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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 5章 『天下覇道』

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第238話 天正伊賀の乱 伍

 平楽寺は織田方の手に落ち、平楽寺を守っていた音羽半六は柏原城に撤退した。平楽寺を落とした坂井大助・滝川一益の軍勢は山城国から侵攻した堀秀政の軍勢と合流すると丹羽長秀が攻める比自山城へ向かう。


 比自山城を守るのは服部保朝・藤林保正をはじめとした北の里の主戦力たち。彼らは織田家の中でも戦上手として知られる丹羽長秀を相手に大奮戦していた。戦況は五分、あるいは伊賀勢が若干優勢。圧倒的に人数不利な状況の中、伊賀衆は個人での技量で織田方を圧倒し、それ以上に国を守ろうとする伊賀衆の士気は高かった。

 そんな城内に一つの悪報が届く。


「平楽寺、落城! 守将の音羽半六は柏原城に撤退! 平楽寺を落とした織田軍がこちらに押し寄せてきます!」


 昼間の戦に勝利し、戦勝ムードだった広間がしんと静まり返る。まず平静を取り戻したのは服部保朝。


「数と平楽寺を落とした将は?」

「軍を率いているのは坂井大助と滝川一益! 数は2万を超えております!」


 現在戦っている丹羽長秀の軍がおよそ1万。これを相手に今、伊賀勢は互角に戦いを進めている。その倍の数の援軍が押し寄せてくる。そして何より率いているのは坂井大助。この籠城戦に勝ち目はないと、この場にいた全員が悟った。


「兄様、すぐに撤退を。南の百地丹波の守る柏原城へ」

「さくらの言う通りです。まずは民間人から敵にバレないように城外へ……」


 考え込む服部保朝にさくらと藤林保正がそう進言する。


「何を申すか、小童ども!」


 ドンと威圧的に立ち上がり、そう怒鳴ったのは福喜多将監。2人の倍以上年を重ねた上忍の貫禄を前に2人は口を閉ざす。


「最後まで戦い抜く! それが伊賀者の誇りという物じゃあ!」

「黙ってろよジジィ。誇りだぁ? んな物クソの役にも立たねぇ。そんなに死にたきゃ1人で死にやがれ!」

「何ィ!? 小僧、今の言葉、もう一度申せ!」

「老いて耳までダメになったかぁ? 死にてぇなら1人で死ねって言ったんだよ! 無駄死はテメェ1人で十分だ!」

「貴様ァァ!」


 柘植清広の言葉についに福喜多将監が刀に手をかける。柘植清広も側に置いてあった自分の刀に手を伸ばす。


「やめろ」


 里長の一言で両名は刀を抜く直前で制止する。互いに睨み合った後、刀を置いた。


「この状況で同士討ちなど、あってはならない。2人の言い分はわかる。もう少し落ち着いて話し合ってくれ。ここにいるわずか十数名がこの城にいる民間人一万人と伊賀の北半分の命運を決めるということを忘れるな」


 保朝の言葉で再び広間は議論が交わされ始める。


「では清広殿にお尋ねしよう。何故、無駄死と申されるのか。我らは戦い伊賀者の誇りを侵略者共に見せつけるのじゃあ!」

「一々圧かけねぇと話せねぇのかよ。耄碌したジジィに教えてやる。俺たちが守らないといけないのは誇りなんかじゃねぇだろ」

「何?」

「俺たちが守るべきはこの城にいる1万の民間人、そして城外の伊賀の民たち。そうだろぉが!」


 清広の言葉に福喜多将監が押し黙る。そして清広を強く睨むと、刀を一瞥しこぶしを握る。


「戦って、退けるのだ」

「出来るわけねぇだろぉが!」

「それは貴様がいい様にやられたからか?」


 将監は先ほどから動きが硬い清広の肩を見る。清広はその肩を右手で抑えると苦々しい表情で言い返す。


「……そうだ。坂井大助と3万の軍、勝てる見込みなんて10に1つも無いだろぉが」


 勝てる見込みはないと、はっきりとそう言った。議論が交わされていた広間が再び静まり返る。


「では君はどうするべきだと思う?」


 将監と清広の議論に保朝が割って入る。清広は一瞬黙った後、答えた。


「城を明け渡し、降伏すべきでしょう」

「ふざけたことを言うな!」

「では問うが、どうすればあの織田軍に勝てるんだぁ? なぁ、福喜多将監殿よぉ」

「勝てる勝てないではない! 我らは戦い……」

「違う! 俺らは勝たなくちゃいけねぇんだよ。それが出来ないなら少しでも犠牲を減らす。織田と交渉し、伊賀者の生き方を認めさせる。それが最善の道だろぉが!! 織田には坂井大助がいる。あいつは馬鹿げた強さで伊賀を攻め落とそうとしてやがるが話が通じねぇ奴じゃねぇ。戦って、わかった」


 清広が普段と違う、真剣な口調で将監を黙らせる。


「私は降伏には反対」


 清広の意見に異議を唱えたのはさくら。


「確かに織田には大助がいる。でも総大将は織田信雄。私たちに好意的とは思えない」

「あぁ? 確かに前回撃退したってのは知ってるが……」

「……蹴っ飛ばした」

「はぁ?」

「木の上から奇襲して、蹴っ飛ばした」


 総大将織田信雄が伊賀者に好意的でないことは確実、そうさくらは話す。清広が頭を抱える。


「お前は……なんでだ? 普段は……」

「戦で総大将を狙うのは当然」

「そりゃそうだよなぁ……じゃあお前はどうするべきだと思うんだぁ?」

「さっきも言った通り、城を脱出して柏原城へ向かう。南と連携して伊賀の南半分を死守する」

「待て! それでは我らの土地が……」

「負けたらどうせすべての土地を失う。それよりはマシ。そうでしょ、富岡殿?」

「うむぅ……」


 広間にいる者たちの意見は大きく分けて3つに割れた。1つは福喜多将監を筆頭とした徹底抗戦派。2つ目は柘植清広が主張する全面降伏派。3つ目はさくら・保正が主張する一時撤退派。おおよそ意見は出揃った。最終判断は里長である服部保朝に委ねられる。


「保正・さくらの意見を採用する。将監の徹底抗戦という意見は伊賀の民を見捨てることに等しい、その判断はできない。清広の主張する降伏、これはまだ早い。我らはまだ戦う力を残している、それなのに降伏してはまだ戦っている百地丹波たちを裏切ることになる。降伏はもっと追い詰められ、打つ手が無くなってから考えよう」

「ハ」

「御意」

「里長の仰せのままに」


 清広も将監も里長の命令には逆らわない。命令に従い、その中で自分たちの仕事を見つけてすぐに退却の段取りが決まった。


「大助が到着する前に出るぞ! 城内に避難している民を先に逃がせ! 数十人単位の班を作らせ班一つにつき中忍を1人つけろ!」



 比自山城陥落の知らせが俺のもとに届いたのは俺が比自山城の丹羽長秀の陣に到着したのとほぼ同時だった。

 夜のうちに城内の1万以上の民と千人以上の忍者たちが忽然と姿を消したらしい。丹羽長秀隊などは被害だけ受けて敵に碌に損害を与えられないまま敵に逃げられてしまったことになる。丹羽長秀は悔しそうだったがすぐに気持ちを切り替えて敵を追うことを考え始めた。


「逃げられたか……」


 昨夜の平楽寺落城と俺たちが比自山城に向かっていることが保朝たちに伝わったのだろう。だとしても行動が早すぎると思うが。


 なにはともあれ、伊賀の三大拠点のうち2つを落とした。伊賀の北半分は既に織田軍の支配域だ。


「全軍、出陣! 柏原城へ向かう!」


 坂井大助・滝川一益・丹羽長秀の3将が率いる計3万の軍が比自山城から南に向けて出陣する。


「決着をつけよう、丹波」


 織田と伊賀衆の最終決戦が間もなく始まる。

 


 


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