第186話 俺の隊とサルの隊
信長に預けられた弟子3人を連れて隊に戻る。そして隊を再編した。
一番隊・山下彦三郎 1400人 ほぼ鉄砲隊と弓隊の遠距離部隊。
二番隊・森長可 1000人 多少の弓兵はいるが基本的には槍・刀による近接戦闘部隊。
三番隊・蓮沼常道 200人 補給部隊、隊長の常道は軍師を兼ねる。
四番隊・森川秀隆 1000人 元2番隊、4番隊、5番隊を合併した。遠近両用。
五番隊・蒲生氏郷 1000人 二番隊同様、近距離戦メイン、弓隊あり。
六番隊・市橋長利 600人 鉄砲隊あり、長槍隊ありのオールラウンダー的存在。
これらに加え、俺直下の兵が400人。鉄砲隊、槍隊など。
合計5600人。一つの軍団と言って差し支えない。桶狭間の時の織田軍よりも多いし。
「と、まあこの面子で今後は戦っていく。従来の俺の隊と新規加入の2000人がいきなり連携を取るのは難しいだろうからこれから少しずつ擦り合わせをしていこう。長可、氏郷、ようこそ坂井大助隊へ。俺たちはお前たちを歓迎する」
「はいっ!!」
「彦三郎、常道、秀隆、長利、2人はこれが初陣だ。同じ隊長としていろいろ教えてやってくれ。兵法も出来るけど実戦と授業は違うからな」
4人の隊長たちが頼もしく頷く。ひとまず問題はなさそうだ。まあ、初対面で問題起こすようならうちには合わなかったってことで信長に返却するけど。大吾と隆康も仲は悪かったけど、あれは方向性の違いとかもあったし。少なくとも初対面では普通に会話していた。
「行くぞ! 下山する。田上山から少し離れたところに布陣し、朝倉の様子を見る。朝倉が撤退するならそこに追撃をかける。騎馬隊はいつでも出られるように備えよ!」
「「ハハッ!!」」
隊長たちが俺の指示に従い、陣を出て行った。俺は俺の後ろで黙って軍議の様子を見ていた信忠に向きなおる。
「この前まで一緒に稽古していた二人がすごく頼もしく見えました。いきなり1000人の将なんて」
「信忠様が戦に出るようになったらその比ではありませんよ。数千の兵を率いて戦に出て経験を積んで、きっとすぐに万の軍を率いることになります。総大将として戦全体を指揮する立場になりますから」
「不安です」
「そりゃあそうですよ。そのために信長様は初陣の前なのにこうやって戦に連れてきて少しでも多くの経験を積ませようとしているんです。俺の戦で何か学びがあると嬉しいです」
「はい!」
将来織田家の家督を継ぐ信忠様が愚将にならないように信長はわざわざ連れて来たのだろう。俺にしてはちょっと真面目なことを言いすぎたような気もするが、大事な嫡子の教育を任されたのだ。いい加減なことは出来ない。
「信忠様は絶対に俺の陣から出ないでください。全力で守りますが戦では何があるかわかりませんから。剣を抜いていいのは自分の身が危険になった時だけです」
「は、はい!」
初めて戦場に来て不安になっているのだろうか。確かめるように腰の刀を触った手が若干震えている。
「まあ、この坂井大助が居る限り信忠様に危険は訪れません、ご安心を。巷では織田家最強なんて呼ばれているんですよ。信忠様も稽古で俺の実力をご存じでしょう?」
「はい。知っています。父上もよく大助殿のことを誉めていますし。今日はよろしくお願いします」
「お任せを」
こうして俺も信忠を伴い、山を下り彦三郎たちが設営した陣に入る。俺の陣の隣には五三桐の旗印の陣。サルの隊だ。
「一応アイツにも話通しておくか」
「秀吉殿ですか?」
「いや、あいつんとこの天才軍師。サルに話すより手っ取り早い」
ということで俺は常道を伴い羽柴秀吉本陣へ。
「おーい、竹中半兵衛いるか?」
「大助殿! 半兵衛なら少し離れておりますぞ。すぐに戻りますが……」
「じゃあここで待たせてくれ」
「では、その間に新しい我が隊の面々を紹介させて頂きたく」
金ケ崎でほぼ全滅したサルの隊は完全に再編され、数々の戦を経て今の形に落ち着いたと語る。
「特にこ奴はすごいですぞ。ワシの親戚の子なのですが……」
「福島正則だ」
「バッカもん! お主は敬語を知らんのか! ワシより立場が上の御方なのだぞ! 申し訳ありませんな、大助殿。こ奴は桶屋のせがれでして、どうも武士の身分制にまだ不慣れなようでして」
「昔のお前みたいだな。500石で自慢してきた時」
「そ、そんなこともありましたな……まだ小姓ですがいずれは一つの隊を任せられるようになると思いまする」
確かに立ち姿に隙が少ない。まあまだ子供だから何とも言えないけど。現時点では氷雨にも負けるな。でもこの若さだ、将来大物になってもおかしくない。
「それより紹介するなら小姓じゃなくて部隊長を紹介しろよ。俺は戦略的な話をしに来たんだからな」
「そうでしたな。では……」
サルが周りを見渡して一人の青年を手招きする。
「紹介いたします。ワシの軍の2番隊隊長を務めておる、山内一豊じゃ」
「坂井大助殿、お久しぶりでございます。山内一豊でございます」
お久しぶり? 俺こいつに会ったことなんてあったっけ? 姉川の時にサルの隊と共闘してたからその時かな?
「以前お会いしたときは、大変失礼いたしました」
そう口では謝っているもののその目からは俺への敵対心が見て取れる。両手の拳は強く握りしめられ震えている。……本当にどこで会った?
「ん? 2人は知り合いなのですか?」
ナイスサル。何か恨み買ってそうな奴にどこで会ったっけ?、覚えてないやとか言いづらいし。
「ええ。浮野の戦いの際に……」
「あ、お前! もしかしてあの時のガキか……!?」
山内という苗字、浮野の戦いそこでやっと俺はピンときた。こいつの俺を見る目もこれなら納得がいく。
こいつ、山内一豊は俺が浮野で討った山内盛豊の息子だ。
あの場で俺はこいつの目の前で父親を殺し、その仇討ちをしようとしたこいつを倒した。命は奪わなかった、だからこその屈辱。
え……俺マジでいずれこいつに殺されるんじゃないの? 本当に共闘なんて出来んのかな……