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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 4章 『行く先を阻む包囲網』
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第175話 宣教師と脱出前夜

 織田軍は圧倒的な戦力で京へ進撃し、上京を焼き払い、足利義昭が立て籠もる二条御所を包囲した。明智光秀と柴田勝家が周辺の義昭方の城を次々と落とし、二条御所も包囲されたことにより兵糧などの物資が届かなかくなると、勝ち目薄と見た足利義昭は天皇に依頼して信長との一時的な和議を成立させた。


「これでひとまず義昭は大丈夫だろう。次は近江だ。南近江を安定させるぞ」


 南近江では以前信長が倒した六角氏の残党がいまだに信長に抵抗していた。信長はこれを徹底的に叩いてから岐阜城へ帰還した。

 対する足利義昭は二条御所を脱出し槙島城に入る。そしてそこで対信長を全国の大名に呼びかけた。


「信長様にお会いしたいという者が来ておりますがいかが致しましょう?」


 それは信長が岐阜に戻って1週間ほど経った頃。信濃でちょうど大助が武田信玄の屋敷に忍び込み、殺されかけた頃だった。

 岐阜城に信長に会いたいという怪しい者が現れた。その者は髪がなんと金色だというのだ。皆が会うべきではないと主張したが信長は即決した。会おうと。


「ハジメマシテ。ワタシはルイス・フロイスとモウスもの。このタビはお会い出来てコウエイです。ノブナガ様」


 やってきたのはルイス・フロイスと名乗る所々日本語の発音がおかしい者だった。見た目は報告通り金色の髪、顔立ちも少々信長たちと違う。服装も見たことがない。

 信長はルイス・フロイスというのはどんな漢字を書くのかと考えつつ、その様子を観察する。


(確かに面白い風貌だ。首にかけている十字の金属はなんだ? あの服は絹でできているのか? とにかく興味深い。報告を聞いて面白そうだと思っていたが大正解だ)


「何ようでここに来た?」


 家臣団を代表して丹波長秀が問いかける。


「ミツギモノを持って参りました」

「ほう」


 フロイスが合図すると従者が何やら大きな箱を抱えて前に出る。それをフロイスが丁寧に一つずつ取り出して説明していく。


「これはビロードで出来たマントです。このあたりにシシュウが入っております。ノブナガ様にきっとお似合いになります」

「こちらはガラスと呼ばれるソザイで作られた器です。陽の光を当てるとハンシャして綺麗ですよ」

「こちらは鉄砲です。こちらではタネガシマと呼ばれています」


 面白いものがいくつも出て来る。だがその中で信長の心を撃ち抜いたのは球体に棒が突き刺さって回るようになっているもの。


「これはチキュウギです。この世界の形を表しています。今ワタシたちがいる日本はここ、海外の人はジパングと呼んでいます」

「お前の国はどこだ?」

「ここです」


 フロイスが日本より遠く離れた地を指さす。海や大陸を挟んだ遥か彼方だ。


「遠いな……どんな船で来た?」

「この国の、どの船よりも大きな船です」

「あとで絵を描いてもってこい。俺が天下を統一した後、外の世界を見に行くのに必要だからな」


 外の世界。天下の統一後。それは利家には考えたこともない話だった。信長はそこまで見通しているのか。他の家臣団は何を言ってるのかチンプンカンプンといったところだ。そりゃあそうだ。誰も天下までは見えていてもその先までは見えていない。想像することすら、できない。その段階にいるのは、この場で信長だけ……


「ほぉぉーーー、ではあれが朝鮮、その奥が明国か……!! さすがにデカいのう!!」


 家臣団の最後尾。そこに陽気な声を上げるものがいた。羽柴秀吉。農民出身の彼だ。彼だけが家臣団の中で唯一、信長と同じように統一後、世界を見ることが出来ていた。


 その後、フロイスが描いた船の絵を見た信長は感動し、琵琶湖を渡るための巨大な船を作ることになった。利家、長秀はそれに振り回されることになるのだがそのことをまだ2人は知らない。



《坂井大助》


「結構動くようになったな」


 俺は腕をグルグルとまわし、再び刀を構える。練習用の丸太に向けて刀を振り上げた。


「”乱之太刀”」


 一瞬で丸太は木片へと変化する。うん、ちょっと鈍ってるけど問題なさそうだ。今までは身体的な問題で脱出できなかったがこの状態ならいつでもいける。後の問題は、


「ルートか……」


 ここは深志城、現代でいう松本市のあたりだ。

 まず俺が脱出したい西側、つまり美濃・飛騨側は日本アルプスがある。3000メートル級の山が並び立つ天然の要害。現代日本の重装備で登山しても死人が出るレベルの山だ。登山道がまともに整備されていないこの時代でこの山を突破するのはしんどいぞ。つーか絶対やりたくない。少ない山の合間は織田・武田の国境で武田の兵が多い。西はナシだな。


 次に考えるのは南、来た道をそのまま戻り三河を経由して織田領を目指すルート。だがこれも現実的ではない。今武田の主戦場となっている遠江・三河側には多くの兵が配備されている。これを単騎突破するのも面倒だ。


 最後の案、これが本命の案だ。ここから北側、つまり越後に抜けて祈を拾ってから美濃へ帰還するルート。越後の上杉輝虎は今、織田の同盟国となっている。もちろん、武田・上杉間は敵対しているためそこで軽く戦闘になるだろうが三河よりは兵が少ないはずだ。距離的にも三河より近いし最も現実的なルートと言えるだろう。

 それに一刻も早く祈と葵丸に会いたいしな。そろそろ祈不足の禁断症状が出そうだぜ。


 こうして俺は脱出のための準備を整え始めた。まずやることは……


「邪魔者の排除。そろそろ鬱陶しくなってきたしな」


 いつ何時も家臣として俺の近くに控えている男。もちろんそんなのは建前で俺の監視をしている、織田信清。仕事熱心で大変ご立派なことだが現代で同じことをやればストーカーでお巡りさんに怒られることは間違いない。家臣としてでも度を越してるだろ……っていうか最近2人いるんだよ。直接聞いてみるか。


「信清」

「呼んだか?」

「その後ろの奴は誰だ?」

「息子だ」


 息子かよっ!! どんな教育方針だっ!! 主人の風呂トイレまでついてくるなッ!! 俺も可哀そうだけど息子も可哀そうだよッ!!


「名前は?」

「織田信益と申します。大助様、お見知りおきを」

「お、おうよ……お前は父親みたいになるなよ……」


 まだ純粋そうな少年がストーカーなんて犯罪の片棒を担いでいるのが残念でならない。信清め、間違った倫理観を教えるなよ。親ガチャ大失敗とはまさにこのことだ。前世の俺よりはずれだろこれ。


「大助様!! 先程の剣技、見事でした!!」

「お、おうよ。ありがとう」

「僕にも剣を教えてください!!」

「おい! 何を言っている!! こんな……」


 こんな奴とでも言おうとしたのだろうか。仮にも主である俺に。とっさに口を噤んだようだが。

 それより問題は剣を教えろとか言っているガキの方だ。信清も想定外なようだしガキが勝手に言い出しただけみたい。武田の子供を育成なんて俺の役に立つどころか将来の障壁になってしまう。


 ……そんなに目を輝かせるなよ……断りづらいだろ。……まぁ一回くらいなら、いいか。


「ちょっとだけだぞ。ほら、さっさと刀を持ってこい」


 敵の子供に剣術を教えるという謎すぎる状況。でも教えるからには徹底的に。その後2時間ほどしっかり鍛錬した。


 そしてその夜、月がなく全く明かりのない夜、俺は深志城を脱出した。

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