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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 4章 『行く先を阻む包囲網』
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第176話 脱出と因縁の対決

 まだ梅雨は明けていないというのに今日の昼は外で剣の稽古が出来るほど晴れていた。銃のある場所を把握済み。月も出ていない今日は脱出に最適だと判断した。


 決断したら即行動。日が沈んで4時間ほどたった頃、俺は銃を奪還した後、深志城を脱出した。否、しようとした。城を出ようとしたところで邪魔が入った。


「やはり動いたか」

「お前マジでなんなんだよ。ずっとついてきやがって」

「夜の散歩の可能性があったから黙ってついてきたまでだ。だがあと一歩、あと一歩貴様が前に出れば儂は貴様を裏切り者として斬る」


 そうゆっくりと刀を抜く織田信清。俺はそんな見え透いた脅しを鼻で笑い飛ばし、両足でぴょんとジャンプし、城を出た。


「斬る? 斬れるもんなら、斬ってみろ。俺は伊賀の上忍にして、織田家最強。坂井大助!!」

「確かに儂が斬るのは無理だ。なら、射殺すことにしよう」


 そう言って右手を上げる信清。すると周囲から弓兵が現れ、俺に向けて弓を引く。


「おお、用意がいいな」

「そんな無駄口を叩いていていいのか? それが最後の言葉になるぞ」

「精々数十の弓兵如きで俺が死ぬと思ってるならそれは大きな勘違いだ。知ってるか? 弓より射程が長くて、弾速が早くて、撃つのに手間がかからない、そんな武器を」


 俺はリボルバーを抜き、即座に発砲する。一瞬で装弾数である6発を撃ち切る。それと同時に6人の弓兵が地に伏した。


「放てッ!!」


 俺がリボルバーのリロードに入ったタイミングで信清の指示で一斉に矢が放たれる。俺は今しがた倒した敵の方へ走りその矢を躱す。そりゃあいきなり全弾撃つからにはそれなりの理由がないとね。退路を作るのは戦いの常識だ。負けイコール死の戦いなんてやりたくないからね。


 そして弾を詰め終わったリボルバーで再び敵を撃つ。そして刀を抜き、弓兵に接近して斬り殺していく。弓兵が残り半分といったところまで殺したところで俺は織田信清の方に向き直った。


「ここで貴様を殺す。その為に生きてきた」

「手合わせするのは初めてだけど、お前じゃ相手にならないってことだけは言っておくよ」

「そんなもの見ればわかる。家晴ですら歯が立たなかったのだからな」


 あれは不意打ちだから真正面から戦ったわけじゃないんだけどな。


「だがそれは戦わない理由にならん。当然、策も練ってきた」

「確かにさっきから兵が俺の周りを囲んでいるのは気づいている。なんで俺が気づいているのに何もしないのかわかるか?」

「何?」

「この程度じゃ俺の相手にならないからだよ!!」

「舐めるな!! 放てッ!!」


 俺に対して残った弓兵が一斉に矢を放つ。さらに俺を囲んだ槍兵が一斉に突撃してくる。


「”乱之太刀”、”巴三之太刀”!!」


 まずは矢を弾き飛ばし、続いて槍兵の対処。数は多いが一人一人の実力は大したことない。だが戦と違って全員の意識が俺に向いている。戦とは違うとあらためて自分に言い聞かせる。剣聖の技のすべて、剣聖の戦い方は頭に焼き付いている。きっと剣聖なら、こう動く。


「”車之太刀”、”実地天道之事”!!」


 伊賀で学んだ多対一の戦い方を思い出せ。きっと丹波なら、こう動く。


「火遁!!」


 敵の足元で火薬が破裂し、敵兵が怯む。その敵の首を跳ね飛ばし、続いて爆発に怯んで雑になった敵の攻撃を躱しその敵のがら空きのお腹に蹴りを叩き込んだ。丹波は器用だから武器がなくても敵を倒せていた。丹波は忍術だけじゃなく体術だってすごいんだ。俺の蹴りは丹波ほどの技術も威力もないが、人ひとりを吹き飛ばすには十分。蹴られた一人はその後ろにいた敵を巻き込んで転がっていった。


 そのわずか数分後には敵兵は全滅していた。ここに居るのは俺と織田信清の二人だけ。


「まさかあの人数で傷一つ付けられないとは」

「さあお前の番だ。お前の長い間の因縁に決着をつけよう。そうしたかったんだろ?」

「ああ……そうだな」


 信清はゆっくりと刀を抜き、俺に向けて構える。ついに俺と織田信清の直接対決が始まる。と思ったが、邪魔者が入った。


「父上!! これはどういうことですか!! 主人に剣を向けるなど!!」

「信益か……言っていなかったがこの男は信長の配下として儂の城と領地を奪った男。つまり、仇敵だ」

「そんな……ですが、今は僕らの主でしょう? 武士として許されることではありません!!」

「関係ない。儂はこのためにこの男の下についた。儂はここで死ぬが、お前まで死ぬことはない。お前はお前の言う通り武士の精神に則り生きていけばいい」

「負けるとわかっていて、間違っているとわかっていて、戦うのですか!!」

「ああ」

「そんな…………」


 信清は息子の悲愴の面持ちを気にすることなく、剣を構えなおした。俺も再び剣を上段に構える。


「だ、大助様、お願いします。父上を、どうか、どうか……!!」

「それはお前の父親次第だな」

 

 俺は俺の命を狙う相手に容赦しない。それが誰の父親であっても、誰の子供でもだ。


「ここで決着だ!! 坂井大助!!」

「”一之太刀”!!」


 俺の斬撃は信清の刀をへし折り、その首に強烈な一撃を入れる。信清は吹き飛んだ。


「ち、父上!!」


 信益が信清に駆け寄る。そして信清を抱き上げ、その状態を確認するとすぐに俺の方に目を向けた。俺は刀を鞘に納めながら二人に近づいていく。


「峰打ちだ。俺は息子がいる前でその父親を殺すほど鬼じゃない」

「あ、ありがとうございます!!」

「これでお別れだ。俺は織田へ戻る。お前も強く生きろよ」

「は、はい」

「信清、今回はお前の息子に免じて命は助けてやる。息子に感謝するんだな」


「……ああ。そうさせてもらう。息子のおかげで貴様にこんな隙が生まれたのだからな!!」


 俺は信清は気を失っていると思っていた。少なくとも俺は気絶させるほどの威力は込めた。だが信清は気を失っていなかった。信清は俺の左腕をがっしりと掴み、反対の手の短刀で俺の腹を狙う。


「せっかく助かったんだから、そのまま気絶したふりをしておけばよかったのに」


 あるいは掴むのが俺の右手だったら、俺が信清から意識を外してから動いていれば、結果はまた変わったかもしれない。この瞬間、信清はすべての判断を誤ったと言えるだろう。


 パァァーーン!!


 俺は短刀が俺に向けられた瞬間、右手でリボルバーを抜き即座に撃ち抜いた。


「ち、父上!!」

「悪い。今の状況では撃つしかなかった」

「……いえ、今のは父上が悪いんです。命を救われてなお……」


 信益は信清の遺体を抱きかかえて泣いた。だが彼は大人だった。状況を冷静に受け止めた。父の仇だと俺に襲い掛かってもおかしくない状況なのにな。


「じゃあ、俺は行くよ。ちゃんと弔ってやれ」


 予想以上に時間がとられてしまった。俺は夜明けまでに松本盆地を抜けるため、俺は馬にまたがり深志城を飛び出した。


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