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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 5章 『天下覇道』

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第241話 天正伊賀の乱 陸

 伊賀最後の拠点・柏原城に籠城する伊賀忍者衆。この窮地から脱するため、前里長・百地政永が本願寺・雑賀を利用した策を打ち出すが丹羽長秀によって見破られる。さらに策のため城外に兵を出した事から伊賀勢は城外へ脱出する術を失ってしまう。伊賀勢は全滅か降伏の二択を迫られていた。



「城外に出た部隊は全滅! さらに抜け穴のほぼすべてが織田に潰された模様です!」

「クソがッ!」


 父上がそう悪態をつき、畳に拳を叩きつける。抜け穴も潰され、もう半日ほど城外の様子が城内に伝わっていない。これでは本願寺・雑賀と織田の戦況もわからない。百地丹波はこの状況に戦慄していた。


「こうなったら仕方ねぇ」

「父上、どうするつもりですか?」

「雑賀か本願寺、どっちかが来るまでこの城で耐える。それしかねぇだろ」


 父上はまだ戦うつもりなのか。来るかわからない援軍を頼りに、伊賀者の命を散らす。そんなのは里長として到底許容できない。


「父上、織田に降伏しましょう」


 丹波がそう言った途端、広間がざわついた。これまで降伏の話は里長間と一部の上忍としか相談していなかった。兵の士気にかかわるから。でももうそんなことは言っていられない。士気が高くたって低くたってこの戦はもうすでに詰んでいる。


「おい丹波、今の言葉は取り消せ」

「取り消しません。父上、冷静になってください。今降伏しないと伊賀者がどれだけ死ぬと思っているのですか!」

「まだ勝ち目は残ってる。この城を守りきり、援軍の到着と同時に一気に打って出る! 織田に伊賀を侵攻したことを後悔させてやるわ!」

「そんなの……うッ!?」


 父上に食って掛かった丹波は突如息苦しさを覚える。ありえない早業で首を絞められていた。


「おい丹波、お前はもう黙れ。里長がそんな弱気なこと言ってるとなぁ、士気に関わるんだよ」

「う、ぁ……」


 初めて本気で怒る父上の顔を見たな。そんなことを最後に思い、丹波の意識は途絶えた。


 △▼△▼△▼△


 城外に大軍が現れた騒ぎが起きた翌日から伊賀勢の徹底抗戦が始まった。どうやら伊賀忍者衆は降伏ではなく徹底抗戦の道を選んだらしい。


「丹波……」


 丹波からの返事は結局、一切なかった。もう敵方の俺と会話などする気はないという事なのだろうか。伊賀を滅ぼす張本人である俺をもう友だと思っていないのかもしれない。むしろ俺に対する感情は恨みや憎しみでいっぱいなのかもしれない。それは悲しいけど仕方ない事だし、当然だとも思う。それでも俺は丹波に生きていて欲しい、終わった後にどれだけ恨まれていても。


 丹波、引き際を誤るなよ。

 そして、絶対に死ぬなよ。


「全軍、前進! 城を出た敵を討ち、城を落とせ!」


 俺の号令で伊賀勢の数倍の織田軍が一斉に柏原城へ攻撃を始めた。


 伊賀勢の抵抗は想像以上に激しかった。各地で苦戦中の報告が次々と届く。だが多くの場所で数で勝る織田軍が結局は押し切っている。互いに大いに犠牲を出す血みどろの大激戦が各所で展開されていた。

 俺は報告を聞きながら地図に文字を書き込んでいく。


「あるじ様、長秀様の戦場に最初に襲ってきた女の子と伊勢の時の忍者がいた」

「さくらと保正は長秀殿のとこ、了解。じゃあ氷雨、悪いけど次は長可のところ見てきてくれ」

「ん、お任され」


 俺は今、天弥と氷雨に頼んでどの戦場にどの上忍がいるのかを確かめていた。2人は上忍の名前はわからないため、その特徴を確認してもらいその情報をもとに俺が誰か判断する。そうして強敵がいる戦場を見つけ、そこに俺や長可などこちら側の手練れをぶつける作戦だ。

 そしてこの作戦の裏の目的が、


「どこだ、丹波……」


 俺が丹波のいる戦場に趣き、最後の交渉を持ち掛ける。丹波が俺のことをどう思っていようとも、俺の丹波たちを救いたいという気持ちは変わらない。


 だがこの作戦は現状、あまり上手くいっていなかった。丹波はまだ見つかっていないうえ、服部保朝・音羽半六といった強敵たちの位置もまだ把握できていない。それ以外の上忍はかなり見つかってきているのに、その3人だけはまだ姿を現していない。


「ヤバイ奴がいたっす! 信雄様の戦場に滅茶苦茶強い奴がいたっす!」


 ヤバいと強いって情報だけで判断できるか! 俺は息を切らしている天弥に水を渡し落ち着かせると、特徴を尋ねる。


「そいつはどんな武器を使ってたんだ?」

「刀っす。あと腰に鎖とクナイも……」

「見た目は?」

「黒ずくめだったっすから……あ、でも身長は僕より大きくて……あ、ちょうど大助様くらい……」


 そう聞いた途端、俺は陣を飛び出した。俺と丹波は同い年で身長はそこまで変わらない。俺の知っている上忍の多くの位置はもうすでに割れている。丹波の可能性が高い。

 

 俺は僅かな手勢と共に信雄様の戦場へ。そこでは日置大膳亮ら信雄隊の主戦力たちと橘先輩ら南の里の部隊が激突していた。


「天弥、さっき言ってたヤバイ奴はどの辺りにいたんだ?」

「もっと奥の方っす」

「よし、案内しろ!」


 俺は馬にまたがって戦場を駆ける。たまに窮地の味方を助けながら、天弥がヤバイ奴を見た地点へ向かう。


「ッ!?」


 突如、馬で駆けている俺の左腕に激痛が走る。反射的に馬の手綱を引き、緊急停止。痛む左腕を確認する。俺の左腕には刀の鋭い切り傷が刻まれ、ダラダラと血が流れている。伊賀で習った応急止血術を用い、手拭で傷口を縛る。


 縛りながら視線では周囲を警戒。何しろ今の一撃を俺は全く予期していなかった。走っている最中も周囲の警戒は怠ったつもりはない。足音も何もしなかった。にもかかわらず俺は傷を受け、さらに今もその攻撃を行った敵を見つけられていない。明らかに異常事態、攻撃してきた相手を一切視認できないなんて今までになかった事態だ。


「大助様、急に止まってどうしたっすか?」

「周囲を警戒しろ、どこかに強者が潜んでるぞ」


 俺の言葉に従い、天弥は刀を抜ききょろきょろと周りを見渡す。俺の後ろを走っていた天弥にも一切気付かれないのか……

 俺は姿を見せない敵に戦慄していた。足音や早く動いた時の風切り音は忍者の修行の努力量で消すことが出来る。だが姿が見えないというのはいったいどういう事だ。忍者は努力によって気配を消し、殺気を隠す。だが透明人間にはなれない。


 相手がどんな技で姿を隠し、攻撃してきたのかわからない。だがこうして俺が警戒している間は襲ってこないだろう。俺が潜んでいる敵を見つけるチャンスは次に敵が襲ってくる瞬間だ。その為にはこちらが隙を見せる必要がある。


「天弥、行くぞ」

「え、いいんすか?」

「あぁ、俺の勘違いだったみたいだ」


 俺は天弥を適当にごまかし、再び馬で走り出す。一見、止まる前と同じ状況に見える。

 そのまましばらく走る。速度は一定、刀も銃も抜かず、ただ待つ。視野は広く、耳を澄ませる。


 ほら、来いよ。隙を見せてやったぞ。


「……ッ!」


 僅かに、刀が空気を斬る音がした。俺は手綱を引いて、馬を高く跳躍させる。そして空中から、状況を確認。茂みから刀が飛び出している。俺は空中でリボルバーを抜き、その茂みに向けて連続で発砲する。


「うッ!?」


 弾丸が命中した痛みからくる呻き声を茂みに隠れた忍びが必死に抑えているのがわかる。だがもう位置は割れた。俺から逃げられると思うなよ!

 俺は馬から飛び降り、茂みに向かって走りながら刀を抜く。逃げられたら厄介だ、まずは隠れ場所を消す。


「”乱之太刀”!」


 一瞬にして茂みは消滅する。木の葉が舞う茂みがあった場所には僅かな血痕が残されている。慌てていたのだろう、血痕は茂みの奥に続いている。その痕跡を追う。そして茂みの出口が見えてきた頃俺はついに敵の背中を視認した。俺はその背中にリボルバーの照準を合わせる。


「誰だか知らないが、素晴らしい隠密技術だった。じゃあな!」


 俺にここまで恐怖を感じさせた、素晴らしい隠密技術を持つ忍びに賞賛を送り、俺はリボルバーの引き金を引く。

 

 だが銃声と同時に前を走っていた隠密忍者の姿が消えた。いや、俺には見えた。弾丸が命中する寸前で敵が上空に引っ張り上げられたのだ。そしてそれを成したのは、

 

「甘夏、だったか?」

「正解。私じゃあなたには勝てないから、逃げるね」


 そう言って甘夏は隠密忍者を抱えて空中へ。その正直さに好感がもてる。それに甘夏を殺して橘先輩に恨まれるのも嫌なので今回は見逃すことにする。俺は銃をしまい空を飛ぶ甘夏を見上げる。先程までは気づけなかったがその肩に抱えられた隠密忍者はまだ少年と言っていい年齢だ。ふいに風圧で乱れた長い前髪の奥の瞳に見覚えがあった。


「お前、まさか……!」


 全くと言っていいほど足音がしなかった。気配を消すのが上手かった。点と点が線で繋がる。俺を恐怖させたあの隠密忍者の正体は、6年前、俺が気まぐれで伊賀に連れて行った……


「ふ」


 思わず笑みがこぼれた。数週間一緒に過ごしただけの、敵国の子供の成長が喜ばしかった。

 

 

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