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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 4章 『行く先を阻む包囲網』
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第187話 未来人同士の思惑

「朝倉が撤退を始めたらまずうちの鉄砲隊で背を撃ち、羽柴隊とうちの長可、氏郷両隊で追撃をかける、ということでいいな?」

「それでよろしいかと思います。最低限の約束として、城攻めは行わないということだけをお互い守っておけば大丈夫でしょう。追撃部隊の指揮はどういたしましょう?」

「いきなり2隊で連携なんて無理だ。そっちは自由に動いてもらっていい。数が少ない俺たちが合わせるよ」

「かしこまりました」


 そんな感じで竹中半兵衛との相談を終える。敵の動きがわからないからちゃんとした作戦なんて立てようがない。それでもこいつの頭脳と俺の武力があればきっとなんとかなるだろう。


「あんた、また派手にやるつもり?」


 羽柴隊の陣を出ようとした俺の背中にそう声を投げかけたのは俺にとって馴染みのある人物。俺が元未来人だということを唯一知る未来人。羽織の下に甲冑を着込んだユナがそこにいた。


「あぁ。何か文句でも……ってお前戦うのか!?」

「馬鹿言わないで。そんなつもりはないけど何があるかわからないじゃない。戦場にいる以上、最低限の備えはしておくべきだわ」


 いぐざくとりー。全く持ってその通りなのだが、そもそもなんでユナが戦場にいる? その疑問は顔に出ていたようで、ユナがため息をつきながら答えてくれる。


「この戦は秀吉さまの大出世の第一歩と言っても過言じゃないくらい、大切なの」

「農民が3000の兵を指揮する隊長ならもうすでに大出世だと思うけど」

「今までの活躍が霞んで見えなくなるくらいの大手柄を秀吉さまは上げるわ。本来の歴史ではこの戦のあと、秀吉さまは浅井領の北近江を丸々治める領主になる」

「はぁ!? 馬鹿言うなよ、そんなデカい領地を貰ってるのは北伊勢の一益殿と近江・山城の旧延暦寺領なんかを治める光秀殿だけ。いくらあいつが後の天下人だって言っても流石に無理がある」


 信長からの信頼が厚く、多くの武功を上げている長秀殿やこれまでの主要な戦すべてに参加し、活躍してきた勝家殿ですらそのレベルの土地は貰えていない。俺だって織田家の中核を担う武将の1人だけど領地は清洲一帯。家臣団の中でもかなり広い方だけど一益殿や光秀殿に比べると数段劣る。


「それだけ大きい武功を上げるってこと。でもあんたが同じ第一陣にいたらそれが叶わないかもしれないでしょ?」

「つまり、お前はサルが武功を上げる予定だから俺にその邪魔をするなって言いたいのか?」

「理解が早くて助かるわ」

「理解した上で断るけどな」


 ユナが驚愕した顔で俺を見る。そんなふうに睨まれても嫌なもんは嫌だよ。


「お前の言ってることは無茶苦茶だよ。史実がどうであれ俺は俺のやりたいようにやる。武功、特に大将首なんかは早い者勝ちだ。俺はサルが武功を立てるのを邪魔するつもりはないけど俺だって活躍しないといけない理由がある。譲るつもりは一切ない」


 三方ヶ原の敗戦とその後半年間織田に戻れなかった俺は今、なんとしてでも武功を上げないといけない。サルに譲る余裕なんてない。


「あんたが活躍しちゃったら秀吉様の出世に影響が出るかもしれないでしょ!?」

「だから、関係ない。そもそも俺がいてもサルが活躍して武功を上げればいいだろ?」


 そんな便利なものも持ってるんだから、と俺はユナの腕に内蔵される未来のハイテク機器に視線を向けながらそう言う。そうだ、俺よりも未来から来たユナなら上手くサルのお膳立てをして武功を上げさせることだって可能だろう。

 俺の考えに勘付いたユナは気まずそうに視線を下げる。ユナだって無茶苦茶なことを言ってるのはわかっていたのかもしれない。その上で未来の知識を使っても上手くできないからこんなことを俺に頼み込んでるのか? 


「だいたい、なんでサルにそこまで固執するんだよ? お前の目的は未来に帰ることだろ?」


 最近はあの宇宙船のところに呼び出されることも減った。武田に捕らわれて戻って来た時には絶対に呼び出されて文句を言われるかと思ったがそれもない。

 変だなとは思っていたんだ。いずれは対立するかもしれないくらいに思っていた相手だが少なくとも現時点では良好な関係を築いているし、ユナの目的のためには俺を利用しない手はないはずだ。


 だが俺のその問いには答えず、ユナは苛立ったように俺に背中を見せた。


「お、おい!」

「うるさい! ……あんたの言い分はわかった。あんたにも事情はある、押し付けるような事言って悪かったわね。こっちの事はあたしがなんとかする。それじゃ、……また研究、よろしくね」


 これ以上俺と話すことはないと立ち去るその背中が語っている。

 今日はかなり様子が変だったな。それだけこの戦が大事ってことか。サルに固執する理由はわからなかったが、あいつが俺が思っていた以上にサルに入れ込んでいるというのは理解した。俺が信長に従うように、あいつはサルに協力し、サル、いや羽柴秀吉が史実通りに、あるいは史実以上のやり方で天下を取るように仕向けるのだろう。

 

 そうなると……いずれ、いずれユナとは敵対することになるかもしれない。


 以前から考えたことはあった。

 俺とユナはそもそも歴史に対する考え方が違う。

 未来人とひとくくりにしてもきた時代が違う俺たちは価値観が大きく異なる。

 そして何より目指す物が違う。俺は本来はあり得ない信長の天下統一、ユナは信長の天下が叶わないからこそ成り立つ秀吉の天下。この二つは絶対に相容れない。


 お互いに曲げられない信念がある。

 

 だからきっと、俺達は衝突する。

 

 今まではその可能性がある、程度に考えていた。俺とサルがどちらも信長配下にいる間にうまく折り合いをつけられればユナとぶつかることはないと思っていた。だが今のやり取り、あれは秀吉の天下という未来を確実にするためユナは動くという意思表示だ。このままいけば俺とユナの衝突は避けられない。


 そして未来の知識をフル動員したユナにはきっと俺は敵わない。元居た時代が1世紀以上離れているんだ。人類に100年あればどれだけの技術力が上昇しているのか見当もつかない。


「どうしたもんかね……」


 今すぐにサルの陣に戻ってユナを殺すなら簡単だが、そんなことはしたくない。一応、現状の関係は悪くないんだ。そんな相手を、戦闘員ですらない相手を殺そうとは思えない。それに下手をすれば俺の隊とサルの隊で戦になっちゃうし。


「ユナは……こうならないために、今まで散々俺に歴史に関わることをするなって言ってきたのかもな」


 ユナも俺との対立は避けたかったはずだ。たぶん今もそう思っている。だからこそ最後にまた研究なんて言葉をつけて完全なる決裂を避けたんだ。


「歴史に関わらない、研究、ね……」


 思いついた。ユナと俺が対立しない方法。俺がユナを信長の天下統一に干渉させない。

 未来人はさっさと未来に送り返してやるぜ。



 



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