういうつもりだ、千代松……」


 そうつぶやいた。それと同時に戦局が動いた。

 これまで煙の中で千代松を探していた服部さくらがジャンプで煙の上に飛び出す。


「ああ、もうめんどくさくなっちゃった」


 その手には焙烙火矢(戦国時代の手榴弾のようなもの)が握られている。


「あれで煙を吹き飛ばすつもりか?場合によっては煙の中にいる千代松も吹き飛ぶぞ?」

「あれ、やばくない?もし直撃したらちーくん死んじゃうよ」


 そんな彼らの心配をよそにさくらは煙に焙烙火矢を投げ入れる。

 バァァァアアァァァーン!!

 投げ入れられた焙烙火矢は即座に爆発し、煙を吹き飛ばす。

 そこに《《こめかみを赤く染めた》》さくらが着地する。


「は?」「え?」


 俺ともみじの間抜けな声が観客席に響いた。



 会場を煙に巻いて誰もが俺が煙の中にいると勘違いしているだろう。俺が今いるのは会場の隅の木の上。ギリギリここは煙に巻かれていない。この位置で俺はさくらが煙から出る、もしくは煙が消えるのをじっと待った。

 俺がさくらを倒す作戦は位置がバレていない状況から1発で仕留めること。正直、これ以外ないと思った。遠距離で銃をあてるのは難しいし、近距離では相手にならない。今の俺は狙撃手スナイパー。今俺が握っている銃は俺が作ってきた銃で最も精度が良く、射程が長い一品。スコープに望遠機能はついていないが見た目は完全にスナイパー。やっぱり男なら誰でもスナイパーに憧れることはあると思うんだ。決してリボルバーを裏切ったわけではない。おっとそんなことを考えていたら煙からさくらが飛び出てきた。


「待ってた」


 まさか上からとは思わなかったが特に問題はない。むしろ空中ではほぼ身動きが取れないため最善と言えるかもしれない。

 さくらが投げた焙烙火矢が爆発すると同時に、俺は引き金を引いた。弾丸は見事さくらのこめかみに命中した。それを確認し、木から降りる。


「俺の勝ちだな?服部さくら」

「うん、完敗」


 審判はしばらく状況が理解できてないようだったが、今の会話を聞いて観衆に宣言する。


「勝者、坂井千代松ーーーー!!!」


 オオオオォォォ!!!

 3回戦にて早くも上忍が一人脱落という番狂わせに対し、観客はさっきまでの数倍の歓声をあげた。



「お疲れ、千代松」

「ちーくん、お疲れ様」

「ご主人様、お見事でした!!」

「おう、せんきゅ」


 3人にねぎらいのお言葉をいただき、祈が差し出してくれたお茶を一口飲む。


「千代松、すげえな。自分から煙に入ったときはどうすんのかと思ったぜ」

「ああ、あれ実は俺は一回も煙に入ってない。ずっと狙撃した木の上にいたんだ。あの煙は一時的にさくらの視界を奪って、俺が煙の中から襲ってくるって錯覚させたかったんだ」

「なるほどな、それでさくらがそのプレッシャーに耐えられなくなって煙から出たところを狙撃ってわけか。嫌なやつだぜ」

「おい、本人の前だぞ?」


 本人の前で堂々と嫌なやつとか言ってくる。こいつにモラルはないのだろうか?



 とにかくこれでベスト8が出揃った。南の里は俺と丹波、椿、桔梗先輩、8年の榊先輩の5人、北の里は藤林保正、その弟の忠正、もう一人は知らないけど天沢っていう7年生の男の3人。丹波はこれから当たるのは椿と藤林忠正と榊先輩の勝った方でほぼ決勝確実だ。俺の方は準決勝でおそらく上忍の藤林保正と当たるのが不安だ。あいつとは俺が伊賀に来てすぐの頃に絡まれたりしたが、だが彼はあの時よりはるかに強くなっている。果たして今の俺で勝てるだろうか?


 準々決勝は俺と丹波ともに問題なく突破。丹波は準決勝も楽々突破した。そして今から俺と上忍・藤林保正の試合が始まる。


「中忍・坂井千代松と上忍・藤林保正の試合を始める!!双方、準備はいいか?」

「はい」「おう」

「では、はじめっ!!」


 すぐに銃を構え、射撃する。惜しい、ギリギリ避けられた。すぐにその銃を投げ捨て、腰のリボルバーを構える。

 パァァーーン!!

 パァァーーン!!

 狙いが定まった瞬間に連続で二発発砲。


「うおっ!?」


 一発目は右腕、二発目は左足に命中。

 保正は傷を受けた瞬間に近くの木の裏に隠れる。

 そこに即座に焙烙火矢を投げる。


「おいおいおいおい!?」


 保正が慌てて木の裏から出てくる。即座に銃撃。それとほぼ同時にさっき保正が隠れていた木が爆発し倒れる。

 よし、いい調子だ。これなら勝てる。

 それからひたすら爆破と銃撃を繰り返した。

 だが5分ほどやって違和感に気づいた。銃弾が致命傷にならない。当たる。当たっているのに致命傷にならない。そして先に無くなったのは俺の焙烙火矢の方だった。


「……嵌められた


 ずっと俺が有利に戦いを進めていると思っていた。見ていた人もそう思っていたと思う。事実、俺の弾丸は当たっていたんだ。なのに……追いつめられたのは俺の方だった。


「千代松、やべえな。調子乗ってポンポン焙烙投げやがって」

「え?ちーくんめっちゃ押してんじゃん。もうそろそろ勝てるでしょ」

「馬鹿かお前は。保正は千代松の弾丸や焙烙が無くなるのを待ってたんだ。そして千代松には焙烙がもう無い。これから千代松は追いつめられるぞ」

「え?じゃあ保正はここまで読んで?」

「だろうな、最初の一発目やられたときに思いついたんだろ。状況把握能力がハンパじゃねえ。だが逆に言えば千代松を倒すにはそれ以外ないってあいつが思ったってことだ」

「でもちーくんこれからどうするんだろ?大ピンチだよね?」

「……」


 丹波は黙って戦場をにらみつける。



 ああ、クソ。見事にしてやられた。焙烙火矢は無くなり、弾薬も残り少ない。なんでこうなるまで気づかなかった?当たっていたからだ。俺のペンキ弾は確実に当たっていた。実弾だったら動けなくなるほど。だが試合では頭部もしくは胸部に的確に当てないといけない。それ以外は試合に関係ない。当たってもちょっと痛いくらいでダメージはない。

 これからどうしようか。弾薬はあと10発ちょい。マジでまっずい。あいつに遠距離で銃撃っても当たんないから距離詰めるか?いや、それは自殺行為だ。あいつは丹波とも互角に渡り合える実力を持ってるんだぞ?やっぱり遠距離で仕留めたい。だが俺の作ったリボルバーでは精度が悪い。なら……

 俺は煙玉を投げて、会場を煙に巻く。そしてその間に一番最初に投げ捨てたスナイパーを回収する。そしてさくらの時同様、木にのぼる。いや、あいつもさくらとの試合は見ていたはずだ。ならここはバレている可能性がある。そう思い、木の上から狙うのはやめることにする。木の上には身代わり人形を置いておいた。そして俺はその木の下の茂みに身を隠す。そこで俺は煙が消えるのを待った。


 煙が消えかけるタイミングで上の身代わり人形を落としてみる。だが反応は何もない。そして煙の中に保正の姿はなかった。


「は?」


 どこに行った?煙の反対側は場外だからない。右側も同様だ。左側とこっちから出てきたら気づいている。その時、後ろに気配を感じた。慌てて前に飛び出る。そして前に出たら保正がいた。


「え?」


 保正が忍者刀を振る。それをとっさに避けた。


「おー、今の避けるかよ」

「お前こそ、後ろにいると思ったのに」

「気のせいだったんじゃない?」


 確かに気配なんて曖昧なものだ。だが忍者は気配を消したり出したりする達人だ。  そしてそれを感じる授業もあったほどに忍者にとって気配とは大事なものだ。どうやってかわからないが後ろに気配を出す技術があるのかもしれない。見事にしてやられた。お互いの位置が分かった状態で狙撃なんてできない。俺の作戦は瓦解した。ここからは真っ向勝負。俺は深呼吸して刀を構えた。



 剣術なら互角、そう信じる。火遁やらなんやらを使う暇もない剣戟にする。そう考え、俺は即座に突っ込んだ。


「お?俺と剣でやるのか?」

「ああ、相手してくれよ」

「いいぜ!」


 高度な剣戟が繰り広げられる。普段は一回離れて仕切り直したりするものだが、俺が保正を下がらせない。俺も下がらない。下がれない。術を使われたらほぼ勝ち目はない。なんてったって相手は上忍だからな。その剣戟の最中、保正が叫んだ。


「火遁ッ!!」

「は!?」


 俺は慌てて後ろに下がる。術を出す暇なんてなかったはずなのに。そう思った。実際、術を出す暇はなかった。保正はただ叫んだだけで、火遁は発生しなかった。


「くそっ!!」


 ブラフかっ!! また嵌められた。相手が上忍だからあり得るかもって一瞬思ってしまった。


「火遁ッ!!」


 今度は本当に火遁が発動する。俺のすぐ前に火柱が上がる。そしてそこから保正が突っ込んでくる。


「あーあ、火遁以外にしとけばよかったのに」


 火遁は火だ。当然、弾丸を防ぐ効果はない。

 火柱の向こうに近づいてくる人影がある。そこに向かってリボルバーを連射した。

 パァァーーン!!パァァーーン!!パァァーーン!!

 それが決着だった。

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