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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 4章 『行く先を阻む包囲網』
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第181話 上杉輝虎と越中国

 盾を構えた50人の兵士が山を登っていく。その正面には1000人ほどの敵部隊が弓を構えている。敵部隊が守っているのはこの強固な山城の数少ない隙のひとつ。ここを落とせば一気に攻略に近づく。


「放てぇ!」


 敵将の合図で50人の囮の小隊に弓が撃ち込まれる。ちゃんと俺の命令通り、盾で防いでるな。「弓を撃ち返すのは最低限でいい、とにかく長い間敵の気を引いてくれ」というのが俺が囮部隊に下した命令だ。ひたすらに盾で攻撃を凌ぎ、俺が侵入する隙を作る。


「さてと、敵将の位置もわかった。敵兵の意識も囮に集中している」


 準備は整った。俺は木から木へと飛び移り、敵部隊へ乗り込んだ。


 音を立てず、敵将の背後に立つ。反応はさせずに、敵将の首を刎ねた。何が起きたかわからなかっただろう。これが伊賀の上忍だ。


「は?」

「と、殿!?」


 まだ状況の呑み込めていない側近たちを5人斬り捨て、武田からパクってきた狼煙を使って俺が率いるはずだった精鋭部隊に合図を送る。遠目に北条高広と宇佐美定満が動き出したのを確認する。後は俺があの部隊に合流すれば完璧だ。


「行かせるかい。よくもまあこんな所に潜り込んでくれ寄ったのう」


 なんか厄介そうなのがいる。あれ? もしかしてこっちが敵将? わかんないけどその可能性がある以上無視できない。こいつも殺してさっさと退散だ。


「”突進之太刀”」

「ぬおっ!? 早いのう」

「一回止めただけでもあんた十分すごいよ。次はないけど。”一巴玉簾之事いっぱぎょくれんのこと”」


 俺の大極意は敵将の両腕と首を刎ねとばす。さ、とっとと退散退散。


「と、殿ぉぉ!!」

「城主!」

「城主様ぁぁ!」


 あれ? 城主? 城主って、松倉城主? 敵総大将?


「あ、あの、もしかしてその人って、椎名康胤、さん?」


 そう尋ねた俺に、周りの敵兵が俺に怒りの目を向ける。


「ああ。そうだが」

「知らずに殺したのか?」


 あ、これやばい予感がする。敵兵の目が怖すぎる。


「殺す!!」

「城主の仇を討て!!」

「恐ろしい手練れだ、一斉にかかれ!! 何としてでも討ち取るのだ!!」


 ですよねー。俺だってもし信長がこんな殺され方したらマジギレして射殺し、死体撃ちまでする自信がある。でも仕方ないじゃん、知らなかったんだし。これ戦だよ?  そういうこともあるさ。特に農民兵とかがいる戦ではたまに起きることじゃん。だからさ、そんな真っ赤な顔で襲ってこないでよ。全方位から。


 マジで笑えない状況になっちまった。俺は全方位から近づいてくる敵兵を片っ端から斬り殺していく。キリがない。


「うおっ!?」


 足を掴まれた。今しがた斬り捨てた奴に。


「死なば諸共!」


 一人で死んでくれ。お前のせいで一撃食らっちまったじゃねえか。


「死なば諸共!」

「死なば諸共!」


 なんなのこの集団。怖すぎる。「死なば諸共!」って言いながら襲い掛かってくる。やばすぎ。


「大助殿!」

「遅くなった! お前たち、蹴散らせ!」


 北条高広と宇佐美定満がやっと到着した。上杉軍の精兵が狂気の椎名勢を蹴散らしていく。


「大助殿、これはどういう状況ですか? 敵兵の様子が……」

「敵総大将・椎名康胤を討ちました。それで」

「ああ、なるほど。さすがです。では後はここを制圧するだけですね」


 あっけらかんとそう言った北条高広。その言葉通り上杉の精兵が一気に敵を制圧していく。


「さすが精兵。俺も負けてはいられないな。100人ついて来い! このまま城内に突入する! そこの敵将の首を掲げて持っていけ!」


 その後の展開はあっという間だった。俺と精兵100人が椎名康胤の首をもって城内に突入したことで松倉城は陥落。長い間、豪族や一揆勢が割拠していた越中国の覇権争いは上杉に軍配が上がった。越中に残る反上杉派はもう残り僅かで越中国はもう上杉領と言っても過言ではない。


「よくやった。大助」


 明け渡された松倉城内で輝虎からお褒めの言葉を賜る。続いて北条高広と宇佐美定満に輝虎は「お疲れ、大変だったろう」と俺のことを視線で示しながら声をかける。


「はい、とても」

「おいそれはどういう意味だ」


 そのままの意味だが?と同情したような視線を北条高広と宇佐美定満に向ける輝虎。


「だが大助のおかげで我らは無事、松倉城を手に入れた。これは褒美だ」


 上杉輝虎が差し出したのは一本の刀。派手な装飾がついているわけではない。黒い鞘に金箔で鳥のデザインが施されている。刀を抜いてみると見事な刀身が現れる。一目で名刀だとわかる。


「ありがたく」


 さっきまで使っていたのは馬場信春の所からパクってきた物だったし、そもそも俺は愛刀と呼べるものは持っていなかったし丁度いい。ありがたく使わせてもらおう。


「今日はここに泊まり、明日には発つのだろう?」

「そのつもりです」

「わかった。今夜は宴を開く。楽しんでくれ」


 その晩は勝利の宴を楽しんだ。越後名物の米から作った酒、めっちゃうまかった。信長や利家へのお土産はこれで決定でいいだろう。他にも越後名物の枝豆なんかを買って帰ることにする。


「祈と葵丸はお土産とか決めたか?」

「祈たちは長い間滞在しましたから」

「そうか。じゃあそろそろ帰るか。俺たちの家に」


 馬車の荷台に荷物と葵丸を積み込み、俺は馬を操ることにする。


「大助、今から出発か?」

「はい。本当にお世話になりました」

「世話になったのはこちらも同じだ。少なくとも1週間かかると思っていた城攻めがわずか1日で終わったのだからな」


 想定以上の働きをしてくれた、と輝虎が話す。祈と葵丸を保護してもらったし、今回はお互い様だ。


「また越後に来るといい。いつでも歓迎する」

「輝虎さまももし美濃か京都に顔を出す機会があれば、ぜひ。歓迎いたします」

「ああ、そうだな。同盟もある。そういう機会もあるだろう。……それから、景綱、あれを」


 輝虎がそう言うと景綱が黒い馬を連れて前に出る。


「これは餞別だ。連れていけ」

「いいんですか?」

「ああ。これからの活躍を期待しているぞ」


 くれるというんだから貰っておこう。ありがたい。俺の中での上杉輝虎の好感度がぐんぐん上昇していく。


「では、またな、大助。祈、葵丸、そなたらも元気でな」

「はい、輝虎さまもお元気で」

「輝虎さま! ありがとうございました!」


 祈と葵丸が輝虎と別れの挨拶を交わす。俺も最後に一礼し馬の手綱を引いた。


 こうして俺は数か月ぶりに織田領へ帰るために越中を出発した。

 



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