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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 4章 『行く先を阻む包囲網』
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第170話 偽忍者と武田軍内部

 俺が目覚めてから2週間、いまだに武田軍が野田城から出陣する様子はない。俺としてはここから武田軍が出てくれないと脱出は難しいからさっさと出て欲しいんだが。まだ体は万全じゃないから激しい戦闘は出来ないし誰にもバレずに逃げたい。

 

 でもまあ武田がしばらくここに留まるのなら俺は体を回復させて、脱出の時に戦闘になっても大丈夫になるだけだ。ここ3食おやつ出て来る上に一日中寝てても怒られないしなかなか快適なんだ。


 そんなある日の夜、俺のいる病室に侵入者が来た。


「そこ、今俺の前方2メートルってとこかな。隠れている奴、出てこいよ」


 返事はない。でも確実にいる。俺は誤魔化されないぞ。俺が当てずっぽうで言ってるとでも思ってるのか?


「徳川からの忍びか? とりあえず出てこいよ。俺が坂井大助だ」


 家康が俺が武田に囚われたか確認するために放った忍者ってとこかな。俺の顔を知らないだろうからわざわざ名乗ってやった。

 するとついに全身黒装束、いかにも現代人が想像する忍者って奴が出てきた。


「織田軍総大将、坂井大助殿ですね。やはり捕らわれていましたか」

「ああ、殺されなかっただけマシだが、なかなかの屈辱だぜ」

「私について来てください。今すぐ脱出致しましょう」


 どうやら脱出の手助けをしてくれるらしい。でもあんな簡単に見つかる忍者、信頼できるとは思えない。そもそも足音や息音を消すという初歩の初歩の技術すらちゃんとしていない忍者、一体どこで修行したんだよ。忍者の里行って一年くらいの俺でも出来たぞ。


「その前に聞く。お前どこの忍者? っていうか名前聞いてないんだけど」

「伊賀の上忍、服部半蔵」

「お前上忍舐めんなよ」


 こんな雑魚が上忍な訳ない。しかも伊賀? コイツは嘘つきだ。俺は昼間こっそりくすねた短刀を持ち、即座に距離を詰め、喉元に短刀を突きつける。


「ヒッ!?」

「お前本当のことを話せよ。上忍ってのは忍者の中で最も優れた、一握りの存在しかなれない。お前如きが名乗っていい称号じゃない」


 さくら、保正、保朝、そして丹波。皆、俺が生きてきた中でトップ10に入る猛者たちだ。こんな雑魚と比べていいような相手じゃない。


「伊賀忍者ってのも嘘だろ。上忍の名を安易に語るような馬鹿はいない」

「ほ、本当に伊賀忍者なのです!! 父上は伊賀の上忍で俺も私もその家系だから上忍だと……」

「つまりお前は伊賀で修業はしていないと?」

「は、はい。父上に習った術とあとは天真正伝香取神道流の剣術を少々……」

「それは忍者じゃねえ。ただの忍者の家系から出た武士だ」


 っていうか冷静に考えればわかるだろ。何故修行してないのに上忍だと思ってたんだ。まあいずれこのバカに忍者が何たるかを教えてやるとして、今の本題は俺がこのバカを庇いながら武田から脱出しないといけない。まだ怪我が全然治っていないこの体で。

 ……出来なくはないがやりたくないな。わざわざそんなリスクを取りたくない。それに銃を奪われたままというのも気にくわない。


「俺は行かない」

「はぁ!? なぜ……?」

「理由はいろいろとある。一つ目、この体であんたと一緒に逃げんのは厳しい事。二つ目、俺の装備を取り返してから逃げたい事。三つ目せっかく武田軍の中に潜入できてるから情報を集めたい事。あとこれはついでなんだけど、体を完治させたら俺は武田信玄を暗殺してから逃げるつもりだ。まあ出来たらいいな、くらいの感じだけど」

「あ、暗殺?」

「だからもうちょっとここに留まりたい。行き当たりばったりで暗殺なんてほぼ間違いなく失敗するからな。武田信玄、有力家臣、信玄の護衛、俺の見張りの行動パターンを把握する」

「なるほど」

「こういうのが忍者なの」

「なるほど」


 ということで今日はお引き取り願った。あいつがかえる時ちょっと城門の方が騒がしくなった気もしたが気のせいだろう。夜中に、一人で脱出するのにまさか見つかるわけないよね?


 あいつと一緒に逃げなくて本当によかったわ。


 俺はそれから、武田軍内で武田家臣団の動きや見張りの入れ替わる時間帯、俺の武器がどこに持っていかれたかなどを調査していた。だが、事態は俺の想定外の方へ動いていく。


「出るぞォ!!」


 武田四天王・高坂昌信の号令で武田軍が野田城から出ていく。俺も両手を縛られ歩いていく。城から出てくれるのは嬉しいがその方角が俺の想定していたのと逆、武田軍は東へ向かって進軍している。


「どこへ向かってるんだ?」

「長篠城だと伺っています」


 長篠城、三河西端の要所だ。野田城より守りが固い。そんなところ入られたら脱出は相当厳しいぞ。だいたい俺は武田が西上し、尾張・三河の国境で織田軍と戦になる時に暗殺して抜け出すつもりだったのに。このままじゃ戦にならないぞ。そもそも武田の狙いは何だ?


 狙いなんて考えてもわからん。今はこの状況はどうするかだ。抜け出すなら移動中の今だが、武田軍だって俺に対して警戒を解いてくれない。しかもここは徳川領、武田も徳川を警戒して左右に軍を分けている。ここから抜け出すのは厳しい。だが長篠城に入られたらそれこそ脱出は絶望的だ。


 結論は様子見。長篠城に入った後の武田軍の動向を見ながら暗殺、脱出の隙を伺う。ただ捕まって情報も何も得られないで信長の所に戻っても、ダサいだけだしな。信長に馬鹿にされるのは勘弁だ。


《祈》


「大、敗……?」

「はい。徳川・織田の軍は三方ヶ原で武田軍と交戦し、多くの将を失う大敗北を喫したと」


 武田軍の中に潜入している上杉の間者からの報告に一瞬、祈は世界が暗くなったように感じました。


「そうか。案外早く決したな。籠城戦になると思っていたが」

「武田軍が城の前を素通りし、その背を討とうとした徳川軍が城外に出たと。それが武田の策だったのです」

「そうか。徳川家康はまだまだ経験不足だな」


 淡々と戦の状況を聞く輝虎さま。でも祈にはそんなことはどうでもいいです。大事なのは旦那様の行方だけ。


「あ、あの!! 旦那様、坂井大助様は? 織田軍総大将の……」

「坂井大助殿は武田軍に捕らわれています。武田四天王2人と武田の跡継ぎを同時に相手して力尽き、そのまま捕らわれたようです。武田信玄は家臣団に加えたいと考えているようですが、大助殿は断っていました」

「つまり、生きているのですね?」

「間違いございません」


 安心しました。旦那様は無事なようです。ならきっと大丈夫、絶対に旦那様は祈を迎えに来てくれる。


「祈は旦那様のお迎えをずっとお待ちしております」

「そうだな。奴が越後に来たら武田の情報を洗いざらい話してもらうこととしよう」


 



 





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