第23話 大忍術体育祭・中休み
昼食の時間になった。昼食は祈が作ってきてくれたおにぎりと唐揚げである。ザ・運動会みたいな弁当だ。なんか懐かしい感じがするな。小1の時はまだ親の仲もよく、家族みんなで運動会でお弁当を食べたりしたものだ。まあその1回きりだったが。
「この唐揚げすっげぇうまい!」
「そうですか?ありがとうございます!」
二人で会場の隅の方に布を敷き、祈の絶品唐揚げに舌鼓をうつ。すると丹波が乱入してきた。
「おい千代松、お前なんだあの水蜘蛛は?お前もっと上手いはずだろ?」
「う……まああれは確かにひどかったわ。すまん」
「おかげでこっちの里はボロボロだぜ」
現在、こっちの里は水蜘蛛、分身、手裏剣の3本のうち、丹波の出場した分身の1本しか取れていない。
「はぁ、お前ももみじもなー」
「あたしに何か言った?」
丹波の顔が「あ、やべっ」って感じに変わる。
「丹波君?あたしに何か言った?」
もみじの非情に高圧的な一言。丹波はちょっとビビってる。丹波はすこしもみじが苦手、というか二人はそりが合わないのだ。
「あー、見事な落ちっぷりだったなって」
「ちょ!?丹波!?」
丹波はごまかすのではなく煽る方に方向チェンジ。
「ふーん?見事な落ちっぷりねえ?」
「ああ、見事に頭から落ちてたな。髪についた水草もいいアクセントで・・・」
「なんだとぉ!!」
もみじが丹波につかみかかる。だがこの学校で最強の丹波に勝てるわけもなく、、
「お色気の術ッ!!」
そう叫び、もみじが胸元を少し見せ、丹波の腕に胸が当たらない程度に軽く抱き着く。
「っ!?」
忍者は当然、忍者同士の戦いも想定している。もちろん、相手がくのいちでお色気の術をしてくることも当然、想定していたはずだった。だが丹波もいくら上忍とはいえ思春期の男の子。顔がどんどん赤くなっていく。そしてもみじがさらに距離を詰めた途端、丹波は鼻血を出して倒れた。
「はははっ!あれっ!?丹波くんどうしたの~?上忍なのに中忍のあたしにこんな無様な負け方しちゃって恥ずかしくないのかな~?」
もみじが倒れて気を失った丹波を煽りまくる。
「ほら、その辺にしとけよ」
「えー、まあ丹波くんの無様な姿を見れたしこの辺で勘弁してやるかー」
そう言ってもみじが祈の座っている横に腰掛ける。
「祈ちゃん久しぶり!相変わらずめっちゃ可愛いね!!」
そういって祈に抱き着く。目の保養だわ。
「はい、お久しぶりです、もみじさん。もみじさんも可愛いですよ。さっきの術はお見事でした」
「えー、見られちゃったか。はずー」
「ご主人様がめったに勝てない丹波さまを瞬殺だったんですから、誇れることですよ」
「もおー。祈ちゃんいい子過ぎる!!なんでちーくんにこんないい子が!?」
それはほんとにそう。感謝しかない。
「あ、もみじさんも一緒にどうですか?」
そう言って弁当を差し出す。
「え?いいの?じゃああたしもお弁当持ってくる!」
そう言って駆け出していく。
俺は倒れている丹波を起こすことにする。
「おーい、丹波。大丈夫か?」
「……うぅ」
「ほら、これ飲め」
水を差し出すとそれを一口飲んだ。
「あのクソ女……!」
「そのクソ女に胸押し付けられて鼻血出して倒れたんだけどな」
「あああああああ!」
丹波が顔を赤くして叫ぶ。
「ほ、ほらまあとりあえず食えよ」
珍しく理性的ではない丹波を落ち着けようと、おにぎりを差し出す。
「マジであのクソ女……!午後の大会で当たったら覚えとけよ……!!」
おにぎりを食いながら文句を言っている。
「お前味わって食えよ。祈の作った飯だぞ?」
「あ、ああ。すまん」
「それでお前大会でもみじに当たったら勝てんのか?つかお前女に耐性なさすぎだろ」
「うるせえな。お前はあんのか?」
「俺は3年間、祈という超絶美少女と一つ屋根の下に住んでるんだぜ?」
「それもそうか」
その祈はというと超絶美少女と言われて顔を赤くしている。
「ちーくん、確かに祈ちゃんは可愛いけどさすがにこんな人前で今のはちょっとね」
「え?まずかった?」
「ご主人様のばか」
もみじの指摘と祈の短い罵倒。
「す、すまん。悪かったよ」
「べ、別に、嬉しい、ですし」
「………」
「…………」
変な間。
「と、とにかく丹波、お前優勝するんだろ?くのいちの出場者もそこそこいるだろ?」
とりあえず話を無理やり変えて丹波に話を振る。そこにもみじも入ってくる。
「そうだよ!おんなじ学年に椿もいるし、桔梗先輩や夕顔先輩、1つ下には牡丹ちゃんとか欅ちゃんたちがいる。それに北の里にも女の子はいるでしょ!」
「だな。さっきみたいな負け方したら父上に上忍の資格取り上げられてもおかしくねえ」
「まじかよ、大ピンチじゃねーか」
「へっへっへ、いいこと聞いちゃった」
「もみじさん、なんか悪い顔してますよ」
「祈ちゃん、しー! ちょっと椿とか先輩たちのとこ行ってくる」
「おい待て」
明らかに丹波を潰そうとしているもみじを首根っこ掴んで止める。
「ちょ!ちーくん!!なんで止めんの!?ちーくんも最大の敵がいなくなるんだよ?」
「俺はこんなやり方で丹波を倒したいわけじゃねぇよ。堂々と真正面から倒したいの」
「ご主人様かっこいいです!!」
「お前にも負けねぇよ!」
「ちーくんがそう言うなら……でも当たったらさっきみたい倒すからね」
「それは好きにしてくれ」
「もうやられねぇよ!!」
「そうかなー?」
そう言い、もみじが再び胸元をあけ丹波に近づく。丹波の顔が再び赤くなっていく。
「やめろバカ。丹波もしかっりしろ」
そう言いもみじの頭を軽くはたく。
「ちょ、ちーくんひどい!今のうちに丹波くん鼻血で貧血にしようと思ったのに」
「それはさすがにスポーツマンシップを逸脱しすぎてるのでは…」
もみじの宣言に祈が小声でツッコむ。
「おい丹波、なにニヤニヤしてやがる。もみじもそういうのは日頃からやってると効果薄くなるぞ」
「え?そなの?じゃあやーめた」
そう言いもみじが服を整える。
「ほら、もうそろそろ始まるみたいだよ。あ!!対戦表発表されてる。行こっ!」
「おい、行くぞ丹波。おい、おいってば」
丹波はまだぼーっとしている。
「ほら、丹波くん、行くよ!!」
もみじが丹波の後頭部を割と本気で殴り目覚めさせる。
「はっ!?あ、うん」
そしてみんなで走って対戦表を見に行く。参加者は59人。64人用のトーナメント表で5人シードだ。
俺と丹波は決勝まで当たらない。初戦は絶対に同じ里の人と当たらないようになっているようだ。もみじは順調に勝ち上がれば準々決勝で俺と当たる。
「お、もみじシードじゃん」
「へへ、ラッキー」
「俺、二回戦で橘先輩と当たるんだけど」
「それだけじゃねぇ。丹波、お前初戦はくのいちじゃん」
「あー、やべぇ」
「無様に負けろっ、無様に負けろっ!!」
「お前マジひでぇな」
もみじがひどいコールを始め、それを即座に止める。
「それでは、1回戦、第一試合に出場する選手は準備を始めてください」
俺の忍者の里の最後の大イベント・大忍術体育祭トーナメントが始まる。